休業手当と休業補償
◆休業手当とは
休業手当とは、雇用主である企業の都合で従業員を休ませた場合、企業がその従業員に対して支給する手当のことです。雇用形態に関係なく、全ての従業員が対象となります。支払う額は休業1日につき「平均賃金の60%以上」と労働基準法第26条で定められています。
<平均賃金の算出方法>
事由の発生した日以前の3カ月間に支払われた賃金総額÷計算した3カ月間の総日数
<企業都合による休業のケース一例>
- 企業の設備や工場の機械不備、メンテナンスによる休業
- 経営不振による休業
- 企業の過失による休業
- 燃料や資材不足による休業
なお、自然災害や疫病による休業は不可抗力の部分が大きいため、企業が休業手当の支給を行うかはケースバイケースとなります。
◆休業補償とは
休業補償は労働基準法76条で定められており、通勤や業務中に病気やケガなどにより出勤できなくなった際に労災保険から支給されるものです。こちらも雇用形態に関係なく全ての従業員が対象となります。休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)が支給されます。
給付基礎日額とは、原則として先述した平均賃金の額に相当しますが、円未満の端数は切り上げて円単位にする点で異なります。
従業員が休業中に副業をすることは認められているのか
◆従業員が休業手当を受給している場合
休業中の副業を禁止する法律はないため、就業規則もしくは休業協定等で副業(兼業)の禁止規定がない場合は、従業員の副業を制限することはできません。また、たとえ副業を禁止していたとしても、休業手当は法律で定められている制度のため、副業を理由に休業手当の支払いを拒むことは不可能です。会社都合の休業中に他所で就労したことによって収入を得た場合、その額を控除して支払うかどうかは会社ごとに定める就業規則等によります。しかし、法律で定める「平均賃金の60%」以下に減額することはできません。
◆従業員が休業補償を受給している場合
休業補償は労働者災害補償保険法で定められており、出勤義務がないからといって企業が就業規則等で休業補償期間中の私生活を制限することはできません。ただし、従業員が休業補償受給中に就労によって収入を得た場合には、その額を控除した額の80%が支給される決まりがあるため、注意が必要です(労災保険法第14条)。職種が異なるなどの理由で就労できる状態であっても、一部でも収入があった場合には、休業補償の申請時に従業員は労働基準監督署に報告しなければなりません。もしも報告を怠ったり、報告内容を偽ったりした場合には、給付を受けた従業員だけではなく、企業が連帯して返還命令(労災保険法第12条の3)を受けるほか、刑法に基づく詐欺罪として刑事告発の対象にもなり得ます。
副業中にケガなどをしたら、どうなるのか
休業手当に関して、前述の通り「休業中に副業をしている」という理由で休業手当の支払いを停止することはできません。しかし、休業が解消されて業務を再開した際に、従業員が速やかに復職できなかったり、副業を理由に遅刻や欠勤などの悪影響があったりした場合には、企業の休業手当の支払義務は消滅します。
副業先でケガをしたために休業解除後も出勤ができない場合は、減給や欠勤扱いになる可能性があります。
副業に関する規則を作るときの注意点
◆副業を禁止する目的を明確にする
副業を禁止する主な目的として、以下の2点が挙げられます。
- 「労働者は就業時間中、使用者の指揮命令の下、職務に専念する」という職務専念義務に影響がないようにするため(副業により労働時間が長くなり、職務に影響が出るなど)
- 企業の機密事項の流出を防ぐため
これらを踏まえて、副業についての規則を定めることが望ましいでしょう。情報漏洩やノウハウの流出が心配であれば、競合会社での副業に限定して禁止するなど、合理性のある規則を設定しましょう。
◆有効性のある規則を作る
罰則は訓告や指導程度にとどまるものが一般的です。降格や出勤停止などの極端なペナルティを定めた場合は、私生活や職業選択の自由を侵害し、民法90条(公序良俗規定)に違反するとして、トラブルにつながる可能性が高くなりますので注意しましょう。
◆就業規則を成立させる
就業規則を有効に成立させるためには、下記の3つのステップが必要です。
- 労働者代表の選任
- 労働者代表の意見の聴取
- 対象となる労働者全員への周知
ただルールを作るだけではなく、従業員の理解を得て周知することで、初めて有効な規則となります。
休業中の副業について、規定を設けていない企業は少なくありません。自社の状況を踏まえながら、有効性の高い規則を定めましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年5月時点のものです。
<取材先>
RESUS社会保険労務士事務所 社会保険労務士 山田雅人さん
人事コンサルティング会社にて大企業を中心に、10年以上にわたって全国500社以上の人事制度導入・見直しに携わり2016年に独立開業。中小企業の人手不足解消を目的とした事務代行や制度設計を支援している。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト