転職者はどのような不安を抱えているのか
転職者が抱える不安の対象は、大きく「仕事内容」「年収」「人間関係や風通しの良さ」「職場環境や社風」の4つに分類することができます。
これらの不安は、今の転職市場を担っている20代後半〜30代の考え方やライフステージとも深く結びついています。
仕事の経験を積んだことで知識やスキルを得て、新しいチャレンジをしたいと考える一方で、結婚や子どもを持つなどのライフステージも変化しやすい時期です。また、この世代では、終身雇用前提ではなく、新卒入社で基礎を確立させた後、2社目、3社目とステップアップしていくことを前提にしている人も増えています。
このような背景から「自分が成長できる会社で働きたい」「人間関係や社風に不満のある会社を出て、新しいチャレンジをしたい」、さらには「年収ももっと上げたい」と前向きに転職を希望する人たちが、転職先がその目的に合っているかどうか不安に感じている、というわけです。
特に人間関係や社風は、会社での居心地の良し悪しを大きく左右します。「別の仕事をしたいから」「地元にUターンするため」というのは建前で、実際は人間関係や社風が合わないことが、一番の転職理由になっている場合もあるのです。そのため、転職先の人間や社風についても、不安に思っている転職者は多いことが想像できます。
募集段階で転職者の不安を解消するためにできるアプローチとは?
求人情報を公開して募集する段階では、転職者の不安を解消できるような情報を提供することがポイントになります。先述した4つの不安に対して、募集段階でできるアプローチを紹介します。
◆仕事内容
まずは具体的な仕事内容を記載することが大切です。例えば1日の仕事のスケジュールを細かく紹介したり、扱う商材や製品を具体的に提示したりすることで、仕事をイメージしてもらい、転職者の求める仕事ができるかどうか判断してもらいやすくなります。
営業職であれば、顧客数や担当する取引先数、営業先の情報(新規か既存かなど)の提示も転職者が自分の適正や希望を見極めるうえで有効です。
◆収入
モデル月給やモデル年収を提示することが有効です。例えば、求める人材が20代〜30代前半であれば、25歳と30歳それぞれに「月給●●万円+賞与●●万円=年収■■■万円」という具合にモデルとなる収入を提示します。そうすることで転職者は「自分は27歳だから、これくらいはもらえるだろう」と判断でき、応募しやすくなります。
◆人間関係や風通しの良さ
人間関係や風通しの良さへの不安について、募集段階でアプローチするには限界がありますが、例えば、社員の声や社員インタビュー記事などを通して届ける方法があります。
または、自社の特徴や社風について、例えば、社員の年齢/性別構成や人員数などのデータで表現することも有効です。自分と同じような属性の社員が多いことが分かれば、不安解消につながるでしょう。
◆職場環境や社風
どのような能力や経験を持つ人を求めているのかといった、人材要件をしっかりと記載することが大切です。例えば、前職で携わっていた領域、経験年数や保有資格など、より具体的にすることで、求職者は自分との適合性を判断でき、不安解消につなげることができます。
また、福利厚生について記載したり、先述したような1日の仕事の詳細な流れを紹介したりすることでも、会社の環境や大切にしている価値観を伝えることができます。
選考段階で転職者の不安を解消するためにできるアプローチは?
面接などを行って選考する段階では、転職者の不安を解消するための直接的なアプローチが可能です。先述した4つの不安に対して、選考段階でできるアプローチを紹介します。
◆仕事内容
面接では一方的に自社の業務を紹介するのではなく、まずは転職者が何をしたいかをヒアリングすることがポイントです。転職者が何に興味をもって応募したか、前職は何をしていたか、転職先でどのような仕事を求めているかなどを聞いたうえで、その経験や希望に合った自社の仕事を結びつけることができれば、転職者の不安を解消するとともに、入社への動機づけにもなります。
◆収入
募集段階と同様にモデル月給・年収を紹介するのはもちろん、選考段階では自社の人事制度や給与制度の仕組みについて、大まかに説明できると良いでしょう。例えば、「当社は実力主義の給与制度となっているので、給与はあなたのがんばり度合いで変化します」「能力給については、こういった評価表に基づき1年間の仕事ぶりを公正に測定します」といった具合です。
仮に転職者の希望年収に満たなかった場合も、透明性の高い給与制度の仕組みを伝えることで、将来的な可能性に気づいてもらえ、年収に対する不安解消につながるでしょう。
◆人間関係や風通しの良さ/職場環境や社風
職場で働く人との相性や社風をチェックしてもらうには、実際に働く現場の社員との接点をつくることで、肌で感じてもらうのが一番です。「職場見学会」や「社員座談会」などをセッティングして、社員とコミュニケーションをとる場を設けましょう。
例えば、面接後に、入社後に就く予定の部署のメンバーとランチミーティングを設けたり、30分程度でカジュアルに話をできる場をつくったりして、不安や疑問を解消する場にしてもらうのも良いでしょう。
転職者の不安を解消する=入社意欲を高めることにも
転職者の不安を解消することは、別の言い方をすると、入社の動機づけをすることです。漠然とした不安を解消して、会社のイメージや働くイメージを転職者が鮮明に描くことができれば入社意欲は高まります。つまり、会社が求める人材を獲得できる確率も高まるのです。
アプローチを行って結果的に辞退される場合もありますが、それはお互いに募集・選考段階で適合性を見極められたということです。企業側にとっても求職者にとってもメリットのある採用活動を行うためにも、今回ご紹介したようなアプローチを参考にしてみてください。
<取材先>
株式会社新経営サービス 経営支援部 コンサルタント大園羅文さん
現在は、中小企業を対象とした人材採用支援、若手人材の定着・即戦力化支援、人事制度の構築・運用支援に従事。特に、「人材採用力の強化」を得意テーマとしており、『採用活動に時間やコスト・労力を割けない』等の中小企業独自の課題に寄り添った支援を通じて、顧客とともに“勝つべくして勝つ”採用活動を展開。
TEXT:武田明子
EDITING:Indeed Japan + ミノシマタカコ + ノオト