感染、または感染疑いの社員への対応
社員が発熱などの体調不良を訴えたら、企業としてどのように対処すればいいでしょうか。大きく分けて2つのケースが考えられます。1つは「感染した社員への対応」、もう1つは、「感染が疑われる社員への対応」です。それぞれについて詳しく紹介していきましょう。
◆感染した社員への対応
PCR検査などを受けて陽性と判明した場合、症状によって入院または宿泊、自宅療養など対応が異なるため、社員本人に対しては医師や保健所の指示・指導に従うように促しましょう。
企業としても感染者の状況を把握する必要があるので、社員にはすみやかに職場に連絡を入れるよう、事前に周知を徹底しておきましょう。その際、報告先(連絡窓口)は一本化しておくといいでしょう。
なおPCR検査を受けて陰性だった場合、陽性者との「濃厚接触者」なのか「それ以外のケース」なのかで対応が分かれます。濃厚接触者の場合は、陽性者本人と最後に接触した日から14日間は健康観察期間となります。保健所・医師の指示に従い、健康観察期間が終了するまで出勤などを控えるように伝えましょう。
濃厚接触者以外の社員へどう対応するかは、企業側の判断になります。就労は可能だが何かしらの症状があり感染が疑われる場合、症状がなくなるまでは自宅待機や在宅勤務などを命じることが多いようです。
◆感染が疑われる社員への対応
PCR検査はまだ受けていないが、発熱症状などがある社員に対しては、どのような対応が必要でしょうか。厚生労働省のホームページによると、新型コロナウイルス感染症の初期症状は、風邪やインフルエンザの症状と似ており、区別がつきにくいため、万一に備えて、会社を休むことを推奨しています。
なお、37度5分以上の発熱が続くなど、症状が緩和しない場合は、かかりつけ医などの医療機関を受診するように促しましょう。かかりつけ医がいないなど、医療機関に迷う場合は、「東京都発熱相談センター」など各都道府県の「受診・相談センター」(地域により名称が異なる)で相談を受け付けています。
感染した社員の職場復帰の対応について
感染した社員の職場復帰のタイミングは、医療機関(かかりつけ医)や産業医の指示に従い、社員本人の体調を確認しながら決定しましょう。復帰後も、感染者本人が周囲からのハラスメントなどを受けないように、人事労務担当者が配属部署の上司と連携してサポートするのが望ましいです。
無症状で感染した社員についても、症状のある(有症状)感染者と同じように、PCR検査による退院基準があります。たとえ無症状であっても、担当医や産業医の指示に従って、職場復帰のタイミングを決めましょう。
ちなみに無症状の場合は自宅療養になることも多く、就業が可能な場合はテレワークで勤務する例もあります。急に体調が悪化する場合もあるため、体調管理にはくれぐれも気をつけ、気になる症状などがあればかかりつけ医や保健所に相談するように促しましょう。また、家庭内感染への注意も必要です。
職場内で求められる対応について
社員に感染者が発生すると、社内でも様々な対応が求められます。押さえておくべき対応策は下記の3つです。
- 関係先への報告
- 社員への告知・情報共有
- オフィス内の消毒
◆関係先への報告
社員に新型コロナウイルス感染症が発症した場合、義務ではありませんが、心配なことがあれば管轄の保健所に報告し、指示に従うようにしましょう。
保健所からは、まず患者本人に連絡が入り、感染症予防法第15条に基づき、電話などによる聞き取り調査が行われます。その上で、施設調査(職場など)が必要と判断された場合、本人の了解を得た上で接触者調査などが実施されます。(これら調査を「積極的疫学調査」といいます)
調査内容は、感染した社員の業務内容、最終出勤日、行動履歴、接触者、座席の配置など。必要に応じて、社員のリスト(感染者が在籍する部署内全員の社員とその健康状態、濃厚接触の有無)などの資料の提出が求められるので、あらかじめ情報整理をしておくとよいでしょう。必要に応じて、取引先、ビル管理会社などの関係先へすみやかに報告し、連携をとりましょう。
なお保健所から積極的疫学調査のために、感染者の行動履歴などの提供依頼があった場合、法令に基づく提供であるため、原則として社員本人に情報提供の同意を得る必要はありません。しかし、社員の要配慮の個人情報を取り扱うため、可能であれば、事前に本人に個人情報取得や第三者への情報提供の同意を得ておくのが望ましいでしょう。
◆社員への告知・情報共有
労働契約法第5条により、企業は、社員が「安全に働ける」環境を整えるよう配慮や対策を行う義務があります。これを「安全配慮義務」と呼びます。社内で感染者が出た場合、社員への告知に関する明確なルールはありませんが、「安全配慮義務」や2次感染拡大防止という観点からすれば、社内に感染者が出たことを社員に告知すべきでしょう。
その際、「感染者がいる」という情報だけでなく、「濃厚接触者の人数」「調査状況」「対応措置」なども伝え、社員が安心して業務に専念できる環境を整えることが大切です。もちろん、個人名を出さないなど感染者のプライバシーへの配慮も欠かせません。
◆オフィス内の消毒
基本的には、保健所の指示に従ってオフィス内を消毒します。消毒箇所が広範囲にわたる場合は、社員やビル管理会社の清掃スタッフがその作業を行うのは業務にも支障が出るため、地域の消毒業者に依頼することが一般的です。あらかじめ、消毒業者を調べて相談しておきましょう。
社員への休業補償について
新型コロナウイルス感染症による社員への休業補償はどこまで必要なのか、企業としても理解しておきたいところです。これもケースによって異なるため、一つ一つ確認していきましょう。
◆新型コロナに感染した社員を休業させる場合
社員が新型コロナウイルスに感染した場合、企業は休業手当を支払う義務はありません。都道府県知事が行う就業制限による休業のため、「使用者の責に帰すべき事由による休業」には該当しないためです。厚生労働省のWebサイトにもそのように明記されています。
◆新型コロナの感染が疑われる社員を休業させる場合
職務の継続が可能な社員を企業が自主的判断で休業させる場合は、労働基準法第26条により、休業手当(平均賃金の6割以上)を支払う必要が出てくるでしょう。ただし、症状などからみて通常どおりに勤務することが不能の場合は、これには該当せず、休業手当を支払う必要はありません。
しかし実際は、対象となる社員の症状には個人差があり、就労可能な状況か否かの判断がしづらく、本人は勤務可能と言っているが会社としては感染が疑われるので休ませたいという場合もあります。感染が疑われるが就労可能な社員を会社が命じて休業させた場合には、休業手当の支給が必要となりますが、何らかの症状が出ているのであれば有給休暇の取得を勧奨し、休んでもらうという対応も考えられます。
なお、感染の有無を問わず、病気療養のために4日以上の休業し、賃金が支払われなかったなどの要件を満たせば、健康保険の傷病手当金の支給が受けられます。
◆職場に感染者が出てしまい、やむを得ず会社を休業とする場合
職場に感染者が出て、事業の休止などが余儀なくされ、社員を休業させる場合もあるでしょう。国や自治体の休業要請の対象でない場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業期間中の休業手当を社員に支給する必要があります。
◆業務中に新型コロナウイルスに感染した場合
患者の診療・検査または看護・介護業務に従事する医療従事者(医師、看護師、介護従事者など)が新型コロナウイルスに感染した場合、業務外で感染したことが明らかな場合をのぞき、原則として労災保険給付の対象になります。医療従事者以外の職種であっても、感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合などの時は、同じように労災保険給付の対象になります。(※)
※新型コロナウイルス感染症に係る労災補償について−厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000635285.pdf
取引先などの対外的な広報について
社員が感染した場合、対外的な公表を怠ると、取引先に感染が拡大したり、デマが拡散したりして、企業の損失やイメージダウンなどにつながる恐れがあります。
感染者のプライバシーに配慮しながらも、感染者や濃厚接触者が訪問、利用した可能性のある取引先やビル施設の管理会社などには、すみやかに報告し、その後の対応なども協議する必要があるでしょう。
また、顧客(消費者)などへの公表は、どこまで情報を開示するかを検討すべきですが、実施することで企業の信頼性を得ることにもつながります。感染者数や感染経緯、これまでの予防策、今後の対策などが開示内容になりますが、個人のプライバシーに関わる情報もあるため、注意しましょう。
感染症対策のガイドライン作成、社員向けの勉強会を実施
これまで説明してきたように、社員が感染者や濃厚接触者になった場合、人事労務担当者を含めた他の社員はやるべきことがたくさんあり、その都度判断が求められることもあります。まずは予防策も含めた、新型コロナウイルス感染症対策のガイドラインを作成するようにしましょう。合わせて、社員にも周知しておけば、万一社員に感染者などが発生しても、迷うことなく、迅速に対応することができるでしょう。
各省庁や地方自治体、保健所などのホームページにも感染症予防・対策のガイドラインを掲載しているので、作成の際には、ぜひ参考にしてみてください。
参考:
・業種別ガイドライン(感染拡大防止と事業活動を両立させるためのガイドライン)/内閣官房
https://corona.go.jp/prevention/pdf/guideline.pdf?20210115
・職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト/厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/000657665.pdf
※記事内で取り上げた法令や制度は2021年2月時点のものです。
監修:うたしろFP社労士事務所 社労保険労務士/1級FP技能士CFP® 歌代将也
TEXT:西谷忠和
EDITING:Indeed Japan + ノオト