改めて理解する「パワハラ」とは
一般的に、上司から部下への注意・指導において、恫喝するような説教や罵詈雑言、無理難題を押しつける、そしてこれは当然ですが暴力も含め、これらの行為は、パワーハラスメントに該当する可能性が高くなります。
厚生労働省による「職場におけるハラスメント関係指針」では、以下の3つを満たすものを、職場におけるパワハラと定義しています。
(1)優越的な関係を背景とした言動であって、
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
(3)労働者(パート、契約社員、派遣労働者等も含む)の就業環境が害されるもの
なお、「優越的な関係」における言動と定義されていることから、「上司から部下への行為」に限らず、同僚や部下からの言動であってもパワハラに該当するケースがありえます。
◆パワハラとして認められる代表的な言動
「職場におけるハラスメント関係指針」では、パワハラの代表的言動として、以下の6類型を挙げています。
(1)身体的な攻撃(暴行・障害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
(5)過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入る)
パワハラの定義について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
パワハラ防止法の施行前に、人事がチェックしておきたい「パワーハラスメントの定義」と「防止措置」
企業ができるパワハラ対策
◆企業がパワハラ対策を怠った際に考えられるリスク
近年は裁判を通じたパワハラ認定が増加しています。(※1)十分なパワハラ対策を行ってこなかった企業が、賠償金の支払いを命じられた裁判は少なくありません。このことからも、パワハラ対策を怠ることは、企業にとって大きなリスクになることが分かります。
さらにパワハラで訴えられることは、企業イメージの低下にもつながります。またパワハラが起こる職場では、社内の雰囲気も悪化し、離職者も増加することは想像に難くないでしょう。「ブラック企業」という言葉がある通り、求職者にとってもハラスメントの有無は重視され、悪いイメージがついてしまっては優秀な人材の採用が難しくなるでしょう。
(※1)『個別労働紛争解決制度の施行状況』厚生労働省
◆必要な「パワハラ防止措置」とは
2019年に成立した労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、企業は以下のようなパワハラ防止措置を講じることが義務づけられました。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
「パワハラを含むハラスメントはダメですよ」「パワハラが起きたらこうしますよ」という方針を就業規則に加えたり、「ハラスメント防止規程」などのルールを社内で定めたりします。
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
パワハラをはじめ、あらゆるハラスメントが発生したときに被害者がすぐに相談できるよう、相談窓口を設けます。社内の相談窓口として、人事担当や労働組合などがまず思い浮かびますが、弁護士事務所など社外に窓口を設けても構いません。社内外に複数の窓口を設けて併用する方法もあります。そして、あらかじめ、相談があった場合の対応の流れを定めておきましょう。
(3)ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
指針では「相談者・行為者のプライバシー保護」や「相談等を理由とした不利益取扱いの禁止」が定められています。対応を誤ってこれらに反しないよう注意が必要です。
企業に義務付けられたパワハラ防止措置についての詳細は、こちらをご確認ください。
パワハラ防止法の施行前に、人事がチェックしておきたい「パワーハラスメントの定義」と「防止措置」
近年広まりつつある「モラハラ」
パワハラとならび近年広まっているのが、「モラルハラスメント」(略して「モラハラ」)です。
モラハラはパワハラのように厚生労働省によって定義はされていませんが、一般的に「精神的な嫌がらせ・いじめ」「相手の尊厳を傷つける発言や行動」を指します。
パワハラ同様に、モラハラが起こってしまっては企業イメージや社内の雰囲気が著しく悪化します。そのため対策を行うことが必要とされています。
◆モラハラとパワハラの関係
モラハラとパワハラの違いについて、一般的に
「パワハラには肉体的な暴行も含まれるがモラハラは精神的なもののみ」「パワハラは顕在化しやすいが、モラハラは周囲が気づきにくい」
といった説明がされることがあります。また、パワハラは職場での力関係を用いたもので、モラハラは立場に関係なくおこる、などの分け方をされることもありますが、どちらの分類も注意が必要です。
先述の通り、パワハラは「優越的な関係における言動」という定義から、上司・部下に限らず、スキルや経験もその関係の要因となりえます。また、悪質なモラハラがパワハラと認められることも多く、モラハラとパワハラを区別すること自体、あまり意味があるものではありません。職場からハラスメントそのものをなくしていく必要があります。
モラハラについて詳しく知りたい方は、こちらの記事をご確認ください。
「職場モラハラ」を見逃さない! 担当者がチェックしておくべきモラルハラスメント対策
モラハラ防止措置について
モラハラを防止するにはどうしたらいいでしょうか。先ほど区別することに意味はないと述べましたが、「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」によって義務づけられたパワハラ防止措置が、そのままモラハラ防止措置として有効となります。
防止措置のポイントは以下の3点。
(1)事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
(2)相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)ハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
企業は「ハラスメント禁止」を明確に宣言し、相談窓口を設置した上で、相談には真摯な対応が必要です。
当事者双方や、必要に応じて第三者にヒアリングを行った上で、モラハラと判断した際は、被害者に対して配置転換などを含めたフォローを、加害者には処分や注意を行います。
モラハラだと判断しない場合も、そうした疑いが持ち上がったことを認識し、職場環境の改善を徹底しましょう。
モラハラ対策について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
「職場モラハラ」を見逃さない! 担当者がチェックしておくべきモラルハラスメント対策
最新のハラスメント「リモハラ」とその対策
◆リモハラとは
2020年、新型コロナウイルス感染症の流行拡大に伴い、数多くの企業が、自宅やサテライトオフィスなどで働く「リモートワーク」を導入しました。リモートハラスメント(リモハラ)はその中で生まれた新たなハラスメントであり、「リモートワーク中に行われるパワハラやセクハラなどのハラスメント行為」を指します。具体例としては、以下のような言動が挙げられます。
- 業務に直接関係のない範囲での指導
- 相手の自宅のインターネット環境の不備に対する叱責する
- ウェブカメラに映った部屋の様子(特に相手の自宅)に対する言及
- プライベートで1対1のオンライン飲み会に誘う など
◆リモハラへの対策
リモハラ対策としては次のような内容が有効だと考えられます。
- 「リモハラを許さない」という会社の方針を明確にする
- 相談窓口を整備・推進する
- どのような言動がリモハラに該当するのかを社員に周知する
またリモハラの相談があった場合は以下の点に注意が必要です。
- 相談内容がリモハラかどうか、人事がその場で判定しない
- 主観の入った同調をしない
主観的な同調を含む対応をしてしまうと、その内容で会社側が了承した、と相談者が吹聴してしまう可能性があります。相談者の気持ちを受け止めながらも、主観的な対応は行わないよう注意しましょう。
なお、防止策として、クラウドサービスなどを活用した各社員の業務進捗の「見える化」を行い、必要以上の社員監視を行わせないことも有効だと考えられます。
リモハラの概要と対策について、詳細はこちらをご参照ください。
リモハラが起きたらどうする?人事がとるべき対応と注意点
区別せず、全てのハラスメントへの対策が必要
以上、パワハラ、モラハラ、リモハラそれぞれの定義と対策についてご紹介しました。いずれのハラスメントにも共通しているのは、それらの発生によって企業にとって大きな痛手となるということ。企業イメージの悪化、賠償金、従業員のモチベーションの低下など、その損害は計り知れません。事前に防止策をしっかりと整備することが重要です。それぞれのハラスメントの定義をしっかりと押さえた上で、企業としていかなるハラスメントも許さないという姿勢を明確に示し、社員一人一人がしっかりと意識する環境づくりを目指しましょう。