モラハラの定義をチェック
一般的に、モラルハラスメント(モラハラ)とは、「精神的な嫌がらせ・いじめ、相手の尊厳を傷つける発言や行動」のことを言います。職場においては、1対1で相手の人格を否定するようなひどいことを言ったり、嫌がらせや意地悪をしたり、集団である特定の人を仲間外れにしたり無視したり――といったケースがモラハラと呼ばれることが多いです。上司・部下だけでなく、同僚同士の場合も含まれます。
「家庭内でのモラハラはなんとなくイメージできるけど、職場でのモラハラはどういうものなんだろう?」と想像しづらいビジネスパーソンもいるでしょう。わかりやすい例を挙げると、神戸市の小学校で起こった激辛カレーを食べさせる教員間のいじめ事件は、職場でのモラハラが問題になった事例と言えます。この事件では「モラハラ」という言葉には収まらないパワハラやセクハラと認められる行動が多数含まれていましたが、裁判でパワハラと認められた事例も、ほぼ全てにモラハラが含まれています。
モラハラは“パワハラの芽”
2019年に厚生労働省から「職場におけるハラスメント関係指針」が出されました。そして2020年6月には「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が施行されるため(中小企業は2022年4月)、企業の担当者は昨今、パワハラ対策への意識が高まっていることでしょう。では、モラハラとパワハラはどういった関係にあるのでしょうか。
一般的に、(1)パワハラには肉体的な暴行も含まれるがモラハラは精神的なもののみ、(2)パワハラは顕在化しやすいが、モラハラは周囲が気づきにくい――といった説明がなされています。
「パワハラは上司から部下など職場内での力関係を用いたものだが、モラハラは職場内の立場に関係なく起こる」という分け方をすることもありますが、こういった考え方には注意が必要です。2019年に出された厚労省のパワハラ指針では「仲間外れや無視もパワハラにあたる」と明記されていますし、「優越的な関係」には上司・部下だけでなく、業務の習熟度や知識、経験などの幅広い関係性が含まれています。そのため、同僚間の悪質ないじめはパワハラと認められる可能性が高いのです。先に挙げた学校のいじめ事件も、同僚間の行為がパワハラと認定されました。
確かに、「パワハラ=上司から部下への度を越した指導」「モラハラ=同僚間のいじめ、嫌がらせ」という見方はイメージしやすいのかもしれません。ただし、悪質なモラハラがパワハラと認められたケースも多いので、モラハラは「パワハラの芽」と考えるのがよいのではないでしょうか。
そもそも「これはモラハラ」「あれはパワハラ」と区別することには、あまり意味がありません。パワハラやモラハラを含む「ハラスメント」を職場からなくしていくことが大事なのです。
担当者が行うべきモラハラ対策は?
担当者が行うべきモラハラ対策は、パワハラへの対応と同じです。つまり、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」によって義務づけられるパワハラ防止措置を行うことが、そのままモラハラ防止措置となります。詳しくはこちら
防止措置のポイントは以下の3点です。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
「相手の嫌がることを言わない、しない」のがハラスメントをなくす第一歩です。セクハラ、パワハラ、モラハラを含めた「ハラスメント禁止」を明確にし、すべてのハラスメントに対応する相談窓口を設け、相談があれば真摯に対応しましょう。
モラハラの相談があったときに行うべき対応も、パワハラと同様です。双方(必要であれば第三者)から話を聞き、モラハラがあると判断された場合は加害者に処分や注意を、被害者に配置転換などを含めたフォローをします。モラハラだと判断しない場合も、そのような疑いが持ち上がった職場環境の改善に努めるべきです。
モラハラが発生する職場だという事実は、当事者はもちろんのこと、他の社員のモチベーションをも大きく損ないます。「あの職場はいじめがある」とか「あの人には気をつけろ」などと言われる職場では誰も働きたくないでしょうし、がんばろうという気持ちになれないはず。モラハラを含むハラスメントのない職場を目指すことは、企業価値の向上にもつながります。
※記事内で取り上げた法令は2020年3月時点のものです。
参考:
職場におけるハラスメント関係指針(厚生労働省)
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/pdf/harassment_sisin_baltusui.pdf
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 歌代将也さん
TEXT:三漆真帆
EDITING:Indeed Japan + ノオト