副業社員がけが。どちらの会社が労災の手続きをするべき?
副業をしている社員がケガをした場合、どちらの会社が労災の手続きをすべきなのでしょうか。一見すると、ケガをした職場のみで手続きするように思うかもしれませんが、実は労災保険法の一部改正によって内容が変わっています。
例えば、本業のA社ではなく副業先のB社での勤務中にケガをしたとします。その場合、これまではB社が労災手続きを行っていました。しかし、今回の労災保険法の改正では、ケガをしたB社のみならず、A社でも一部の手続きを行うことが必要になりました。
労災が発生していない勤務先も手続きしなければいけないワケ
では、なぜB社だけでなくA社も一部の労災手続きを行うことになったのでしょうか。
そもそも労災には、以下の2種類があります。
◆業務災害
業務の事由により被った災害を指します。例えば、業務が原因で負った負傷や疾病、障害、または死亡などが該当します。
◆通勤災害
通勤により被った災害のことです。例えば、家から勤務先までの通勤や、就業先から別の就業先への通勤などで負った負傷や疾病、障害または死亡などが該当します。
これまで「業務災害」と「通勤災害」は、発生した災害に関わる事業主の証明をもとに、休業中の給付金である「休業(補償)給付」の請求が行われていました。例えば、副業先のB社で業務災害に見舞われて骨折し、B社だけでなく本業のA社も休まざるを得なくなったとします。その場合、稼得能力は2つの会社から支払われる賃金の合算額であるにも関わらず、副業先のB社の賃金をもとに決定された給付額しか支払われませんでした。そのため、実際に賃金として支払われていた金額との間に大きな乖離が生じ、大きな課題とされていました。
こうした問題を受け、2020年9月に施行された労災保険法では、雇用している全ての会社から支払われている賃金の合算額をもとに労災保険の給付額を決定するように改正されました。そのため、B社のみならずA社も一部の労災手続きを行うことが必要になったのです。
精神疾患にかかわる労災においても適用される
労災は、身体的な損傷によるものに限りません。最近では、うつ病などの精神疾患を発症したケースも労災として認定されることが増えてきました。では、精神疾患などの労災ではどのように判定されるでしょうか。
2011年に厚生労働省が公開した「心身的負荷による精神障害の労災認定基準」によると、「認定基準の対象となる疾病を発病していること」に加え、「認定基準の対象となる疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」などがあります。
「業務による強い心理的負荷」は「強」「中」「弱」の三段階に分けられ、一般的に「強」と判断された場合、労災認定されます。その「強」にかかる事項として挙げられる一つが、過去3カ月以内の長時間労働です。
これまで副業をしている社員の精神疾患にかかわる労災判定では、1社だけの負荷を個別に判断してきました。例えば本業のA社で1日8時間、副業のB社でも1日に8時間の勤務だったとします。本人にとっては16時間の勤務であるにもかかわらず、1社のみの8時間勤務として判断されていたのです。
しかし、今回の改正では、精神疾患にかかわる労災判定においても1社だけの負荷で考えるのではなく、総合的な判断で決定すると定められました。そのため、副業をしている社員の場合は、別の事業所で何時間の勤務があるかを確認が必要とされています。
基本的に、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、労働者の自由とされています。各企業においてそれを制限することが許されるのは下記の場合のみです。
- 労務提供上の支障がある場合
- 業務上の秘密が漏洩する場合
- 競業により自社の利益が害される場合
- 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
トラブルを防止するためには、現在、他社で就業をしているのか、自社が本業または副業になるのか、他社での勤務時間を確認し、労災保険法についても会社と応募者が双方理解の上で採用することが重要です。他社で勤務時間が延びる場合は報告義務を設けるなどの対策も一つでしょう。
また、すでに副業をしている社員に対し、上記のような法改正があったことを周知することも有効だと考えられます。
副業する社員に対して支援する体制づくりが必要
今回の法改正は、副業を行う社員がより安心してダブルワークを行える内容になっています。副業・兼業を推奨する流れが生まれていることからも、今後より副業を行う社員が増えると考えられるでしょう。企業側は副業を行う社員の働き方を支えるような動きができれば、より良い人材を雇用し続けることができると言えそうです。
副業している社員が何らかの理由から労災にかかわる事態となった場合は速やかに手続きを行い、就業時間が長時間にならないよう配慮するなど、できるだけサポートする体制を整えることをおすすめします。
参照:
厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11494.html
監修:汐留社会保険労務士法人
TEXT:富山もえり
EDITING:Indeed Japan + 成瀬瑛理子 + ノオト