世界の企業が能力開発と組織づくりに取り入れる「マインドフルネス」とは

ビルの屋上で目を瞑る女性のイメージ


「社員の集中力が高まり、生産性が上がる」「社員同士に思いやりが芽生え、人間関係が改善する」「職場のチームワークが高まる」など、これらはどんな企業も実現したい目標ではないでしょうか。導入するとこれらの成果が得られるとして、世界中の企業やビジネスパーソンから注目されているのが「マインドフルネス」です。
リーダーシップと組織開発のために日本でいち早くマインドフルネスを導入し、多くの企業や個人向けの研修・コンサルティングを行う、一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事である荻野淳也さんに、マインドフルネスが企業と人にもたらす効果についてお聞きしました。

 
 

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「今、この瞬間」に集中する


――「マインドフルネス」とはどのようなものなのでしょうか。なぜ、企業からの注目を集めるようになったのでしょうか。
 
マインドフルネスとは、「今、この瞬間」に注意を向けた心の在り方のことです。また、そうした心の状態で「目の前のことに集中して取り組む力」や「今、この瞬間に集中したときに立ち上がってくる気づき」を指すこともあります。
 
「今、この瞬間」に注意を向ける、なんて当たり前のこと、誰でもしていることだと思われるかもしれませんね。でも、本当にそうでしょうか。
 
「今日は集中してこの仕事に取り組もう」と決めたのに、ついメールやSNSのチェックをしてしまい、いつの間にかネットサーフィンをしていた、なんていうことはありませんか。目の前の人の話を聞いていても「次は何を質問しようかな」「あと10分で終わらせなければ」と、つい別のことを考えてしまっていませんか。私たちは「今、ここ」にいるようで、実は「心ここにあらず」の状態にあることが非常に多いのです。
 
「マインドフルネス」は、2007年にGoogleが社内の人材開発のプログラムに取り入れたことで注目されるようになりました。「今、この瞬間」に集中するマインドフルネスの実践を繰り返すと集中力や注意力、自己認識力、ストレス・マネジメントや共感力が高まることは、脳科学の研究でも証明されています。

 
 

現状をあるがままに認識すれば、感情に流されなくなる


――現代の労働環境において、なぜマインドフルネスは必要とされるメソッドなのでしょうか。
 
現在、多くの企業は人材不足を感じていると思います。業務が多忙を極める中、常に成果を出し続けることが求められ、不安やおそれを抱えながら働いている人も増えています。
特にコロナ禍以降は、労働者の不安が顕著になっているのではないでしょうか。感染症そのものに対する恐怖に加え、先の見通しが立たず心許ない状態が続いています。リモートワークが一般的になったことで、気軽に誰かに悩みを相談する機会も減っています。
 
不安やおそれが高まると、考え方はネガティブになります。過去の失敗を思い出したり、将来のリスクを心配しすぎたりして、注意も散漫になり良い成果を出すことが難しくなります。この状態が続けばストレスも大きくなりますし、そんな自分を受け入れられません。「自分はダメだ」と落ち込んだり、他者を感情的に責めてしまったりします。場合によっては心身の健康を害してしまう社員も出てきてしまうでしょう。
 
――では、「今、この瞬間」に集中すると、なぜ良い影響がもたらされるのでしょうか。
 
マインドフルネスでは、いかなる状況にあっても「評価や判断を手放して、あるがままにものごとを観る」ことを大切にしています。
 
「今、この瞬間」に集中できていると、注意力が高まり、自分の感情や体調といった状態に気づきやすくなります。カッとなって人につらく当たってしまう前に、「今、自分はイライラしている」と気づくだけでいいのです。気づくことで「少し休もうかな」など次の行動を落ち着いて選択する余地が生まれます。
 
自分の状態に気がつかないままでいると、気分がますます落ち込んでしまいます。また、気づいても「小さなことでイライラしている自分はダメだ」と否定的な感情と結びつきやすいものです。
まずは「イライラしている」「ネガティブな評価をしている」という自分の状態に気づくことが重要です。ここが自己認識、セルフマネジメントの始まりであり、組織の適切な意思決定を導くリーダーシップの在り方を改善することにもつながります。

 
 

リーダーこそ「マインドフルネス」が必要


――「自己認識」がリーダーシップの在り方を変える点について詳しく教えていただけますか。
 
生産性の高い組織づくりのキーワードとして「心理的安全性」という言葉がよく使われます。
社員が「意見を言っても聞いてもらえない」と感じている組織では、新しいアイデアが提案されることは少ないでしょう。失敗をひどく叱責される雰囲気のある会社からは、今までとは違うことにチャレンジしようとする社員はいなくなってしまいます。社員が「自分の意見や挑戦をきちんと受け止めてもらえる」と感じられる、心理的安全性の高い職場を作ることは経営者の責任です。
 
そのためには、まずは経営者自身が「自分がどんな状態にあるか」に気づかなければなりません。知らず知らずのうちに不機嫌な気分が態度に表れていて、周りの社員たちに「話しかけづらい」「相談があるけれど今日はやめておこう」と思わせていないでしょうか。
 
ビジネスパーソンの日常、特に経営者の毎日は目まぐるしいものです。刻一刻と変わる状況に合わせて、先へ先へと次のアクションを起こしていかなければならない。
でも、そんなときこそ立ち止まり「今、ここ」にフォーカスすることが大切です。「目的地に急ぐあまり見逃していた景色はなかったか。今、自分が見ている景色はどんなものか。」「目の前にいる社員の話を聞けていたか」。経営者こそ「自己認識」、そして自分が社員などの他者からどう思われているかを知ることが大切です。
 
自己認識が出来ていない状態では、他者の状態を正しく見ることもできません。社員のマネジメントに関わる経営者や管理職こそ「マインドフルネス」の実践が求められていると言われるのはこのためです。

 
 

不安が大きくなる時代にますます求められる「マインドフルネス」


――「マインドフルネス」の実践によって個人の注意力や自己認識力が上がり、次にチームのコミュニケーションが改善され組織力も向上するのですね。
 
マインドフルネスを導入した企業からは、他にも「感情のマネジメント力が育まれる」「想像力が高まる」「ストレスが改善され、レジリエンス(回復力)が高まる」といった効果も報告されています。
 
日本でも各業界の先端企業を中心に350社以上がマインドフルネスに基づいた研修を続々と取り入れているのは、科学的な裏付けがあり、こうした確かな成果が得られるからに他なりません。先行きが不透明で見通しが立てづらい今の時代にこそ、不安に流されることなくより良い意志決定をするためにも、多くの職場でマインドフルネスを実践してもらいたいと考えています。

 
 
 

(参考資料)
Altered anterior insula activation during anticipation and experience of painful stimuli in expert meditators (Antoine Lutz, Daniel R McFarlin, David M Perlman, Tim V Salomons, Richard J Davidson, 2012)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23000783/
 
The neuroscience of mindfulness meditation (Yi-Yuan Tang, Britta K. Hölzel & Michael I. Posner, 2015)
https://www.nature.com/articles/nrn3916
 
<取材先>
荻野淳也さん 一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事
外資系コンサル会社勤務や複数のベンチャー企業での経営企画室長、取締役など、20年以上の企業経営、組織マネジメントの経験を踏まえ、リーダーシップ開発、組織開発の分野で、コンサルティング、トレーニング、エグゼクティブコーチングに従事。『マインドフルネスが最高の人材とチームを作る』(かんき出版)など著書多数。
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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