求職者の目線が足りない? 農業が人手不足に陥る理由
――農業では人手不足が大きな問題となっているようです。農家を志望する人は減っているのでしょうか?
一般的には「農業=人手不足」というイメージがあるかもしれませんが、実は農家で働きたい人は少なくありません。「農業を通じて誰かの役に立ちたい」、「都会ではなく、自然の中で体を動かして働きたい」、「農業に可能性を感じる」といった理由により、雇われる形で農業に携わりたい人は増加傾向にあります。
また、長期的に従事したい人だけでなく、短期での農業経験を希望する人も多くいます。そういった人材を採用することで、会社の成長に繋げている農業法人もあるのです。新たな人材を必要とする会社にとっては、希望者の中から自社に合った人をうまく採用に結びつけられるかどうかがカギとなるでしょう。
――人手不足はどちらかというとマッチングに問題がある、ということですね。では採用に関して、よくある失敗例があれば教えてください。
マッチングの観点でいえば、「どういう役割を担ってもらう人材が必要なのか」「その人材はどこにいるのか」をしっかりイメージできないまま募集をかけているケースが多々あります。
例えば、「事業規模を拡大しており、いずれ生産部門の責任者を任せられる人を雇用したい」と考えているとしましょう。マッチングを成功させるためには、「どういう仕事をしてきたのか?」「何歳なのか?」「独身か、既婚者か?」「どこに住んでいるのか?」など、求める人物像をある程度イメージしなければなりません。その上で、どんな条件だったら自社で働きたいと思ってもらえるのかを考え、応募してくれそうな求人要項を作ることが必要です。
「そんな気持ちはなかったのに、入ってみたらリーダーのポジションを期待されていることに気づき、重荷に感じて早期に離職した」という話もよく聞きます。同じ仕事だったとしても、「責任が重すぎる」と感じる人もいれば、「責任が軽い仕事しか与えられず不満だ」と感じる人もいるのです。どのような役割を期待しているのか、募集段階でしっかり伝えないと、ミスマッチが起こってしまいます。
農家からは「頑張ってくれるなら、いくらでも給料を出すんだけど……求めるレベルの仕事をしてもらえるかわからないし、すぐに辞めるかもしれないから、まずは最低条件で募集したい」という声もよく聞きます。しかし実際は、優秀な人ほど「より良い条件で、きちんと自分を評価してくれるところで働きたい」と考えるはずです。ある程度の経験があり、さらにステップアップを目指したいと考えている人なら、最低賃金ギリギリの会社に応募したいと思わないでしょう。
求職者の目線で考えず募集しているため、求める人材に出会えない。そういう事例は少なくありません。
人が人を呼ぶ? うまく働き手を採用している農家の施策
――求人の手法には、ハローワークや一般の求人広告、農業に特化した求人媒体、マッチングアプリなど様々あります。どのような手法が適しているのでしょうか?
どういう人材を求めるかによって、適した媒体は変わります。農業のために遠方から引っ越すことを考えている人材であれば、農業専門の求人サイトがよいでしょう。一方、地元に住んでいるパート・アルバイト希望者であれば、地域の折り込み広告や求人誌がマッチする可能性もあります。まずはどのような人材を求めるのかターゲットをしっかり決め、その人がどこにいるのかをイメージすることが大事です。いま農業界では法人経営が進んでおり、世代交代も起こりつつあります。若い人材を中長期的な視点で育てていきたい、と考えている経営者が非常に増えていますね。
もし20~30代の若い層を求めるのであれば、その世代に合った情報発信をしなければなりません。どういう会社なのか、どんな人が働いているのかなど、日頃からホームページやブログ、SNSで自分たちの職場を紹介しておくと、求職者に安心感を与えることができるでしょう。
――ただ求人媒体で募集するだけでは不十分、ということですね。では、どのような紹介をすればよいのでしょうか? なにか成功例があれば教えてください。
自分たちは何を目指しているのか、どんなことを大事にしながら働いているのか、価値観や「思い」の部分をしっかり発信している農家には、自然と人が集まります。また、どういう人が活躍しているのか見せることも大事です。
東北のある地域に、若手人材が多く活躍している農業法人があります。なぜ人気があるかというと、「人が人を呼ぶ」現象が起きているから。東京や神奈川から集まった若い世代が、「未経験でも活躍している」「休みの日はこんな過ごし方をしている」など、仕事や生活環境をインターネットで発信しています。それを見た人が「私もやってみたい」と思い、さらに応募者が増えていくのです。
広告や求人媒体だけでなく、ホームページやSNS、動画、オンラインでの会社説明会など、積極的に採用施策を行っている農家には、ちゃんと人が集まっています。
農業体験、住居のサポートetc. 応募者を増やす求人内容やアピールすべきポイントとは?
――応募者を増やすためには、どのようなアピールをすればよいのでしょうか? 効果的な求人内容および見せ方について教えてください。
農業への就職・転職には、引っ越しを伴うケースが少なくありません。だからこそ不安が大きく、応募へのハードルが高くなるのです。
「農業は未経験だけど、自分にできるんだろうか?」
「一緒に働くのは、どんな人だろう?」
「知らない場所で、どんな生活になるのだろうか?」
このような不安を解消してあげられるかどうかが、応募を増やすカギになります。まずは写真などを使って、しっかり情報発信しましょう。「ここで働いてみたい」と思ってもらうべく、あらゆる施策を検討してみてください。動画の活用もおススメです。
会社説明会や農場見学会を開催して直接話ができる場を作ったり、農業体験やインターンを実施したりするのも、応募のハードルを下げる有効な手段となります。また、遠方から来る人を対象として、住居に関するサポートをしてあげることも必要です。
――農業体験、インターンを実施するメリットは?
もし採用しても「合わなかった」となれば、お互いにとって良くないでしょう。実際に就業する前に一度体験してもらえれば、ある程度ミスマッチを減らせるはずです。
就業体験やインターンは、仕事内容だけでなく、人づきあいや生活環境が合うかどうかを確かめてもらう意味もあります。「正式な就農の前に、まずは一度体験してみてください」と提示すれば、応募に対する気軽さは増すでしょう。
――住居については、どのようなサポートが多いのでしょうか?
会社が住むところを用意していたり、アパートを借り上げて社宅にしていたりする求人があります。求職者からすると、なるべく引っ越しにかかる費用を抑えたいはずです。住居を用意できない場合は、近隣の不動産屋を紹介したり、家賃の相場を求人情報に加えたりするなど、土地勘のない求職者へのサポートを考えておきましょう。
――ほかに、何かアピールすべきポイントがあれば教えてください。
求人は、より多くの人に周知することが重要です。ほとんどの人は、「自分に合うかどうか」「こだわっている条件に合致するか」を考えながら職場を探しています。ただ実際は似たような求人が並び、選び出すのに苦労している人が多いのではないでしょうか。
他と切り口を変えたり、一番ウリにしているポイントを徹底的に強調したりするなど差別化すれば、求職者の目を引くことができるかもしれません。求人を出す際は、「ここって、どんな農家だろう?」と興味を持ってもらえるような見せ方の工夫も必要です。
<取材先>
特定非営利活動法人日本プロ農業総合支援機構(J-PAO)運営会員
株式会社あぐりーん
吉村 康治さん
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト