人事に必要な「アンガーマネジメント」スキルとは

「アンガーマネジメント」スキルが必要な人事担当者のイメージ

「ヒト、モノ、カネ・情報」という経営資源の中でも「ヒト」を管理する人事には、求職者や社員と円滑な関係を築くスキルが求められます。しかし、理不尽なことや納得できないことをされると、「怒り」の感情が生まれることも……。
 
ビジネスの場で怒りのままに行動してしまうと、大きなトラブルに発展してしまいます。それを防ぐための心理トレーニングが「アンガーマネジメント」です。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事の安藤俊介さんに、人事に必要なアンガーマネジメントのスキルを伺いました。

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アンガーマネジメントとは

「アンガーマネジメント」を「怒らなくなる方法」だと捉える人がいますが、そうではありません。アンガーマネジメントとは、「怒る必要がある場面で上手に怒る」と「怒る必要がない場面では怒らず済ませる」の線引きができるスキルなのです。
 
そもそも“怒り”自体は、人間なら誰もがもつ自然な感情といえるでしょう。その感情が悪いわけではありませんが、怒りの扱い方を間違えると突発的な振る舞いにつながります。
 
たとえば、部下の指導のために怒ったあと「あんなふうに言わなければよかった」と後悔することもあれば、部下を怒らなかったあとに「やっぱり言っておけばよかった」と後悔することも。そのような後悔がなくなるように、怒りの感情と上手に付き合うトレーニングを積んでいきます。
 
そもそもアンガーマネジメントでは、次の3ステップを経て、怒りの感情が生まれると考えます。
 
(1)ある出来事に出合う
(2)意味づけを行う
(3)怒りの感情が生まれる
 
このステップを踏むとき、怒りの感情が生まれるポイントは「意味づけの仕方」です。それは、人それぞれに異なり、同じ出来事に対して怒りを感じる人がいれば、逆にまったく感じない人もいます。
 
たとえば、「部下がチャットツールを使って遅刻の連絡をした」という出来事があったとします。部下の行動を「ルール違反」と捉えた上司は「電話で連絡するべきだ」と怒りを感じるかもしれません。一方で、「迅速な連絡」だと捉えた上司は、「早めに連絡できる手段を使ってくれてよかった」と考えるでしょう。つまり、怒りの感情が生まれるかどうかは、事実に対する自分の捉え方次第なのです。

アンガーマネジメントが人事の仕事に及ぼす効果

アンガーマネジメントを身につけることで、人事の仕事にはさまざまなメリットがあります。

◆平常心を保ちやすくなる

社員全員と接する必要のある人事担当者は、常にストレスを感じやすい環境に置かれているとも言えます。アンガーマネジメントで怒りのコントロールをして、平常心を保てるようになれば、社員同士のトラブルに巻き込まれても冷静に対応しやすくなるでしょう。

◆人の感情の動きを把握しやすくなる

人事担当者は、職場でハラスメントが発生した際の社内相談窓口になっているケースがあります。アンガーマネジメントを学べば、自分だけでなく他者の感情の動きを客観的に分析する意識が芽生えるでしょう。何か相談を受けたときに、国が定めるハラスメントの基準に従うだけに留まらず、社員の感情を考慮した対策を講じやすくなるはずです。

◆ハラスメントの防止

職場のパワーハラスメント(以下、パワハラ)の主な原因は、上司が怒りの感情をコントロールできず、部下とのコミュニケーションがうまくとれない点にあります。パワハラ防止を主導する立場の人事担当者が怒りの感情をうまくコントロールする方法を理解すれば、パワハラ防止策の検討にきっと役立つでしょう。
 
パワハラは、大切な自社の社員にダメージを及ぼすだけではなく、「企業イメージの低下によって入社希望者が減る」「職場全体のパフォーマンスが落ちる」など、企業にマイナスの影響を与えてしまいます。パワハラの相談件数が年々増加傾向にあることを受け、2020年6月からパワハラ防止措置を企業の義務とする「パワハラ防止法」が施行されます。

職場でできるアンガーマネジメント

アンガーマネジメントを使えば、職場でも怒りをコントロールしやすくなります。そもそも、怒りが生まれてから「6秒」あれば理性が働くと言われています。そのため、反射的に何か行動したり発言したりせず、6秒間をやり過ごすことがアンガーマネジメントの重要なポイントです。今回は、そのためにできる2つの方法をご紹介しましょう。

◆カウントバック

頭の中で数を数えて気持ちを静める方法です。このとき、あえてややこしい数え方をしてみましょう。たとえば、数字を3ずつ飛ばしたり、「10、9、8…」と大きな数からカウントダウンしたりします。そうすれば、「数字を数えること」に意識を集中させることができ、6秒間をやり過ごしやすくなるのです。

◆タイムアウト

怒りを感じた場所や対象から離れる方法です。その場所にいるとイライラしてしまうようであれば、「トイレに行ってくる」と伝えて、その場をいったん離れます。このとき、相手に「逃げた」と思われないように、必ず戻ってくることを宣言しておいてください。そして、離れた場所で気持ちを切り替えれば、その場の空気を悪化させず、新たな気持ちで問題に向き合えるはずです。

6秒間をやり過ごして、怒りによる対応ミスを防ぐ

今回お伝えした方法以外にも、6秒間をやり過ごすテクニックは複数あります。たとえば、6秒かけてゆっくりと「吸う」「吐く」を繰り返して深呼吸をする『呼吸リラクゼーション』や、「まあいいか」「想定内だな」などの落ち着く言葉を自分に言い聞かせる『コーピングマントラ』と呼ばれる方法です。
 
これらの中から、自分に合った対処法を見つけてみてください。自分なりの具体的な手法を用いて一時的な怒りによる後悔を防ぎ、人事の仕事を円滑に進めていきましょう。


※この記事は2020年3月に取材したものです。
 
<取材先>
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事 安藤俊介さん
 
TEXT:流石香織
EDITING:Indeed Japan + ノオト

 
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