アンガーマネジメントを職場に取り入れる理由
怒りの感情を上手に扱い、怒りで後悔しないことを目指す「アンガーマネジメント」のニーズが職場で高まっています。その理由は、社員の価値観の多様化によって「〜すべき」「〜であるべき」といった自分の価値観を裏切られ、イライラする機会が増えたからと言われています。
会社での働き方について、一昔前までは大勢の人が「年配者ほど給与や待遇が良くなるべき(年功序列)」「1社で長く働き続けるべき(終身雇用)」など、同じような価値観を共有していました。しかし、成果主義やワークライフバランスの考え方が浸透してきた現在では、社員同士の価値観がぶつかり合うケースが増え、怒りの感情が生まれやすくなっています。だからこそ、怒りをマネジメントするアンガーマネジメントが必要とされるのです。
アンガーマネジメントの効果
アンガーマネジメント研修の実施は、職場における「人権啓発」に役立ちます。その結果、「パワーハラスメント(以下、パワハラ)の防止」や「チームビルディング」といった副次的効果も期待できるのです。
働く上で、仕事のパートナーと互いを尊重し合うことは大切ですが、日本はほかの先進国よりも人権意識が低いと言われています。たとえば、2019年12月に発表された、社会進出における男女格差を表す「ジェンダー・ギャップ指数」において、日本は153カ国中121位でした。こうした人権意識の低さは、パワハラにつながる1つの要素です。
怒りの感情は、力関係の強いところから弱いところに出やすい性質を持っています。アンガーマネジメント研修を受けることで怒りの仕組みを知れば、人それぞれに違う「〜すべき」「〜であるべき」を許容しやすくなり、お互いを尊重できるようになるでしょう。
イライラする人が多い一方で、「会社で怒らない人」も増えてきました。多くの企業でコンプライアンス(法令遵守)研修に力を入れるようになった結果、「部下を叱るとパワハラだと訴えられるのではないか」と怖がる人が一定数見受けられます。
ちなみに、日本アンガーマネジメント協会では「怒る」と「叱る」を同じ意味で捉えています。一 般的には「怒る=自分勝手に怒ること」「叱る=相手のことを思って怒ること」だと解釈されているようですが、どちらも相手に対して「今どうして欲しい」「次から何をして欲しい」と伝えるための“リクエスト”だと考えれば、同じ意味といえるでしょう。
必要な場面で叱らなければ、部下は上司のリクエストに気づけず、成長できません。部下をうまく叱るために、上司がアンガーマネジメント研修を受けるのが非常に効果的なのです。
アンガーマネジメント研修の大事なポイント
◆研修対象は「新入社員」から「管理職」まで
部下をマネジメントする「管理職」だけではなく、「社会人1年目の社員」にもアンガーマネジメント研修は必要といわれています。なぜなら、新しい環境や不慣れな業務でトラブルが発生した際、怒りの感情を覚えたとしてもそれをコントロールし、素早く問題に対応することが求められるからです。
◆研修内容を社内で共有する
アンガーマネジメント研修は全社員に参加してもらうか、受講した社員が学んだことを社内に共有する機会を持つことが重要です。アンガーマネジメントの概念を全社員で共有し、お互いに「この人はアンガーマネジメントの◯◯について話している」という状態になれば、社内でも会話がやりやすくなります。
◆復習の機会を設ける
一度教わったことでも、時間が経つと忘れてしまうもの。頭では概念を理解していても、それを身につけるためには「練習」が必要です。社員をフォローアップするために、アンガーマネジメントの基礎的な内容を社内で復習する機会を設けてみるのもよいでしょう。
社内で「アンガーマネジメント」を共通言語に
社員が怒りの感情をうまく扱うことができれば、不必要な衝突がなくなり、生産性が向上するはずです。また、怒りに身を任せるのではなく、部下を尊重しながら正しく叱れる社員が増えることで、パワハラを防止することもできます。
企業をさらに発展させていくためにも、「アンガーマネジメント」の概念を社内に浸透させ、全社員に気持ちよく働いてもらうことが重要です。今回お伝えしたポイントを参考に、アンガーマネジメント研修を実施してみましょう。
※この記事は2020年3月に取材したものです。
<取材先>
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事 安藤俊介さん
TEXT:流石香織
EDITING:Indeed Japan + ノオト