企業が従業員の副業を禁止するのは違法!?
「副業禁止」を当たり前と受け止めている人は少なくありませんが、実は法的な観点から見ると、企業が従業員の副業を禁止することはできません。
憲法22条1項で「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と規定されており、職業を選択できる自由が保障されているからです。例外として、公務員だけは明確に法律で副業が禁止されています。
では、なぜ副業の禁止が当たり前になっているのかというと、企業の就業規則に副業を禁止するという条文が盛り込まれているからです。就業規則に副業を禁止するという条文を置くことまでは、法律では禁止していないため、日本の企業の多くは就業規則として副業を「原則禁止」としています。
つまり、企業が副業を禁止しても違法とまではいえず、法的に罰せられることはありません。逆に副業が発覚した従業員に対して、副業をしていたという理由だけで法的に罰することもできません。
副業を認めるリスクとメリット
「働き方改革関連法」が施行された2018年以降、副業を認める企業は増えてきています。その方法には、規定条件を満たせば認める「許可制」のほか、申告すれば認められる「届出制」や「自由制」などがあります。
しかし、現状では引き続き副業を「原則禁止」にしている企業がほとんどです。解禁しない理由はそれぞれですが、主に次のようなリスクを懸念してのことだと思います。
◆副業を認めるリスク
- 本業に集中できなくなる可能性がある
- 企業秘密が漏洩する可能性がある
- 会社の名誉や信用を損ねる行為が発生する可能性がある
- 競合他社での副業を認めた場合、情報の漏洩などによって会社の利益を害する可能性がある
- 労働時間の把握が困難になる
逆に解禁することで、企業にとってメリットとなることも多々あります。それは、自社が本業ではなく、副業側だとしても同様です。リスクを回避するために、まずは一定の条件を定める「許可制」からスタートするといいかもしれません。
◆副業を認めるメリット
- 社外で学んだスキルや経験を本業で活かせる
- 人材確保や人材採用がしやすくなる
- 新しい事業機会の拡大につながる
副業を解禁した場合の留意点
副業を解禁する場合、労務管理上、以下の2点が重要になります。
- 体調面などで本業に影響を及ぼした場合の対応方法
- 従業員の労働時間の把握
労働時間が長くなることで、健康上の問題が生じ、業務に支障をきたすことは十分に考えられます。日頃から従業員に健康管理をしっかり行うよう指導する必要はありますが、支障をきたした場合の対応については、あらかじめ就業規定に定めておくことをおすすめします。
また、副業を認めることで複雑になるのが労働時間の把握です。労働基準法38条1項には「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」という規定があります。つまり、本業と副業の合計が、労働者の総労働時間になるということです。
労働基準法で定められた「1日8時間、週40時間」の法定労働時間は、副業の有無にかかわらず変わりません。超過すれば、企業は時間外労働として労働者に割増賃金(残業代)を支払わなければなりません。
ここで注意すべき点は、契約の締結が暦日で後になった企業に、割増賃金の支払い義務が生じるということ。たいていの場合は副業先になります。また、36協定の上限も適用されるので、過重労働には注意が必要です。
しかし、現状は従業員が副業をした場合の労働時間の管理について、法的にルールが設けられているわけではありません。そのため、企業が副業をしている従業員の労働実態を正確に把握することは困難な状況にあります。リスクのひとつにもあげたように、それが副業の促進を阻む要因のひとつになっているといえるでしょう。
そこで現在、厚生労働省は副業促進にあたり「労働者の自己申告制」の導入など、労務管理における企業の負担を軽減するために「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の見直しを行っています。その状況によって、副業解禁のハードルが低くなるかもしれません。
※記事内で取り上げた法令は2020年10月時点のものです。
<取材先>
堀下社会保険労務士事務所 代表 堀下和紀さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト