オンライン面接は、事前のマニュアル作成が肝!
――面接のオンライン化に伴い、なぜマニュアルの重要性が高まっているのでしょうか。
オンラインでは、「非言語的手がかり」が減るので会話がしにくくなります。非言語的手がかりとは、身振り手振りや表情など言葉以外の情報のことです。これらが減少すると、候補者を惹きつける力が弱くなります。その弱点を補うために有効な方法の1つが面接の構造化。つまり、マニュアルを作成することなのです。
面接の構造化とは、質問項目や評価方法などを事前に設計し、それをもとに面接を運営すること。運営マニュアルがあると、オンラインで会話や説明がしやすくなります。反対に、マニュアルを作らないで面接に臨むと、会話がちぐはぐになったりぶつかったりする可能性が出てきます。その結果、候補者をうまく惹きつけることができません。
――マニュアル化は対面の際も必要だったのではないでしょうか。
実は、対面の面接の場合は、構造化するとかえって惹きつける効果が下がる傾向があります。なぜならば、マニュアルに従ってかしこまりすぎると、候補者がテストをされているような感覚になったり、会話が不自然になったりしてしまうからです。
マニュアルに盛り込むべき項目とは?
――面接マニュアルに盛り込むべき項目を教えてください。
マニュアルに盛り込むべき項目は6つあります。順番に説明していきましょう。
(1)面接の心構え
面接において、候補者から「企業は攻略すべき相手=敵」と思われてしまうことは絶対に避けなければなりません。候補者が企業を敵だと認識すると、なかなか自己開示をしてくれないからです。そうすると、面接対策本の模範回答をなぞるような受け答えとなり、本音が見えてこないため、自社とのマッチングの精度を高めることができません。また、候補者側も自己開示をしていない企業には好ましい感情を抱きにくいため、結果的に入社意欲は高まりにくいでしょう。
候補者から敵だと思われる原因は、候補者と企業の目的がズレていることにあります。候補者は「自分に合った企業を選ぶこと」が目的ですが、多くの企業は「良い候補者を選ぶこと」が目的になっています。
面接の心構えとして最も重要なことは、攻略し合うことではなく、面接官が候補者と共通の目標を持つことです。「候補者が自分に合った企業を選ぶこと」を企業側の目的としましょう。例えば、候補者とのミスマッチを感じたら「うちの会社には合っていないが、他の会社ではあなたのこの特長を生かせるかもしれない」と伝える。そうした心構えをマニュアルに記しておきましょう。
(2)人材要件
面接の際に、明確な人材要件を定めていなかったり面接官に周知していなかったりする企業は少なくありません。しかし、人材要件を理解している面接官のほうがきちんと評価を行うことができます。
人材要件は、「必須要件」と「問わない要件」の2つに分けて整理しておくとよいでしょう。
「必須要件」は、最低限満たしておくべき能力や性格などのこと。「問わない要件」は、世間一般には評価されるけれど、自社では不要な要件を指します。例えば、「自社で働くのにハキハキとした明るい人柄である必要はない」などです。こうしたことを事前に面接官に伝えておくと、面接で見るべきポイントが焦点化できます。
(3)質問項目
人材要件に対応した質問項目を設定しましょう。「この能力を持っているか確認するために、この質問をする」というように、見極めたい要件に紐付いた質問になっていることが重要です。
質問項目は、「順番通りに聞く」ケースもあれば、「順番は問わないので、この中から3つ選んで聞く」というケースもあります。どちらでもよいですが、選択式の方が面接官の自由裁量が残り、進めやすいと思います。
(4)評価方法・合否基準
理想は、「どのような回答をすると何点」といった詳細な基準を作ることです。とはいえ、細かく作るにはリソースが必要なので、運用上は合格基準を事前に示しておくのがよいと思います。ただし、合格ラインの抽象度が高いと評価はしにくい。例えば、「人に気遣いができる」という要件は、どの程度のレベルを満たせばよいのか判断が難しいですよね。その場合には、「Aさんくらい気遣いができれば満点」というように、合格の基準となるような社内のメンバーを挙げておくと目線が合いやすくなります。
(5)面接から一定時間をおいて評価することの必要性
大前提として知っておいてほしいのが、人が人を評価するときにはバイアスが発生するということです。対面の場合はもちろん、非言語的手がかりが少ないオンラインであっても、バイアスの影響がゼロになることはありません。しかしながら、「こういうバイアスがある」と認識したとしても、残念ながらその影響をゼロにすることは難しいのです。
そこで大事なのが、「すぐに判断しないこと」です。ビジネスシーンでは、即座にジャッジすることが賞賛される傾向がありますが、実はその判断はバイアスによって下されていることも多い。バイアスを抑制するためには、一旦立ち止まる必要があります。
マニュアルに記述すべきは、「面接中に評価をしないでください」、あるいは「翌日夕方に評価シートに記入してください」など時間をおいて評価するという注意事項です。立ち止まって判断することで、バイアスの影響が抑えられます。
(6)面接時の休憩の取り方
補足事項として、「面接官は適度な休憩を取る」ことも記載するとよいでしょう。バイアス以外に面接の評価の精度を下げる要因となるのは疲れです。オンライン面接は、相手に伝えようと意識するあまり対面よりも声が大きくなる傾向があります。さらに自分の姿が見えていると、人は無意識に画面上の自分を評価しようとします。その評価に情報処理能力を使ってしまい、疲れたりパフォーマンスが下がったりするのです。
だからこそ、適度な休みを取り入れることが重要になります。マニュアルには、連続して面接を行わないなどの注意事項を記載するとよいでしょう。
【マニュアルに盛り込むべき項目】
- 面接の心構え
- 人材要件
- 質問項目
- 評価の方法(合格基準)
- 面接から一定時間をおいて評価することの必要性
- 面接時の休憩の取り方
面接官へのマニュアル周知方法
――作成したマニュアルはどう面接官に周知していくとよいでしょう。
マニュアルを読んでもらうために必要なのは、関心と知識です。これらがなければ、人は情報を流し読みします。面接マニュアルをきちんと読んでもらうためには関心と知識をともに高めていく必要があるのです。
――面接官の関心と知識を高めていくポイントを教えてください。
ポイントは、自社における採用の重要性とあなた(面接官)が行う面接にはどういった意味があるのかを口頭で説明することです。これにより、採用や面接への関心が高まります。そして、採用はどのようなプロセスで進むのかなど基本的な知識を伝えることも重要です。
マニュアルを読み合わせるだけでは頭に十分に入ってこないので、採用の重要性と基本知識を伝えてからマニュアルを説明する。このステップを意識することが大切です。また、1回で定着することはありませんから、定期的に、しつこく、説明を続けていきましょう。
マニュアル見直しのポイントとは?
――一度作成したマニュアルは定期的に見直した方がよいのでしょうか。
はい、少なくとも採用活動がひと段落したタイミングで年に1回見直しを図りましょう。オンライン面接が導入されたばかりの現在のようなタイミングでは、もう少し短いスパンで見直して修正してもよいと思います。
採用工程の途中で修正すると、今までの評価基準とブレてしまうのではないかと不安に思うかもしれませんが、良くない評価基準を使い続けているよりはよっぽどマシです。一刻も早く改善しましょう。
――マニュアルを見直す際のポイントはありますか。
採用担当者だけで見直そうとするのではなく、面接官を巻き込むとよいでしょう。不明点に線を引いてもらったり、疑問点を書き出してもらったりしながら修正していく。そうすることで、使い勝手のよいマニュアルとなっていきます。面接後すぐに面接官にヒアリングして、修正を挟むというフローもありますね。
面接のマニュアルは、作成→周知→見直し→修正・作成→周知というサイクルを回し、ブラッシュアップしていくことが大事です。改善を重ねながら、自社に合ったマニュアルを構築していきましょう。
<取材先>
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『オンライン採用:新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。
TEXT:佐藤智(レゾンクリエイト)
EDITING:Indeed Japan + ノオト