出向社員の給与や保険料、出向元と出向先どちらが負担する?


会社が従業員を別の会社の指揮命令下で勤務させる「出向」。出向契約を締結する際に、対象となる従業員の給与や社会保険は出向元と出向先のどちらが負担するのでしょうか。特定社会保険労務士の渡邉哲史さんに解説してもらいました。

 
 

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出向とは


出向には、会社と従業員の雇用契約関係が異なる「在籍出向」と「転籍(移籍出向)」があります。

 
 

在籍出向


会社(出向元)と従業員が雇用関係を継続したまま、従業員が別の会社(出向先)とも雇用契約を結び、出向先からの指揮命令を受けて勤務すること。「出向」という場合、多くは在籍出向を指します。

 
 

転籍(移籍出向)


会社(出向元)と従業員が雇用契約を解消し、別の会社(出向先)と新たに雇用契約を結び、出向先の指揮命令下で勤務すること。出向元が従業員からの合意を得る必要があります。

 
 

出向社員の給与はどちらの会社が負担するのか

 

・在籍出向の場合


前提として、出向元と雇用契約を続けたまま出向する「在籍出向」の場合、給与の負担について法律上の明確なルールはありません。出向元と出向先の双方の人事担当者が、出向の形態や会社間の関係性などに基づいて、内容を取り決めます。
 
ここでは、出向の形態による給与負担の一例を挙げます。
 
1.要因調整型
出向元における雇用確保を目的としたもの。出向元の業績などにより人件費を負担できないケースがあり、その場合は出向先が給与を負担することが多いです。
 
2.業務提携型
出向元から出向先への経営指導や技術指導を目的としたもの。出向先が出向元からノウハウを教わるため、出向先が給与負担するケースが多いです。
 
3.実習型
出向先で技術指導などを受け、出向元の従業員の技術習得や能力開発などを目的としたもの。出向元が出向先からノウハウを教わるため、出向元が給与を負担するケースが多いです。
 
4.人事交流型
企業間の交流を目的としたもの。グループ会社間で行うことが多く、給与負担は会社間の取り決めによって異なります。一例として、親会社が全額負担して、グループ会社同士を交流させるケースもあります。

 

・転籍(移籍出向)の場合


出向元と従業員が雇用契約を終了しているため、出向先が負担します。

 
 

出向社員の保険料の取り扱い

 
 

◆健康保険・厚生年金保険

 

・在籍出向の場合


出向元と出向先のどちらが健康保険と厚生年金保険を負担するかは、従業員への給与負担の状況によって異なります。
 
1.出向元が給与を全額支払う
出向元が健康保険と厚生年金保険を負担します。
 
2.出向先が給与を全額支払う
出向先が健康保険と厚生年金保険を負担します。
 
3.出向元・出向先がそれぞれ給与を支払う
出向元と出向先の取り決めによっては、それぞれが給与を払う場合もあります。原則として、支払い額の多い方が健康保険と厚生年金保険を全額負担します。しかし、社会保険には「4分の3基準」があり、1週間の所定労働時間や1カ月の所定労働日数がこの基準を満たす場合、双方の健康保険と厚生年金保険に加入しなくてはいけません。
 
この場合、従業員はどちらの保険に加入するかを選択でき、従業員が選択した方の事業所が管轄の年金事務所に「二以上事業所勤務届」を提出します。出向元・出向先の給与を合算して保険料を算出し、各事業所の給与に応じて振り分けられた保険料を支払います。
 
なお、一般の従業員でこの「二以上事業所勤務」の条件を満たすことはあまりなく、おもに役員や管理監督者として出向先で勤務する場合に適用されます。年金事務所によって判断が異なるケースもあるため、出向元・出向先を管轄する年金事務所が異なる場合は、双方に確認するのがいいでしょう。
 
<出向元・出向先の健保組合で保険料率が異なる場合>
出向先の保険料率が出向元より高くなる場合、従業員が支払う保険料が高くなる可能性があります。その場合、出向契約によって異なりますが、出向元・出向先のいずれかが従業員の保険料の差額を給与として支給することがあります。ただし、従業員にとっては次のような負担増の懸念があります。

 

  • 給与は課税対象のため、給与アップによって従業員が支払う所得税の負担が増える可能性がある
  • 給与として保険料の差額が支払われた結果、給与総額とともに標準報酬月額が変わり、保険料が上がる可能性がある


従業員に不利益にならないようにするためには、保険料が高くなっても従業員がそれを支払った方がいいのか、出向元・出向先のいずれかが給与で差額分を支給した方がいいのかを、その時々で判断する必要があります。

 

・転籍(移籍出向)の場合


従業員は出向先の健康保険・厚生年金保険に加入するため、出向先が負担します。

 
 

◆雇用保険

 

・在籍出向の場合


従業員へ給与を支払う企業が負担します。しかし、気をつけたいのが出向元・出向先がそれぞれ給与を支払っている場合です。
 
例)給与額:30万円
出向元の給与負担:20万
出向先の給与負担:10万
 
この場合、給与負担の多い出向元が雇用保険を負担しますが、保険料は20万円で算定されます。雇用保険は従業員が失業した場合に、次の職に就くまでに必要な手当を受けられる社会保険の一種です。保険料が20万円で算定された場合、従業員に給付される手当は本来の30万円より少なくなります。
 
在籍出向は基本的に一定期間を経た後に出向元に戻ることを前提としているため、出向期間中に従業員が退職するケースはあまり多くありません。仮に出向期間中に従業員が退職した場合、企業によっては退職金に上乗せして差額を補填するなどの対応を行う場合もあります。
 
いずれにせよ、出向に関する取り決めを行う際には、雇用保険の給付額が下がる可能性もあることを従業員に必ず説明するようにしましょう。

 

・転籍(移籍出向)の場合


従業員は出向先の雇用保険に加入するため、出向先が負担します。

 
 

◆労災保険

 

・在籍出向の場合


労災保険は、労災事故がどこで起きたのかを基準に判断します。在籍出向の場合は、給与負担に関係なく「勤務先=出向先」が負担します。
 
ただし、以下のように従業員が出向元と出向先の両方で働く場合は、勤務日数の割合によって両社の負担が変わります。
 
例)週2日は出向元、週3日は出向先に勤務する
出向元が週2日分の賃金にかかる労災保険料を、出向先が週3日分の賃金にかかる労災保険料をそれぞれ負担する

 

・転籍(移籍出向)の場合


労働者の勤務先となる出向先が負担します。

 
 

出向社員の残業代、賞与、退職金などの諸手当はどうなる?

 
 

◆残業代

 

・在籍出向の場合


出向元・出向先のどちらが残業代を支払うかは、会社間の取り決めによって決まります。しかし、労働時間や休憩、休日休暇は出向先のルールが適用されるため、出向元が残業代を負担する場合は出向先からの報告を受けて支払う流れになります。

 

・転籍(移籍出向)の場合


出向先と従業員が労働契約を締結するため、出向先が負担します。

 
 

◆賞与

 

・在籍出向の場合


賞与額は労務提供に基づいて算出されます。出向元・出向先のどちらが負担するかは出向契約の取り決めによって異なりますが、基本的に出向先の基準に合わせて決められ、出向先が負担するケースが多いです。
 
負担額が異なる場合は、出向元が出向先に補填額を支払うケースもあります。いずれにしても出向契約の際に取り決めておきましょう。

 

・転籍(移籍出向)の場合


転籍の場合、出向元との雇用契約は終了するため、出向先のルールが適用されます。

 
 

◆退職金

 

・在籍出向の場合


明確な規定はありませんが、出向元の事情で従業員を出向させる場合は、出向期間中も勤続年数として通算する企業が多い傾向にあります。従業員が気持ちよく出向できるように、労働条件の通知の際に明記しておくことが大切です。

 

・転籍(移籍出向)の場合


以下のケースがあり、転籍契約を締結する際に明確にしておく必要があります。

 

  • 出向元との雇用契約を解消する際に退職金を支払う
  • 親会社や子会社間、グループ会社間での転籍の場合は、出向元の勤務年数も通算して出向先を退職した際に支払う


出向に関する取り決めには、明確なルールが定められていないものもあります。出向を行う際には、従業員の不利益にならないかどうかを最優先に考えて進めることが大切です。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年7月時点のものです。
 
<取材先>
TOMA社労士法人 特定社会保険労務士 渡邉哲史さん
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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