障害者雇用促進法による不当な差別的取扱いの禁止について
「障害者雇用促進法」は、障害者の職業の安定などを目的に定められた法律です。「不当な差別取り扱い」の禁止について、障害者雇用促進法第34条と第35条で次のように定められています。
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者に対して、障害者でない者と均等な機会を与えなければならない。
引用:障害者雇用促進法第34条より
事業主は、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、労働者が障害者であることを理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしてはならない。
引用:障害者雇用促進法第35条より
・適用となる障害者
不当な差別的取扱いの禁止に該当するのは、障害者雇用促進法第2条第1号で定められた障害者です。従業員が障害者手帳を持っているかどうかは関係ありません。
障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。第六号において同じ。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。
引用:障害者雇用促進法第2条第1号より
◆不当な差別的取扱いの指針となる「障害者差別禁止指針」
厚生労働省は、障害者の差別禁止に関する内容について事業主が適切に対処するために「障害者差別禁止指針」を策定しました。下記の3つを基本的な考えとし、差別の内容について記載しています。
- すべての事業主が対象
- 障害者であることを理由にした差別(直接差別)を禁止
- 事業主や同じ職場で働く従業員が障害特性に関する正しい知識や理解を深めることが重要
・不当な差別的取扱いの内容
募集から退職までの各局面(募集・採用、賃金、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生など)において、障害者であることを理由に当事者を排除することや、障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが該当します。
一例として、「募集・採用」「賃金」「解雇」における障害者差別の内容を下記に挙げました。
<募集・採用>
- 障害者であることを理由に障害者を募集または採用の対象から排除すること
- 募集または採用で、障害者に対してのみ資格を必要とするなどの不利な条件をつけること
- 採用の基準を満たす応募者の中から、障害者でない人を優先して採用すること など
なお、障害者と障害者でない人に均等の機会を設けて採用選考を行った結果、労働能力や適性に基づき障害者を採用しなかったとしても、障害者差別とはみなされません。
<賃金>
- 障害者であることを理由に、障害者に対してのみ賞与を支給しないこと
- 昇給に当たり、障害者のみに試験を課すこと など
<解雇>
- 労働能力や適性に基づいたものでなく、障害者であることを理由に解雇の対象とすること
- 障害者と障害者でない従業員とで、解雇の要件に差をつけること など
また、次の措置は「障害者であることを理由とする差別」に該当しません。
- 積極的に差別を是正するために、障害者を有利に取り扱うこと
- 合理的配慮を提供し、労働能力などを適正に評価した結果、異なる取扱いを行うこと
- 合理的配慮の措置を講ずること など
◆企業が不当な差別的取扱をした場合のペナルティ
企業が障害者に対し不等な差別的取扱いをしても、刑事罰を受けることはありません。ただし、不当な差別的扱いを受けた従業員が民事訴訟を起こし、その訴えが認められた場合、企業が従業員に対し損害賠償を支払う可能性があります。
法定雇用率に適用されるのか
障害者の「法定雇用率」とは、障害者雇用促進法に基づき定められた制度です。企業には、同法で定められた法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務が生じます。
法定雇用率は基本的に5年ごとに見直されており、現在の民間企業の法定雇用率は2.3%です。具体的には、43.5人以上の従業員を雇用する事業主は、障害者を1人雇用することが義務付けられています。
◆従業員が障害者認定された場合、法定雇用率に適用されるのか
障害者と認定される際、下記の2つのケースがあります。
ア)医師から診断を受け、障害者手帳(身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保険福祉手帳)を所持している
イ)医師から診断を受けたけど、手帳を発行できない(交付対象となる障害基準を満たしていない)場合
上記のア)に該当する従業員を雇用し続ける場合、法定雇用率に適用されます。
従業員への配慮で注意すべきこと
◆合理的配慮とは
障害者雇用促進法で、事業主に障害特性に配慮した必要な措置を講じる「合理的配慮」が義務付けられています。
厚生労働省が策定した「合理的配慮指針」には障害ごとに合理的配慮の事例が記載されています。
例)合理的配慮の一例
- 聴覚・言語障害者に対し、業務指示や連絡の際に筆談やメールなどを利用すること
- 精神障害者に対し、できるだけ静かな場所で休憩できるようにすること
- 発達障害者に対し、感覚過敏を緩和するため、サングラスの着用や耳栓の使用を認めるなどの対応をすること など
◆合理的配慮を決める際の注意点
障害の状態や職場の環境などがそれぞれ違うことから、合理的配慮の内容も法律で明確に決まっているわけではありません。たとえば、社内周知に関しても「直属の上司にだけ伝える」「当事者が所属するチームのメンバーに伝える」など一人ひとり異なる対応が必要であり、当事者の意見や要望を尊重しながら決めることが大切です。
◆合理的配慮の提供義務が発生しない場合
次の点を考慮し企業にとって過重な負担となる場合は、合理的配慮の提供義務を負わなくていいケースがあります。その場合も、当事者への十分な説明や過重な負担にならない範囲で合理的配慮を提供するなどの対応が必要です。
- 事業活動の影響
- 実現困難度
- 費用負担の程度
- 企業の規模
- 企業の財務状況
- 公的支援の有無
障害認定を受けた後も労働者が働きやすい環境を作るには、企業が障害に関する知識を得て理解を深めながら、当事者の意見や要望に耳を傾けることが大切です。
※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
<取材先>
日野アビリティ法律事務所 代表 弁護士 伊藤克之さん
第二東京弁護士会所属。労働者の立場から、不当解雇や退職勧奨などの労働問題に取り組む。発達障害の特性を持つ弁護士として、同じ生きづらさに苦しむ当事者の権利を守る活動をするほか、発達障害当事者やその家族を対象とした発達障害者相談室を開催する。
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




