介護現場をとりまく現状。なぜ介護業界は人手不足なのか?
厚生労働省の資料(※2)によると、介護業界の人手不足が深刻化しています。また、介護労働安定センターの調査(※3)によると、多くの介護サービス事業者が人手不足の理由を「採用が困難である」「離職率が高い(定着率が低い)」「事業拡大により必要人数が増大した」と回答しています。
ここでは人手不足の理由をそれぞれを詳しく解説します。
◆ネガティブなイメージと離職率の高さ
介護業界の離職原因で多いのが、「きつい仕事が多い」「給与水準が低い」といった仕事内容や待遇に対する不満です。これらのネガティブなイメージが世間にも浸透しており、人材が集まりにくく採用が困難になっていることが考えられます。
また、「介護業界の給与が他職種と比べ安い」という問題がありますが、これは決して各事業者が給与を低く抑えているわけではないようです。介護保険制度によってスタッフのサービス内容や、サービスを利用する方の介護度などに応じて報酬単価が決まっているなど、構造的な課題があります。
加えて、介護業界全体として情報発信が苦手という側面も人材不足に影響していると考えられています。
介護業界の人材不足について、より詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
介護業界はなぜ人手不足なのか? 需要と供給の関係、人材不足の実態と課題
◆増え続ける介護現場の人材ニーズ
多くの事業所が人手不足を実感していながらも、実際のところ「2000年以降で最も人数が増えた職種は介護職員」と言われるほど、介護職員の数は増加傾向にあります。
こうした認知ギャップの理由として真っ先にあげられるのが、日本全体の高齢化です。つまり、介護サービスを必要とする人が増え続けているために人手不足が生じてしまっており、介護職員の供給が追いついていないというのが実情のようです。
また介護需要の高まりにより、2025年には必要となる人材数が2019年度の211万人に比べて約32万人増加の約243万人になると予想されています。今後も増え続けるサービス需要を満たすだけの人材を提供できるかどうかが、懸念されています。
介護職が長く働ける環境を作るためのポイント
先ほど離職率の高さに触れましたが、慢性的な人手不足が続く介護業界では、スタッフに長く働いてもらうことが重要です。長く働いてもらうメリットは、人手の確保だけでなく、以下のようなメリットも挙げられます。
◆育成コストの削減につながる新人教育
スタッフの採用や新人の育成には一定のコストがかかります。頻繁にスタッフがやめてしまっていてはその都度お金だけでなくリソースも消費してしまうことになるため、長く働いてもらうことはコスト削減につながると言えるでしょう。
新人教育は、職場定着率に影響を与えます。右も左も分からない新人を放置してしまったり、無闇に厳しい叱責を行ったりしてしまえば、たちまち辞めてしまうことも珍しくありません。新人が習得すべきことは何なのかをはっきりさせた上で、スキル向上の進捗を記録し可視化することで、新人の成長に寄り添うようにしましょう。
◆サービス品質の向上には職員のストレスケアが重要
介護職では、利用者の要望を深く理解し信頼関係を構築することがサービスの質につながります。そのためには長く勤めるスタッフが不可欠です。逆に新人がすぐに辞めてしまう環境では、新人教育に手間がかかり、利用者のケアが疎かになってしまう恐れもあります。また担当の介護士が辞めると悲しんでしまう利用者も少なくありません。
良い人材に長く働いてもらえる環境作りには、スタッフへのヒアリングが重要です。職員がどのような不満を持っているのか、今後どんなキャリアを歩みたいのかを、きちんと把握するようにしましょう。
若手職員の定着は、仕事を続ける上で自身の成長モデルをイメージできるかが重要とされてきました。しかしその一方で、キャリアアップをあまり強くは望まない若者も近年では増えてきています。大雑把に類型化せず、その人自身からしっかりと話を聞き、職場環境を作ることが大切です。少しずつだとしても、自身の意見が反映されて仕事環境が良くなっている実感を持てるかどうかが、スタッフのモチベーションにつながります。
・ありがちな不満
どの現場でも多く挙がる不満のひとつとして、度重なる夜勤があります。採用時には「夜勤は週に1度だけ」と聞いていたのに、人手不足を補うためにそれ以上に対応することになってしまうケースなどがその代表例です。スタッフの補充だけでなく、業務工程の改善などの対策を施し、本来の業務に集中できる環境を作りましょう。
介護スタッフが長く働ける職場づくりについて、詳しくはこちらをご覧ください。
介護士が長く働ける環境をどう作る? 定着率の高い介護施設が実践していること
介護業界が採用活動を成功させるコツ
それでは、人材採用が困難な状況下で、長く働いてくれる人材を見つけ採用活動を成功させるにはどのような工夫が必要なのでしょうか?採用活動を成功させるコツを紹介します。
◆自社の環境・風土に合わせて採用基準をつくる
面接を含めた選考の結果、「特に問題点があるわけではない」という判断からその人材を採用するというケースもあるでしょう。しかし、自社やその職場環境に合う人材かどうかをしっかり確認しなければ、短期で離職してしまう危険性が増してしまいます。
たとえば、自社がアットホームな職場環境の場合、快く感じる人もいれば、距離感が近すぎてやりづらいと感じてしまう人もいます。
会社と求職者のミスマッチを防ぐためにも、自社の職場環境に合うのはどのようなタイプの人なのかを事前に整理し、面接時のチェック項目としてリストアップしておくのがおすすめです。
一般的な面接テクニックとして紹介されがちな「転職回数」や「履歴書のNG記載内容」なども1つの基準として見つつ、独自の基準を作成することをおすすめします。
面接のポイントについて、詳しく知りたい方はこちらをご参照ください。
長く働いてくれる介護士を見抜く面接術
◆未経験者でも働ける、キャリアアップもあることを訴求する
介護業界では、介護ヘルパーなど、職種によっては未経験者も積極的に採用しています。未経験者でも就業可能な職種の場合、興味はあるが経験や資格がないことを理由に応募に踏み込めないでいる人向けに、未経験者でもOKである点をアピールしましょう。
また、資格取得に実務経験を要する「介護福祉士」や「ケアマネージャー」といったより高度な資格取得へとキャリアアップする道が開かれていくことも、1つの魅力として伝えることができます。
◆残業がない(あっても少ない)場合は積極的に訴求する
同調査(※3)において、正規職員の1週間の残業時間数は、「残業なし」が48.4%と約半分
近くを占めています。
また、訪問介護員、サービス提供責任者、介護職員、介護支援専門員の4職種別で見てみても、「残業なし」が最も高く、とくに訪問介護員と介護支援専門員は5割を超えており、非正規職員は「残業なし」が74.2%と7割以上が残業がないことを示しています。
残業の有無や残業時間の長さについては、その介護サービスの種別や職種、正職員とパートといった立場の違いによっても異なりますが、実際に求人を出す募集職種では残業がない、あるいは少ない場合は、1つのメリットとしてアピールするとよいでしょう。
介護職採用の求人情報を作成する際のコツ
◆社内で採用基準の認識をすり合わせる
採用基準は、経営者、人事、現場社員が認識を統一させることが大切です。認識のすり合わせをしないまま採用活動を進めると「人事による一次面接を通過した人材が、経営者による最終面接を通過しない」という可能性があります。また、現場で求められている人材でなければ採用になったとしても上手く馴染めず早期退職になるという事態も起こりかねません。
効率よく人材を集めるためにも、求める経験やスキル、資格などはしっかりと社内で打合せをして詳細に決めておきましょう。
◆求める人材を明確に記載する
求人情報はターゲットに応じて書き分けます。極端な例ですが、若手人材を求めているのにも関わらず「シニアが活躍できる職場です」と記載していては若手からの応募は見込めません。
求めている人材にとって、どのような情報を記載すれば魅力的だと捉えられるのかをしっかりと見極めた上で、簡潔な内容で最大限アピールできるよう意識しましょう。
たとえば、「未経験歓迎」とうたうのであれば、社内でどのようなサポート体制がどのように整っているのかや、働きながら資格取得が目指せるのかなどを記載すると求職者も採用後のキャリアを想像しやすくなります。
◆募集人材に応じて掲載媒体を選ぶ
求める人材がどのような掲載媒体にアクセスしているのかは、求人を成功させるために重要な要素です。
たとえば新聞の折り込み広告は、アルバイトから正社員採用まで幅広くカバーできる手段ですが、自社が若手人材の採用を検討している場合、折り込み広告よりもネットの求人検索エンジンに掲載するほうが期待する効果を得やすいでしょう。
どのような人に応募して欲しいのかを明確にした上で、しっかりと掲載媒体を見極め、媒体に応じた内容で求人情報を掲載することが大切です。
◆写真や文章で仕事内容をアピールする
職場の雰囲気が最も伝わるのは、現場で働いている人の写真です。職員の集合写真や働いている姿を掲載することで、職場の雰囲気がより伝わりやすくなります。
また、先輩職員からのメッセージも訴求力があります。特に、業界未経験で就職したスタッフの経験談は、未経験者の共感を高めて応募のきっかけを作る上で、非常に説得力があります。
◆ブログやソーシャルメディアの活用
単発の求人情報や広告だけでなく、ブログやソーシャルメディアを利用した継続的な情報発信も検討してみましょう。
求職者が知りたい情報を見極めながら、継続的に情報発信をすることで「自社の特徴や強み」をアピールできるだけでなく、職場環境の信頼性の獲得にもつながります。同じ業界だけでなく、他業界の情報発信の方法を参考にしてみることもおすすめです。
介護士の採用成功に結びつく求人情報づくりについて、詳しく知りたい方はこちらをご確認ください。
介護士の採用に成功している介護施設の共通点
◆体験入社で介護業界への理解を深める
体験入社とは、一定期間実際に介護職を体験してもらいながら、仕事や業界への理解を深めることを目的とした考え方です。業界未経験者に興味を持ってもらうきっかけになるだけでなく、通常の会社説明会〜面接というプロセスではうかがい知ることのできない、応募者の側面を見られるというメリットもあると言われています。
まとめ
慢性的な人材不足に悩む介護業界ですが、その焦りからか行き当たりばったりの求人をしてしまっている事業者も少なくありません。求める人材象の確認や自社の分析など、一度求人のための基本に立ち返った上で、他業界のトレンドや成功事例を確認しながら、より優秀な人材の獲得を目指しましょう。
※1 厚生労働省「一般職業紹介状況」(2022年2月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11602000/000916249.pdf
※2 厚生労働省「介護分野の現状等について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000489026.pdf
※3公益財団法人 介護労働安定センター 令和2年度「介護労働実態調査」結果の概要について
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2021r01_chousa_kekka_gaiyou_0823.pdf