休業手当と休業補償の違いとは? 定義や種類、コロナ禍での対応を解説

電卓を使う手元のイメージ

新型コロナウイルス感染症の影響により、企業が休業を余儀なくされるケースも増えています。その中で、注目されているのが「休業手当」と「休業補償」について。どちらも「休業」とついているものの、その内容は異なります。混同しやすい両者について、寺島戦略社会保険労務士事務所代表で社会保険労務士の寺島有紀さんと社会保険労務士の大川麻美さんに伺いました。

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そもそも休業とは

休業には法律的な基準は定められていませんが、一般的には「労働者が労務に服すことができる状態にありながら、労務の提供を免除すること」と定義されています。
 
具体的には、以下のケースが該当します。
 
1. 労働災害によるもの
勤務中の事故または通勤中の事故などの療養により、業務を行うことができない場合の休業
 
2. 自己都合によるもの
1に該当するもの以外の事故や病気による療養、産前産後の休暇や出産による育児休業、家族に要介護者がいる場合の介護休業など
 
3. 会社都合によるもの
経営難による自宅待機や操業停止、設備不良など、会社からの申し立てによる休業
 
4. 天災事変などによるもの
地震や火事、水害、台風の影響など、会社を休まざるを得ない状況に陥ることによる休業

 

◆休業期間中の有給休暇の扱いについて

休業を命じる日に、あらかじめ労働者から有給休暇の申し出があった場合、会社は有給休暇を取得させなくてはなりません。
 
一方で、休業日に対して事後に申請があった場合、会社はこれを認める必要はありません。有給休暇は労働日に給与を減額することなく労働を免除できる制度のため、労働義務の発生しない休業日には権利を行使することができないからです。

 
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休業手当とは?

休業手当は、労働基準法第26条により「雇用主の都合で労働者を休業させる場合、会社は平均賃金の60%以上を労働者に支払わなくてはならない」と定められています。休業手当の対象日は休業させた日となり、給与支払日に支給します。
 
月給制と時給制で休業手当の計算方法は異なりますが、まずは平均賃金を算出する必要があります。

 

◆月給制の場合の休業手当の計算方法

(例)企業Aは、従業員Bさんを雇用しています。6月21日〜7月20日のうち、休日を除いたBさんの勤務日数は20日間の予定でした。ところが、7月10日のみ企業Aの都合で休業になりました。そのほかの日は予定通り出勤したため、最終的なBさんの勤務日数は19日間でした。
 
Bさんの就労状況
賃金締切日:毎月20日
平均賃金算定事由発生日(休業日):7月10日
6月分(5月21日〜6月20日)賃金:基本給20万円、通勤手当1万円/計21万円
5月分(4月21日〜5月20日)賃金:基本給20万円、通勤手当1万円、残業手当2万円/計23万円
4月分(3月21日〜4月20日)賃金:基本給20万円、通勤手当1万円、残業手当1万円/計22万円


平均賃金は、休業させた日が属する月の前月3カ月から算出します。上記の条件から平均賃金を算出すると、
 
平均賃金 = (21万円 + 23万円 + 22万円)÷(31日 + 30日 + 31日) ≒ 7,173円91銭
 
となります。
 
続いて、休業手当の支給額を計算します。休業手当は平均賃金の60%以上にあたるとされるため、ここでは60%とし、0.6を掛けます。
 
7,173円91銭 × 0.6 ≒ 4,304円
 
つまり、1日あたりの休業手当は4,304円。会社は、休業手当の4,304円と19日間分(6月21日〜7月20日のうち、7月10日を除く労働日)の賃金を7月分の賃金支払期日に支給しなくてはなりません。
 
※1時間あたりの賃金額及び割増賃金額、1か月の賃金総額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上を1円に切り上げても支障はありません。

 

◆日給制の場合の休業手当の計算方法

賃金の一部またはすべてが日給制や時間給制、出来高給制の場合は、「最低保障」が設けられています。
 
最低保障とは、「平均賃金を算出すべき事由の発生した日(休業日)」が属する月より前の3カ月間に、その労働者に対して支払われた賃金総額のうち「その期間の労働日数で除した金額」の60%を指すものです。また、平均賃金の原則により、計算した金額を最低保障が上回る場合は、最低保障金額が平均賃金となります。
 
下記条件を元に、休業手当の算出方法を紹介します。

 

(例)
賃金締切日:毎月末日(日給8,000円、通勤手当1日400円)
平均賃金算定事由発生日(休業日):2月5日
1月分(1月1日〜1月31日、労働日数15日)賃金:基本給12万円、通勤手当6,000円
12月分(12月1日〜12月31日、労働日数10日)賃金:基本給8万円、通勤手当4,000円
11月分(11月1日〜11月30日、労働日数5日)賃金:基本給4万円、通勤手当2,000円

1. 平均賃金の原則による計算
(12万6,000円 + 8万4,000円 + 4万2,000円)÷(31日 + 31日 + 30日) ≒ 2,739円13銭
 
2. 最低保障による計算
(12万6,000円 + 8万4,000円 + 4万2,000円) ÷ (15日 + 10日 + 5日) × 0.6 = 5,040円
 
両者を比較すると2の方が高いので、この場合の平均賃金は5,040円になります。この平均賃金5,040円を当てはめて、月給制と同様に1日あたりの休業手当を計算します。
 
5,040円 × 0.6 = 3,024円
 
会社は2月5日分の休業手当として、3,024円を支給しなくてはなりません。

 

◆新型コロナウイルス感染症に関する「雇用調整助成金」の特例措置


新型コロナウイルス感染症の影響により事業活動の縮小を余儀なくされた場合、従業員の雇用維持を図るために労使協定に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主に国から休業手当などの一部が助成されます。また、事業主が雇用調整を目的として労働者を出向させた場合も対象となります。
 
緊急事態宣言が解除された月の翌月末までは特例措置が設けられ、1人につき1日あたり1万5,000円を上限として、労働者に支払う休業手当などのうち最大100%が助成されるように。助成率は、企業規模や会社が解雇などを行わずに雇用を維持したかどうかによって判断されます。
 
助成を受けるためには、事前に労使で「休業協定書」を締結し、休業期間の計画や手当について合意する必要があります。また、会社は休業協定書の内容に沿って労働者を休業させなくてはならないため、仮に休業手当の率を100%としている場合はその通りに支払うことが大切です。
 
特例措置の期間は度々延長されているので、厚生労働省のサイトで最新の情報をチェックしましょう。

 
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休業手当の対象労働者について

休業手当は、「休業の定義」で挙げたケースに該当する労働者を対象として支払われます。
 
(例)

  • 生産調整のための一定期間の休暇
  • 親会社の経営難から、下請け工場が資材や資金を獲得できず休業
  • 原材料の不足による休業
  • 監督官庁の勧告による操業停止


このほか、下記のようなケースも当てはまります。

 

  • 業績の悪化を理由に自宅待機を命じられる
  • 飲食店が売り上げ減を理由に従業員のシフトを減らす
  • 派遣先の事情により、派遣社員の受け入れができなくなった

 

◆支払い義務が発生しないケース

休業手当の支払いは、その休業が「雇用主の責任に帰すべき事由によるもの」に限られています。不可抗力による休業の場合は、使用者の責任に該当しないため、労働者への休業手当の支払い義務は発生しません。ただし、その場合は以下の2つを満たす必要があります。
 

  • 休業の原因が事業の外部より発生した事故であること
  • 事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても、なお避けることのできない事故であること

 

◆解雇予告中は休業手当の対象外に

解雇予告中の労働者に対して休業手当の支払い義務は発生しませんが、解雇予告中は1日あたり「平均賃金の100%」の解雇予告手当を支払う必要があります。仮に1カ月前に解雇を予告し、そこから1カ月間休業させたとしても、労働者に対しては平均賃金の100%を支払わなくてはなりません。

 

◆新型コロナウイルス感染症による休業の場合はどうなる?

労働者が新型コロナウイルスに感染した時や感染が疑われる時など、休業手当の支給をどう判断すればいいのか悩ましいケースもあります。この場合は、休業が雇用主側の責任によるものかどうかがポイントです。
 
休業手当の対象となる

  • 発熱などの症状があるという理由だけで、労働者に一律に仕事を休ませる措置をとる場合
  • 新型コロナウイルス感染症の接触者となった労働者が保健所等に相談した結果、就業可能と判断されたにもかかわらず、会社側の判断で労働者を休業させる場合


休業手当の対象とならない

  • 新型コロナウイルスに感染した労働者が会社を休む場合
  • 発熱等の症状があるため、労働者が自主的に会社を休む場合
  • 都道府県知事が行う就業制限により、労働者が休業する場合

 

休業補償とは?休業手当の違いとポイント

休業補償は、労働基準法第76条で定められている業務災害や通勤災害に対する給付です。従業員がこれらの事情によるけがや病気のために療養することになった日や、休業を余儀なくされることになった日の4日目から労災保険法に基づき、国から支払われます。
 
休業補償は労災保険法に基づき、労働者が被った損害を保障する性質のものであるため、所得としては扱われません。一方で、休業手当は給与所得とみなされ、所得税の課税対象になります。また、休業補償は会社の所定休日であっても支払対象期間となりますが、休業手当は休業日に基づいて支払われます。
 
もし会社の資金繰りが悪いなどの理由で休業手当が支給されない場合、労働者が「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」を受給できる可能性も。会社が休業手当を支払えない場合は、労働者に対してこの給付金のアナウンスをする必要があります。
 
「コロナ禍」と呼ばれ、労働者の休業を判断する機会も増えている現在。休業手当と休業補償の違いについて理解し、正しく支給することは雇用主の義務であり、労働者の生活を守ることにつながります。

 
 
参考:
厚生労働省「雇用調整助成金(新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/pageL07.html
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html


※記事内で取り上げた法令は2021年2月時点のものです。
 
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん 社会保険労務士 大川麻美さん
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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