介護業界はなぜ人手不足なのか? 需要と供給の関係、人材不足の実態と課題

介護業界のコンサルを行っている株式会社Join for Kaigoの野沢悠介さん

介護の仕事といえば、「人の役に立つ」「社会貢献」といったポジティブな側面がある一方、「給与・待遇があまりよくない」「仕事がキツい」など、ネガティブなイメージが先行しがちです。そんな介護業界はいま深刻な人手不足で、各事業所は採用に苦労しています。いったいなぜ、働き手が集まらないのでしょうか?
 
介護業界の採用における実情と課題について、有識者にお聞きしました。お話しいただいたのは、介護法人を対象とした採用・育成支援を行っている株式会社Join for Kaigo取締役の野沢悠介さんです。

求人を掲載

需要と供給のギャップ、給与・待遇 etc. 介護人材が不足している理由

 ――様々な業界で採用難が叫ばれる中、特に介護業界の人手不足は深刻化しているようですが、その理由はなんでしょうか
 
実は「2000年以降で最も人数が増えた職種は介護職員」というデータもあるくらい、介護職員の数は増加傾向にあります。にもかかわらず、慢性的に人材不足の状況が続いています。理由の一つとして挙げられるのは、需給と供給のギャップ。高齢化が進み、介護サービスを必要とする人の伸び率が非常に高くなっています。需要の拡大が急すぎて、供給が追いついていないのです。
 
一方で、介護業界には構造的な課題もあります。それは、給与が他職種と比べて低いこと。決して各事業者が給与を抑制しているわけではなく、介護保険制度で売上の上限が決まっていることが大きな原因の一つです。
 
――給料を上げたくても上げられない制度になっている、ということでしょうか?
 
そうです。たとえば、「訪問介護でこのサービスを実施したら○○円」「この介護度の方が老人ホームを利用すると1日○○円」など報酬単価が決まっているため、介護保険内のサービスでは自由な価格設定が難しいのです。また、「売上を伸ばすことで、他の施設よりも給与を高くしよう」といった施策も難しい業界といえます。
 
さらに3年に1度、介護サービスに対して支払われる料金の報酬改定が行われていますが、たとえば「3%マイナス改定」になると、同じ仕事をしていても事業所の利益は3%落ちてしまいます。年金や医療費など社会保障費がどんどん増大するにつれて緊縮財政になっているため、介護の報酬もなかなか上げられないのが実情です。
 
こういった状況は国も把握しており、職員の給与に使える部分の加算をプラスにするなど、待遇改善の動きはあります。しかし他業種と比較すると、まだ給与・待遇面で難があるといえるでしょう。
 
――あまり稼げないとなると、働き手はどうしても他業種に目移りしてしまいますね。
 
決してすべての介護事業者の賃金が低いというわけではありません。都心部では特に働き手が集まらないこともあり、大卒初任給で30万円以上、年収400万円以上といった待遇で募集をしている会社も出てきています。
 
ただ、ここ数年は他の業界も人手不足で、求人が活発になっていますよね。働き方改革も進む中、「あえて介護を選ばなくても、もっと条件がいい別の職を探したい」と他業種へ流れてしまっているのかもしれません。また、介護に対するネガティブな印象も、少なからず影響しているでしょう。
 
――確かに、介護=給料が安いわりに大変な仕事、というイメージはあります。
 
メディアで取り上げられる際も、「介護現場の過酷な実態」「あなたの老後は大丈夫?」といったネガティブな側面ばかり強調されることが多いですよね。本当は「人の役に立つ」「社会貢献」などポジティブな要素もあるのに、なかなか報道されません。
 
その半面、介護業界側の発信が弱いという課題もあります。福祉事業に携わる人は、「誰かに褒められたくてやっているわけじゃないから、それを前面に押し出すのも……」という謙虚な気持ちが強い。つまりPRが得意ではないのです。
 
採用に関しても、「良い事業をやっていれば、誰かがきっと理解してくれる」と考え、採用活動に消極的になってしまう傾向があります。本当は自社の取り組みをもっとPRして、広く知ってもらわなければ人は集まりません。ところが現実は、求人情報をハローワークに出して終わり、数年前の情報がそのままになっているケースもある。いわば「待ちの採用」になっている事業者が多いのです。
 
介護従事者現場
 
約38万人が不足する? 介護業界が取り組むべき施策は

 
――介護業界の人手不足は今後も続いていくのでしょうか? 展望と課題についてお聞かせください。
 
2025年には、いま日本の中で最も人口が多い団塊の世代が75歳、いわゆる後期高齢者に突入していきます。それに伴い、介護保険の要介護認定を受ける人も急激に増加すると予想されています。厚生労働省の試算によると、2025年には37.7万人の介護人材が不足する見込みです。
 
この問題は2025年だけの話ではなく、その後もずっと続きます。外国からの人材受け入れやITの活用、介護ロボットなど新しい取り組みも始まっていますが、それで人手不足を解消できるかどうかはわかりません。個人的には、かなり厳しいのではないかと考えています。
 

厚生労働省「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」より抜粋(2015年6月発表)
厚生労働省「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」より抜粋(2015年6月発表)
 
――人手不足を解消するためには、どうすればよいのでしょうか?
 
介護業界は、人材を増やしていくための「採用」と「定着」にもっと力を入れていく必要があります。一方で、ITツールなどを活用し、今よりも少ない人数で多くの方を適切にケアできるような業務改善も求められるでしょう。
 
個別に見ると、魅力的なサービスや働きやすい環境を整えることで人が集まる事業者と、そうでない事業者の差がますます広がるのではないか、と考えています。 

 
Indeed (インディード) | はじめての求人投稿、初期設定を電話でサポート! | 詳しくはこちらIndeed (インディード) | はじめての求人投稿、初期設定を電話でサポート! | 詳しくはこちら

どうケアすればいいか考え続ける――介護は「正解がない」仕事

 ――今後ますます介護人材が求められる状況になっていくのですね。どんな人が介護の仕事に向いているのでしょうか?
 
介護の仕事で最も重要なポイントは、「相手に興味を持って関われるかどうか」ではないかと私は考えています。もちろん「おじいちゃん、おばあちゃんが好き」「人の役に立ちたい」といった意識も大事だし、専門的な知識や技術も必要でしょう。ただ、介護は非常に個別性が高い仕事なんです。
 
高齢者の場合、80年、90年と積み重ねてこられたこだわりや、「こんなふうに暮らしたい」など個別の要望があります。加えて介護においては、現在の身体状況や認知症、病気の影響も考慮しなければなりません。つまり、「こういうケアをすれば、どんな高齢者でも安心安全、満足のいくサービスを提供できます」という正解がないのです。
 
高齢者のお身体の状態は、日々変化します。たとえば歩行や動作など、今日できていたことも1カ月後には難しくなるかもしれない。そのため、本人は何を望んでおられるのかを聞き、どんなアプローチができるか、常に考えていかなければいけません。
 
――「排泄介助が大変」「体力が必要」というイメージが強かったのですが、それだけではないのですね。
 
現場にいる介護士の方に話を伺うと、「本人の要望を聞きながら、状況に合わせてどのようなケアすればいいか。それを考え続けるのが一番大変だ」という声をよく耳にします。逆にいうと、日々のちょっとした変化や心の動きを探ることが面白い、楽しいと思える人は、介護の仕事に向いていると思います。
 
介護の仕事は、「誰でもできる」という意見と、「誰でもできる仕事ではない」という真逆の意見があります。老人ホームや介護施設の場合は資格がなくても働けるので、経験ゼロから始められるという意味で「誰でもできる」。一方で、覚悟を持って根気強く人と関わる必要があるため、「誰でもできる仕事ではない」ともいえます。
 
――お話を聞いて、「実際にやってみないと分からない部分も多いのかな」という印象を受けました。
 
そうですね。もし「まったくの未経験だけど、介護を始めてみたい」と思っている方は、興味のある施設へ行って見学してみるといいでしょう。1日体験やボランティアなど、現場に触れる機会を持てば、自分に合う、合わないがある程度は判断できると思います。
 
最近は見学や職場体験、ボランティアを歓迎している事業所も増えています。施設側の立場で考えると、介護に興味のある人を気軽に受け入れられる体制を整えていくことも大切ですね。

 
 
 
<取材先>
株式会社Join for Kaigo 取締役
野沢 悠介(のざわ ゆうすけ)さん
https://kaigohr.com

 
参考文献:
厚生労働省「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/270624houdou.pdf_2.pdf

 

TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 
Indeed (インディード) | 日本で世界でNo.1 Indeedで求人掲載してみませんか | 詳しくはこちらIndeed (インディード) | 日本で世界でNo.1 Indeedで求人掲載してみませんか | 詳しくはこちら
 
“マンガで解説 

求人を掲載
準備はできましたか?求人を掲載

*ここに掲載されている内容は、情報提供のみを目的としています。Indeed は就職斡旋業者でも法的アドバイスを提供する企業でもありません。Indeed は、求人内容に関する一切の責任を負わず、また、ここに掲載されている情報は求人広告のパフォーマンスを保証するものでもありません。