裁量労働制の対象業務
◆専門業務型裁量労働制
19の対象業務が法律で定められています(詳しくはこちら)。
対象業務の例
- 情報処理システムの分析や設計
- 衣服、室内装飾、工業製品、広告などの新しいデザインを考案
- 新聞、出版、番組制作における取材や編集
- ゲーム用ソフトウェアの制作
「専門型」の裁量労働制を職場で使うときは、制度を利用する仕事の範囲や対象者、そして1日の労働時間を何時間とみなすのか(みなし労働時間)などについて、会社と労働者が合意して協定を結び、労働基準監督署に届け出なければなりません。
◆企画業務型裁量労働制
経営に関わる企画や立案、調査、分析などを行う、大企業の経営企画室や経営戦略室の社員などが対象です。業務を適切にこなせるだけの知識や経験が条件になります。このため、たとえば職務経験のない新卒に「企画型」の裁量労働制をいきなり使うことは考えにくいでしょう。
「企画型」の裁量労働制を適用する際は、まず労使委員会を設置します。委員会で5分の4以上の多数で決議を取り、使用者が労働基準監督署に労使協定を届け出る必要があります。他にもたくさんの決まりがあり、「専門型」よりも導入ハードルの高い制度です。
裁量労働制を取り入れるメリット
◆納期が読めない業務に取り入れやすい
じっくり時間をかけて取り組みたいクリエイティブな仕事や、新規開発、研究、経営企画のような職種に向いていると言えるでしょう。仕事の進め方や勤務時間について、担当者の働きやすいやり方を取り入れることで、働く方も細かいことを気にせず納得いくまでアイデアや創造力を業務に生かせます。
◆人件費を想定しやすい
どのくらい時間がかかるのかわからない仕事は、残業代の金額も予想できません。みなし労働時間を前もって決めておけば、みなし労働時間で給与を支払うため、人件費の予算管理がやりやすくなります。
裁量労働制を取り入れるときのチェックポイント
裁量労働制を取り入れる際は、以下の点に注意することが大切です。
◆対象業務や対象者は適切か
裁量労働制は、たとえ会社側と従業員の合意があっても、決められた業務以外には使えません。また「専門型」と「企画型」のいずれも、指示を受けずに自ら判断して業務を進められる人でなければいけません。つまり、それなりの知識と経験が必要になります。
◆業務中に具体的な指示を出していないか
裁量労働制では、業務のやり方や使う時間に上司といえども具体的な指示はできません。過程はすべて労働者に任せるのがこの制度の大切なルールです。つい指示をしたくなってしまう上司は注意が必要です。
◆みなし労働時間の設定は適切か
この制度では、1日の労働時間を何時間働いたものとみなすか(みなし労働時間)を決めて協定を結びます。しかし、みなし労働時間が業務に実際かかる時間とあまりに大きく差があるときは、みなし労働時間の決め方に問題があります。設定したみなし労働時間が適切かどうか、定期的に見直す必要があります。
◆健康や福祉を確保する措置を実施しているか
企業は裁量労働制で働く人の時間「管理(指示)」はできませんが、過労で健康を損なわないよう配慮もしなければなりません。2019年4月の働き方改革の改正では、管理職や裁量労働の人に対しても、就業時間の「把握(記録)」が義務化されました。
◆休日労働や深夜労働には時間外手当を払っているか
裁量労働制のみなし労働時間は、通常の労働日の協定です。休日に業務を行う場合は時間外手当を支払う必要があります。深夜労働にも手当の支払が必要です。
裁量労働制を正しく活用しよう
裁量労働制は、正しく活用すれば、能力のある社員が柔軟な働き方で集中して仕事に取組み、より高いパフォーマンスを上げるのに役立ちます。制度をしっかり理解し、社員の働き方の多様性を広げていきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2020年6月時点のものです。
参考:
裁量労働制の概要(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/sairyo.html
<取材先>
志村経営労働事務所
社会保険労務士 小林寛子さん
TEXT:森夏紀
EDITING:Indeed Japan + ノオト