コロナ禍における採用現場の混乱
――伊達さんは企業の採用担当者の話を聞くことが多いと思います。現在の採用現場の状況を教えてください。
2020年は、新型コロナウイルス感染症による混乱に対応していくことで精一杯でした。採用活動の途中段階で、「まずは乗り切ろう」と必死にもがいた企業が多かった印象です。混沌とした1年を耐え抜き、現在は採用のオンライン化に向き合うゆとりが出てきつつあると感じています。
採用は、候補者という社外の人を対象とする活動で、口コミなどが拡散する可能性もあり、より慎重な対応が求められます。感染拡大が続いている状況下で「会社に来てください」と伝えれば、候補者にネガティブな印象を与えかねません。コロナ禍の収束目処が立たないうちは、よほどの理由がない限り、採用を全面的に対面に戻すことは考えにくい。これからも、オンライン化にいかに対応していくかは採用担当者の大きな課題となるでしょう。
――採用を進めていく中で、オンライン面接の効率性に気付く企業も多かったのではないでしょうか。
そうですね。例えば、採用担当者は地方まで説明会や面接に出向く必要がなくなりました。移動時間と交通費が削減されたことで、これまで様々なコストが費やされていたのだと改めて気付いた方は多かったようです。これは、わざわざ企業のオフィスに行く必要がなくなった候補者にも同じことがいえます。
便利さを感じる一方で、全面的なオンライン化に踏み切れている企業はほとんどありません。大多数の採用担当者が、対面とオンラインを組み合わせるハイブリットな採用方法を思案しています。
対面とオンライン、それぞれのメリット・デメリットとは?
――ハイブリットの面接を実施するには、まず何から始めればよいのでしょうか。
それぞれのメリット・デメリットを知る必要があります。対面とオンラインの特徴を比較する際に、キーワードとなるのが「非言語的手がかり」です。非言語的手がかりは、身振り手振りや表情、物理的配置、姿勢など言葉以外の情報を広く指す概念です。これらに注目すると、オンラインと対面の特徴が浮かび上がってきます。
オンラインの場合、カメラに映り込んでいない情報は削がれてしまいます。つまり、非言語的手がかりが対面よりも少ない。この「非言語的手がかりが得られにくい」という特徴が、オンライン面接のデメリットであり、かつメリットでもあるのです。
――メリット・デメリットどちらの側面もあると?
まずは、オンライン面接のデメリットからお伝えします。それは、候補者の志望度を高める「惹きつけ」が弱いことです。候補者が面接において手応えを得られにくいことが、その要因です。
――なぜ、手応えが得られにくいのでしょう?
1つ目の理由は、非言語的手がかりが減ると、会話がしにくいからです。オンライン面接で会話がぶつかった経験はありませんか。会話が上手く成立しないと、候補者は「自分の能力をきちんと発揮できなかった」と感じます。さらに、人には自分の能力を発揮しきれないと、環境のせいにする傾向があります。面接の場合でいうと、候補者が面接官や企業に対してポジティブな感情を抱きにくくなり、結果的に志望度が高まらないのです。
2つ目の理由は、非言語的手がかりが限られて、「同調」が難しくなることです。同調とは、相手が大きな動きをしたら自分も大きな動きをするといった行動をシンクロさせることです。人は、同調している相手に対して信頼したり好意を持ったりと高く評価する傾向にあります。オンラインではこうした同調が起きにくいのです。
――一方で、メリットもあるのでしょうか。
オンライン採用のメリットは、候補者の適性を評価する「見極め」の確度を高められることです。非言語的手がかりが少ないことで、相手の話に集中しやすく、能力やスキルをきちんと評価できます。
逆にいうと、これまでの対面の面接ではきちんと評価ができていなかった。対面のように非言語的手がかりがあると、そちらに意識が向かい、相手が語っている内容や能力が度外視されてしまう傾向があります。
例えば、ジェスチャーが大きくて明るそうに見える人や第一印象が良い人は面接の評価が高くなります。対面では、「コミュニケーション能力が高そう」「雰囲気がいい」「きちんとしている」などの要素が判断に影響していたのです。
――オンラインのメリットは、対面のデメリットを補うものだったのですね。一方で、対面のメリットは何でしょうか。
対面の場合には、非言語的手がかりが得られるので惹きつけが効果を発揮します。非言語的手がかりには、感情を伝えたりコミュニケーションを円滑にしたりする効果があるからです。候補者側は「この会社いいな」と感じやすいし、企業側も「この候補者いいな」と思いやすいのです。
オンラインと対面の面接をどう組み合わせる?
――オンラインと対面を組み合わせる上でのポイントを教えてください。
これまでは対面が当たり前だったため、その「良さ」や「限界」について考えもしませんでした。ところがオンラインという手段が出てきたことで、「対面の理由」が意識されるようになってきています。
ひとつ、例え話をしましょう。ある時、私は胃痛で1週間お粥しか食べられない時期がありました。その後回復して、久しぶりにうどんを食べたらあっさりした味付けなのに、すごく濃い味に感じたのです。
候補者がオンラインの面接を続けて受けた後に対面の面接に臨む場合、これと同様のことが起こると考えられます。面接官の雰囲気や働いている人たちの様子など非言語的手がかりがあふれ、より濃く対面の印象が残るようになるのです。オンラインと対面の特徴的な違いだけでなく、組み合わせ方によっても体験の味わいが変わるはずです。
――よくある対面とオンラインの面接の組み合わせを教えてください。
現段階では、採用活動の後半に対面の面接を設けている企業が多く見られます。それには様々な理由があると思いますが、一つには後半で面接に当たる役員のオンラインスキルが高くないため、慣れ親しんだ形式にしたいという制約があるでしょう。また、自社の志望度を引き上げる目的で対面を後半に設定することもあります。非言語的手がかりが得られる対面ならば、応募者へ与えるインパクトは強いですからね。
――これから、業種の違いなどで対面とオンラインの組み合わせ方が変わる可能性はありますか。
十分にありえるでしょう。対面とオンラインの面接の組み合わせ方により、候補者惹きつけの効果や企業と候補者のマッチングの精度が高まる可能性がある。現段階では、「正解」が出ていないため挑戦のしがいがあると思います。
先ほど申し上げたとおり、今は採用の序盤はオンラインで、後半は対面で面接を行う企業が多いですが、今後は自社に合ったオリジナルの組み合わせを模索する企業が出てくるでしょう。組み合わせの妙を発揮した企業が、一気に採用強者となるケースもあるかもしれません。
「ハイブリット面接」を成功させるには?
――「ハイブリット面接」を成功させるためのポイントを教えてください。
ポイントは3つあります。1つ目は、他社の動きをよく観察することです。競合分析は、マーケティングでは当たり前ですよね。同様に採用においても他社がどのような面接を実施しているか、情報収集する必要があります。
2つ目は、採用にかけられる予算や人的リソースをどうやりくりするか設計することです。特に、リソースが限られている中小企業やスタートアップでは、手当たり次第試してみることはできませんよね。設計は、採用段階だけでなく、候補者を社内に受け入れるまでを視野に入れる必要があります。
3つ目は、八方美人になる必要はないということです。中小企業は入社人数も限られていますから、100人に1人猛烈に自社のことを気に入ってくれる人がいれば十分です。たくさんの候補者を集めて、その全員によく見せる必要はないのです。
そのために大事なことは、自社の実態を伝えることです。自社のリアルな状況に対して、「良い」と思う人がいるはずです。例えば、「車を運転する」という条件をマイナス事項としておっしゃる企業の方もいますが、候補者の中には車の運転が大好きな人もいるのです。採用の場合は、マス向けではなく、少人数に受け入れられればいい。企業のリアルを伝えることが、差別化につながるのです。
<取材先>
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『オンライン採用:新時代と自社にフィットした人材の求め方』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。
TEXT:佐藤智(レゾンクリエイト)
EDITING:Indeed Japan + ノオト