休日出勤、チラシ配布……塾講師の意外な離職理由
――はじめに、塾講師の離職状況についてお伺いします。「塾講師は離職率が高い」といわれていますが、実際のところはどうなのでしょうか?
厚生労働省が発表している「新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)」によると、教育・学習支援業の就職後3年以内の離職率は、大卒が45.9%、高卒が58.0%となっています。全産業の平均は、大卒が32.0%、高卒が39.2%なので、かなり高い数字です。
ここでいう「教育・学習支援業」には通信教育や図書館なども含まれるため、いわゆる学習塾だけを指しているわけではありません。ただ学習塾の割合が高いので、おおむねこの数字に近い値と考えてよいでしょう。
――塾講師は、なぜ離職する人が多いのでしょうか? 辞める理由として考えられる要因を教えてください。
入社後すぐ陥ってしまう離職の原因は、「授業以外にやらなければならない業務量の多さ」と「生徒集めの大変さ」、この2つが考えられます。「学習塾の講師=授業だけやればいい」と思っている人が多いのですが、そうではありません。経営に関連する事務作業や、生徒募集のチラシ配布など、授業以外の業務もたくさんあります。
離職者の本音を推測すると、「事務や営業をやりたくないから塾講師になったのに。自分が望んでいない業務が予想以上に多くて嫌になってしまった」というところでしょう。
――授業や生徒の成績をアップさせることにやりがいを感じて入社したのに、それ以外の業務が多い、と。つまり、理想とのギャップを感じる人が離職してしまうのですね。
あとは、休日出勤の多さも離職理由として挙げられます。ほとんどの人は、メインで働く時間帯が夜遅くなってしまうことについては理解しているでしょう。しかし、休日出勤までは想像していません。
というのも、多くの進学塾では土日に入塾説明会が組まれます。保護者の都合を考えると、やはり説明会の平日開催は難しい。そうすると、講師側は休日出勤せざるを得ません。
そのほか、保護者対応の難しさが離職の原因となる場合もあります。
――保護者から「うちの子どもの成績がなかなか上がらない」といったクレームが来るのでしょうか?
それはまだ自分次第と思えるので、許容範囲内でしょう。よくあるのが、前任者の尻ぬぐいをさせられるパターンです。
新人は、前に辞めた講師の代わりに配属されることが少なくありません。しかし、前任者が辞めたということは、塾の内部で何らかの問題やトラブルが発生していた可能性があるのです。
前任者の不手際など、自分とはまったく関係のないクレームが保護者から入ったとしても、やはり謝らなければなりません。そういった状況が続くことで疲弊し、やがて離職してしまうのです。
塾講師にとって大切なのは責任感 面接でチェックすべきポイント
――採用担当者は、長く働いてくれる人をどう見極めればよいのでしょうか。塾講師に向いている人に見られる特徴があれば教えてください。
たとえば、代休を取得した上で土日に実施される研修を許容できるかどうか等、働き方や業務内容に対して柔軟に対応できる人が、塾講師に向いていると思います。
――離職理由の話で挙がった「授業以外の業務を許容できるかどうか」とも重なるポイントですね。では、面接で具体的にどのような質問をすればいいのでしょうか?
個別指導塾を例に挙げると、「大学生のアルバイト講師が試験期間中は、休みを増やしてあげたい。一方で生徒のことを考えれば、受験対策の授業をしなければならない。どうすればいいと思いますか?」と質問してみます。
どちらも大切ですが、やはり塾の経営者としては、生徒のための授業を優先したいと考えるでしょう。塾側と応募者の価値観に大きなズレがないかどうか、判断する必要があります。
また、学習塾は放課後がメインの勤務時間帯となるため、おおむね昼過ぎに出勤して深夜0時ごろに家へ帰る生活になります。ほとんどの応募者は理解しているはずですが、面接時に改めて「夜型の働き方」に対する姿勢や考え方を聞いておくとよいでしょう。
――夜型の働き方は、本人はもちろん、家族の理解を得る必要もありそうですよね。ほかに注意すべき点はありますか?
責任感を持っている人かどうかは、チェックすべきポイントです。もし中学3年生を受け持っている場合、3月末に生徒が卒塾するまで責任を持って教える覚悟が求められます。年度の途中で辞めたいと思ったとしても、病気等やむを得ない事情以外は、残り数カ月間を我慢し続けることができるかどうか。塾業界の特性として、講師が年度の途中に辞めることは極力避けなければいけません。
塾講師は1年の単位がとてもはっきりとした仕事です。生徒を送り出すまでは、きちんと責任を持つことを問われますから。中途半端な時期に辞めてしまうと、塾はもちろん、生徒にも迷惑がかかります。「最低限、年度末までは続けよう」という意識や責任感を持っている人かどうかは、過去の経験を聞き出しながら面接で細かく確認する必要があるでしょう。
生徒を教えるスキルは、入社後でも身につけられる
――塾講師は、学力やコミュニケーション能力など、一定以上のスキルを求められるイメージがあります。面接の前後に筆記テストや実技試験を実施したほうがいいのでしょうか?
正社員の場合は、一般的な適性検査を実施するケースがあります。アルバイト採用では、軽い筆記テストを課すぐらいでしょうか。それも、難易度の高い問題ではありません。しっかりとした実技試験を実施する塾はかなり少数だと思います。
――教育に対する意識やスキルは、それほど重要ではないということですか?
教育への意識が高いほど良いと思われがちですが、そうでもありません。なぜなら、意識が高すぎると、事務作業や生徒集めのためのチラシ配布など、授業以外の業務を嫌がる傾向が表れるからです。
また、生徒に勉強を教えるためのスキルは、入社後でも十分身につけることができます。教育の質よりも、ちゃんと声を出せるかどうか、最低限のコミュニケーション能力があるかどうか判断するくらいでよいでしょう。
ただし、高校生向け(大学受験)の塾講師は、各科目に特化した教務スキルが必要となります。また小学生向け(中学受験)となると、応募者自身も中学受験をしたかどうか、その経験の有無はチェック項目になるでしょう。
――教える相手が小学生か中学生か高校生かによって、求められる経験やスキルが変わるのですね。面接のあと、内定者に対するフォローについてはいかがでしょう?
内定辞退を防ぐために、内定者向けの研修や模擬授業を行うケースが多いですね。塾業としての基本的な知識をインプットしつつ、入社までに接点を複数回持てば、内定辞退を避けることができるでしょう。
<取材先>
株式会社船井総合研究所 犬塚義人さん
船井総合研究所における、学習塾・専門学校・カルチャースクール・資格スクール業専門のコンサルタント。船井総研内のスクール・教育業分野のコンサルティングチーム「スクール高等教育グループ」のグループマネージャーをつとめている。
船井総合研究所/スクール経営コンサルティング
https://www.funaisoken.co.jp/smart_plan/school/
スクール業界、学習塾業界の最新動向/犬塚義人のブログ
https://s-inuduka.funai.site/
参考:
厚生労働省『新規学卒就職者の離職状況(平成28年3月卒業者の状況)』
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177553_00002.html
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト