Owned Media Recruiting 実践企業事例 株式会社FOOD & LIFE COMPANIES 「仕入れるだけじゃない。生産者と二人三脚でうまいをつくる。みえないところも、スシロー」の額の横でこちらを向く株式会社FOOD & LIFE COMPANIES 人事部 採用課 課長 伊藤大雅氏

2021年4月1日、「スシロー」「鮨 酒 肴 杉玉」といった外食ブランドを展開する株式会社スシローグローバルホールディングスは、株式会社FOOD & LIFE COMPANIES(以下、F&LC)に社名を変更した。社名に込めた「日々の食を美味しくすることで、お客さまの生活や人生までゆたかにしたい。」という想いを実現する仲間が集う企業を目指していくという。さらに同日、「京樽」「回転寿司 海鮮三崎港(現:回転寿司みさき)」などを展開する株式会社京樽が、F&LCの子会社(以下、「COMPANIES」)に加わった。

その原動力となって最前線でお客様に向かい合うのは、店舗の運営を任される社員であり、商品の作成や接客を担うパート・アルバイトのスタッフだ。すべての「COMPANIES」の採用活動を統括するF&LC人事部 採用課 課長の伊藤大雅氏に、キャリア採用およびパート・アルバイト採用の現状と戦略を聞いた。

FOOD & LIFE COMPANIESの額の横でこちらを向く 伊藤大雅氏
伊藤大雅氏。株式会社FOOD & LIFE COMPANIES 人事部 採用課 課長。大学卒業後、不動産会社に就職。営業を経験後人事部へ異動し、人材採用に従事。2010年、株式会社あきんどスシローに入社し、パート・アルバイト採用チームリーダーを経て、2014年より現職。

すべての「COMPANIES」の採用をF&LCで統括

インタビューをうける 伊藤大雅氏

──F&LCは、「変えよう、毎日の美味しさを。広めよう、世界に喜びを。」というビジョンのもと、コロナ禍でも業績を落とすことなく成長し続け、店舗数も拡大しています。採用はどのような組織体制で行われているのでしょうか。

伊藤:F&LCの国内における「COMPANIES」には、スシローを運営する「株式会社あきんどスシロー(以下、スシロー)」、杉玉を運営する「株式会社FOOD & LIFE INNOVATIONS(以下、F&LI)」、京樽や回転寿司みさきを運営する「株式会社京樽(以下、京樽)」があります。すべての「COMPANIES」の人事や経理、経営企画といった本部機能はF&LCに集約されており、基本的には社員採用もパート・アルバイト採用もF&LC 人事部 採用課の施策のもとで行っています。

社員については、F&LC 人事部 採用課のメンバーが選考過程にすべて携わることで統一した判断基準を確立しています。入社後に配属される店舗の店長やマネージャーには、店舗見学や入社前面談など、内定者のフォローをお願いしています。

採用戦略は各「COMPANIES」の社長と相談しながら進めており、例えば、スシローでは月に1回のミーティングで戦略を練ります。今はパート・アルバイトから社員への社員登用をメインに採用活動を行っているため、現場の状況を確認しつつ、店舗のバックヤードでのポスター掲示や人事部が管理するSNSを活用して、採用に関する様々な情報をスタッフに直接届けるなどの施策を取り入れています。

──パート・アルバイトの採用についてはいかがでしょうか。

パート・アルバイト採用については、基本的に、採用店の店長が面接して採用を判断します。どの時間帯に何人ぐらい欲しいといった判断をするのも店長です。F&LC 人事部 採用課では、採用サイトの制作や情報共有を通じたサポートなどを行っています。

F&LCのリードのもと、ブランドごとの企業理念を各採用サイトで発信

インタビューをうける 伊藤大雅氏

──採用サイトは外食のブランドごとに展開されていますが、すべてF&LC 人事部 採用課で制作されているのでしょうか。

伊藤:はい。採用サイトは各ブランドにありますが、制作はすべてF&LC 人事部 採用課が担当しています。今は、「社員の新卒採用・キャリア採用」「パート・アルバイト採用」を網羅するスシローの採用サイトが一番充実しています。

──そのスシローの採用サイトでは、「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」という理念を冒頭に掲げ、この使命を持ってお客様に寄り添える人、お客様の笑顔を仲間と分かち合える人といった、求める人物像のイメージを明確にしていますね。

伊藤:はい。その点をスシローの採用サイトで特にわかりやすく示しているのが、サイトのトップにある「お客様の笑顔が、スシローを幸せにする。」という動画です。2017年に制作したもので、スシローの企業理念をきちんと表現していると思います。

この理念をスシローではとても大事にしており、販促施策などもすべてが理念に沿って決まっていきます。採用の施策においても「一緒に企業理念を達成できる人材をいかに採用するか」が議論のスタート地点となります。

採用の過程においては、理念に沿って、お客様や誰かを喜ばせることが好きな人、仲間の笑顔・チームに貢献できる人であるかどうかを、面接などを通じたコミュニケーションによって見極めています。

もちろん、企業理念はスシローに限ったことではなく、例えば京樽では、「伝えたい『食』がある。創りたい『食』がある。」を掲げています。

スシローでもっとも定着率が高いアルバイトは女子高校生。採用にデータ分析を活用

「すしトーーク!」トップページのキャプチャ
働く人の“素顔”を見せることで、外食産業のイメージを変えていくことを意図している

──スシローの採用サイトに収録されているコンテンツ、「すしトーーク!」についてお聞かせください。

伊藤:「すしトーーク!」は2019年にスタートしました。私自身はF&LCの事業に魅力を感じて不動産業界から転職してきましたが、一般的には、「外食産業はとても大変」というイメージがあり、「外食」というだけで求職者からシャットアウトされてしまうことが多いのです。

そこで、企業カルチャーをきちんと伝えられるコンテンツで、かつ採用サイトとは違った角度でスシローの魅力を伝えていこうと、広報と相談して制作したのが「すしトーーク!」です。

──「すしトーーク!」には、品質管理のプロとして「手洗い管理者(社内資格)」制度を進める女性、兄弟で活躍する営業課長と店長などが登場し、充実した表情を知ることができます。これは、パート・アルバイトへ向けたインナーブランディングの意図もあるのでしょうか。

伊藤 はい、あります。実は各「COMPANIES 」では、パート・アルバイトからの社員登用に重点を置いています。例えばスシローの場合、今期の採用は300人を予定していますが、そのうち6〜7割はパート・アルバイトから採用したいと考えています。

とはいえ、パート・アルバイトの方に「社員になりませんか?」と打診すると、多くは躊躇するんですね。パート・アルバイトとして社員の大変な部分を見てきた結果、実際に見えている社員像は一部なのに「社員は大変だ」という一面的な見方になり、「学生の間など、数年バイトとして働く場所」と捉える方が多くなってしまうんです。

お店の責任者として人員や売り上げの計画を立てたり、そこに数字がついてくる喜びを感じたりするなど、表に出づらい面が見えていません。そのため、社員の表情をきちんと見てほしいという思いをコンテンツ化しました。

おかげさまで反響はポジティブで、こんなに素晴らしい人材が働いているのかという感動の声もいただきました。今は、求職者からも「あの人の記事を見て、私もあんなふうに働きたいと思った」といった声をいただいています。

──「カムバック採用」もかなり作り込まれている印象です。

伊藤:スシローでアルバイトをしていた方が社会に一度出た後、転職先としてスシローを考えやすいようにしたいというのが出発点です。

新卒の30%ほどが3年で退職する世の中ですので、アルバイト時代を思い出し、「やっぱりスシローが良かった」と思った時に、帰ってこられる窓口を作っておくことが重要と考えました。

カムバック採用のサイトを作成すると同時に、サイトのQRコードを載せた名刺サイズのカードを作成し、毎年、学校の卒業と同時にアルバイトも卒業(退職)する方に、店長から渡しています。今では、毎年10名前後のカムバック採用につながっていますね。

──同じくスシローのパート・アルバイトの採用サイトでは、イラストを豊富に使った仕事内容の紹介や、「友達同士で応募してもいいですか?」といったQ&Aコーナーなど、わかりやすく楽しいコンテンツが印象的でした。

パート・アルバイト採用サイトのトップのキャプチャ
データ分析を採用サイトに反映させることで、ターゲット層への訴求をねらっている

伊藤:パート・アルバイトの場合、主婦・主夫層がメインになる朝から昼の時間帯は入れ替わりが少ないのに対して、夕方から夜の時間帯は入れ替わりが激しく、人手不足になりやすいことがあります。夕方から夜の時間帯に入れる学生層を意識して、サイトでは親しみやすさを大切にしています。

また、採用コストや生産性を左右する定着率を分析した結果、アルバイトでは「女子高校生」の定着率が高いというデータが出たんです。それならば、女子高校生を意識したコンテンツも盛り込もうと考え、パート・アルバイト採用サイトのトップ画面のスライドショーには、2人の女子高校生が教室で楽しそうにおしゃべりしている写真と、「ねぇねぇ、次のシフトって、どうする?」というキャッチコピーを採用しています。

スライドショーは全3枚で、男性や主婦・主夫層を意識した写真とともに、パート・アルバイト経験がない方に向けたスライドも掲載しています。

F&LCの採用ブランディング、今後のテーマは「ちょっと違う」を発信すること

インタビューをうける 伊藤大雅氏

──外食産業はコロナ禍で大きな影響を受けたと推測します。すべての「COMPANIES」を通じて、採用への影響などはありましたか。

伊藤:そうですね。すべての「COMPANIES」が、これまで経験したことのない状況になりました。ただ、お客様が大きく減った時期もありましたが、幸いにして客足の戻りは早かったと思います。

採用に関しては、当初はコロナ禍の影響がどのくらいになるのかわかりませんでした。そのため、採用活動を控えようとしましたが、客足の戻りやテイクアウトのご利用状況などを鑑みて、やはり活動は継続しようということになりました。そのような採用活動の“ぶれ”や、コロナ禍の影響を受けた採用マーケットに、どのようにアジャストしていくかといった苦労はありましたね。

また、F&LCのビジネスは、リアルコミュニケーションを介してお客様と接するからこそ、「対面したときの印象」や「会話の雰囲気」など会って初めてわかる情報が大切です。そこをどう担保するのかという課題はありつつも、新しい取り組みとしてオンライン面接などを取り入れたのは大きな変化だったと思います。

──オンライン採用については、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

伊藤:キャリア採用では、オンライン面接のほか、求人へご応募いただいた方に、オンデマンドでご覧いただける会社紹介動画をお送りしています。

パート・アルバイト採用では録画による面接を取り入れました。応募者には、こちらで用意したシステムにアクセスしていただき、画面上の質問に答えていただきます。後日、その録画を見て、店長が採用を判断するというものです。

とはいえ、採用に関してはやはり「弱者」であると認識しています。採用マーケットのなかで、外食産業への応募は数パーセントあるかないかです。さらに、そのなかで弊社を志望してくれる人はほんのわずかです。

外食産業の魅力は、「対面で話を聞いてもらう」「現場を見てもらう」ことで初めてきちんと伝わるため、オンラインを介した戦略だけを続けていくのは厳しいでしょう。今後は、いかに対面とオンラインのハイブリッドを構築するかがポイントになると思います。

──スシローや京樽などの外食ブランドは、コロナ禍でも成長を続けている印象があります。それを支える人材獲得のためのオウンドメディアリクルーティングについて、採用を統括するF&LCとしては、どのような展望を持っていますか。

伊藤:今は(2021年11月時点)緊急事態宣言が解かれ、営業時間も延びて、まさに求職者の争奪戦が始まっている状況です。例えば、パート・アルバイト採用の10月のデータを見ると、前月に比べて応募者数が半分になっていました。求職者においてはコロナ禍における外食産業への就業不安が残る一方で、宣言明けで求人が一気に増えているからだと分析しています。

今後は、まずは各ブランドが展開している採用サイトを充実させていきたいですね。ただ、そこだけでは足りないので、説明会や採用媒体など使えるチャネルを使って採用に取り組んでいきます。

例えば、これはアイデアベースですが、スシローの場合、YouTubeの採用チャンネルに上げる動画を100本作るといったことに取り組みたいです。非常事態宣言が開けたからといってコロナ禍が終結したわけではないため、対面での説明会やイベントには、まだハードルがあります。そのハードルをクリアし、好きなときに見ていただける動画には一定のメリットがあり、重要なコンテンツだと考えています。

私たちF&LCとしては、すしを中心とした食に関わる企業として、「これだけ素晴らしい人材が集まっているんだ」「ほかの会社とはちょっと違うぞ」と感じていただきたいと考えています。その“ちょっと違う”の部分をどう作っていくのか、どう情報発信をしていくのかを意識して採用活動に取り組んでいくつもりです。