
岐阜、愛知をはじめ中部地方を中心に、小売り、物流、食品製造、資材調達など様々な事業を展開する株式会社バローホールディングス。その中核を担うのがスーパーマーケット「バロー」を展開する株式会社バロー(以下、バロー)だ。
「創造・先取・挑戦」という経営理念を掲げ、正社員からパートタイマー(以下、パート)やアルバイトスタッフ(以下、アルバイト)まで多様な人材を採用する同社は、採用サイトをリニューアルしてから、中途採用、パート・アルバイト採用ともに応募数が増加しているという。そんな同社の情報発信について、人事採用部 チーフマネージャー市原賢人氏と、同じく人事採用部の井上梨乃氏に聞いた。

井上梨乃氏(右)。人事採用部。大学卒業後、現職である(株)バローに新卒入社。新店の立上げや、関西進出の旗艦店舗での業務を経て、人事採用部に異動。主に新卒採用を担当しつつ、LINEを用いた企画を中心的に行う。
時代や社会、消費者のニーズに応える事業に必要な人材を
――スーパーマーケット(以下、スーパー)「バロー」を展開する株式会社バローは、数多くの事業会社を傘下に置くバローホールディングスの中核企業です。どのような人材を求めて、採用サイトで情報発信を行っているのでしょうか。情報発信のねらいを教えてください。
市原:バローは中部地方を中心に240の店舗(2021年12月31日現在)を展開しています。
現在は特に、生鮮食品の強化・充実に力を入れていることもあり、中途採用では、肉や魚、野菜などの扱いに関してスキルや経験のある人を求めています。これは、競合のコンビニエンスストア(以下、コンビニ)やドラッグストアとの差別化のためです。
一般にスーパーの商圏は店舗から3〜5㎞の範囲、自動車で10分以内とされ、消費者からの「近さ」が強みと言われています。ところが、近年ではコンビニやドラッグストアが商圏のなかに増え、その強みが失われつつあります。そこで、生鮮食品に注力することで、商圏の外からでも訪れたくなるスーパーにしようと考えたわけです。「魚がいいから、遠くてもバローに行きたい」と選ばれることを目指しています。
井上:生鮮食品の品揃えから売り場作りまで工夫して、特色を出したいと考えています。例えば、鮮魚は市場から仕入れて売り場にそのまま並べ、刺し身で食べたい、焼き魚にしたいといったお客様の要望を聞き、その場でさばくという具合です。そのために、研修センターで魚のさばき方を従業員に教えることも始めています。
野菜は、いわゆる「おうち時間」の増加に伴って需要が増えているので、「箱売り」を行っています。タマネギやジャガイモを5kg、10kgと箱で買う人も少なくありません。フルーツの場合は、価格は高いけれど、品質の良いものをそろえることを考えています。魚や野菜、肉のいずれを強化するかは、地域性などを踏まえて選択する予定です。こうした生鮮食品の扱い方や売り方を知っている人や経験のある人を、中途採用では求めています。
――バローの新卒・既卒・第二新卒・中途採用向けの採用サイトは、スキルや経験よりも、「創造・先取・挑戦」という経営理念やビジョンを重視する姿勢が感じられるものになっています。
市原:理念やビジョンでいうと、スーパーの現場では、現在、生鮮食品重視で、店舗ごとに品揃えや売り場作りを進めています。10年ほど前までは逆で、魚や肉などの処理や加工をセンターで一括して行い、各店舗に配送していました。デフレの時代は、とにかく効率重視で、商品をより安価で届けることが求められていたからです。
私たちが常に取り組んでいるのは、時代や社会、消費者のニーズに応えること。それこそが当社が掲げる「創造・先取り・挑戦」の精神です。つまり、採用においても、求めるものは変わらないということなのです。

求職者の不安や疑問を解消する社員インタビュー

――社員インタビューで多様な社員を紹介し、様々な想いを取り上げていることも、採用サイトの特徴の一つです。どのような観点でインタビューする社員を選んでいるのでしょう。
市原:中途採用では様々なキャリアの人が応募するので、社員インタビューも、業務内容や役職、勤務地などのバラエティを考えて人選しています。内容に関しては、働きがいなどの点で同業他社との違いを引き出すようにしています。求職者の方には、キャリアアップや自己実現につながる会社であることを感じ取ってもらいたいですね。
また、パート・アルバイトスタッフへのインタビューでは、現場の雰囲気や入社当初のことを細かく聞いているので、求職者の方の不安を自然と払拭する内容になっていると思います。
井上:新卒や第二新卒の求職者に向けては、まず「働く」とはどういうことかをしっかりイメージしてもらいたいと考えています。そのため、実際の勤務や研修の様子などを社員の生の声で伝え、安心感を与えることを意識しています。
「一元管理」と徹底的な「絞り込み」でメリットが生まれるパート・アルバイト採用
――スーパーでは、パート・アルバイトの採用も多いと思います。採用に向けた情報発信については、どのような方針で臨んでいるのでしょうか。
市原:パート・アルバイトの採用サイトは、求職者目線では応募のしやすさ、採用側の目線では店舗の手間を省くことと、それぞれのメリットを考えた実用性重視の設計になっています。店舗をはじめ、勤務日や時間、職種、仕事の内容、時給といった様々な項目を掲載するとともに、求職者の方が条件に合うものを検索できるようにしています。
パート・アルバイトでの応募を考えている求職者の方は、非常に多様なニーズをお持ちです。働こうとしている時期や時間帯がピンポイントだったり、業務内容も可能な限り細かくイメージできることを気にしたりするなど、自身が重視しているポイントが叶うかが応募の基準となります。それらの項目を可能な限り弊社で把握し、全て事前に検索できる仕組みにしました。
応募する前、求職者のニーズにマッチする募集要項を正確に検索できれば、面接してみたら条件がミスマッチだったというような事態を避けられます。

井上:応募だけでなく、採用サイトから面接の日程まで予約できる店舗もあります。従来は電話での申し込みが基本で、各店舗の店長が対応していました。採用サイトから予約できれば、店舗と店長の負担を軽減でき、求職者の手間も省けます。このシステムを整えてから応募のハードルが下がり、応募数も増加中です。
――パート・アルバイトの応募は、業務内容や勤務時間などを細かく設定した方が増えるわけですね。採用サイトの改修後、応募者はどのくらい増えたのでしょうか。
市原:採用サイト上でパートやアルバイトの応募受付と、本部での一括管理を本格的にスタートさせたのは2020年4月からです。サイトへのアクセス件数は、年間約14000件から約18000件へ伸びています。
井上:電話での応募が明らかに減り、採用サイトからの応募が中心になりつつあります。60代の方からスマートフォン経由で応募をいただくケースも少なくありません。ただし、採用サイトからの応募は中部や関西地方では多いものの、北陸地方や長野県ではハローワークなどオフラインによるサービスからの応募が優勢です。地域によって効果のある媒体が違っていて、それに合わせた採用活動が必要だと気付いたことも、オンラインの応募経路の整備に取り組んだ成果と言えるかもしれません。
――パート・アルバイトの採用を本部で一元管理するメリットと課題については、ほかにどんなものが挙げられますか。
井上:本部で各店舗の採用情報を一覧できるので、例えば、求職者が希望した店舗の募集枠がすでに埋まっていた場合など、近隣の店舗で募集している同様の勤務条件の仕事を紹介できます。
市原:電話による応募で、店長や副店長などの採用責任者が不在で対応できない場合、求職者はすぐに他社へ切り替えてしまいます。オンラインでは基本的に対応できないことがないので、当社に興味を持っていただいた方とコミュニケーションを取ることが可能です。
井上:パート・アルバイトの採用情報は、原則として毎月1回、各店舗から現状やニーズを寄せてもらい更新しています。また、店舗の採用ニーズをすくい上げる専門のチームを結成し、現場の情報をより広く経営施策に反映できる体制を整えています。
一元管理は気の抜けない仕事で、正直なところ大変です。しかし、本部の役割は、各店舗が本来業務により注力できるよう、採用業務などの負担を軽減することです。今後も確実に取り組んでいきたいと考えています。
オンラインベースでも求職者との“つながり”を持つためのSNS活用
――採用サイトの改修からでアクセス数が増えたとのことですが、中途採用などの反応はいかがでしょうか。
市原:2021年4月にも採用サイトをリニューアルして、中途採用の応募ができるようにしました。それから約半年間にあった約600件の応募のうち、約100件が採用サイト経由で、予想以上の応募数でした。ただ、応募した人に外食業界出身者が多く含まれていたことからコロナ禍の影響もあると考え、今後の動向に注目しています。
――コロナ禍は採用にも影響を与えているとのことですが、どのような対策をされたのでしょうか。
井上:2020年の新卒の採用活動は、企業説明会や面接の一部をオンラインで行いました。中途採用の面接も同様です。そうしたなかで、やはり求職者とのつながりが希薄になっていると感じたため、SNSの活用をスタートしました。具体的には、LINEを使って、先輩社員のインタビューや社内のニュースを発信したり、求職者からの質問に答えたりしています。
現在は新卒の方々とのやり取りがメインですが、将来的には、中途採用やパート・アルバイト採用の領域でも活用してきたいと考えており、仕組みを検討中です。
「創造・先取・挑戦」の精神を、求職者にも従業員にも積極的に適用していく
――社会や消費者のニーズが変化し、働き方改革が進んでいくなかで、採用活動はどのようなものになるのでしょうか。今後の採用のビジョンについて教えてください。
市原:現在、2030年にグループ全体で売り上げ1兆円という目標を掲げ、各事業に取り組んでいます。こうした動きを受けて本部の機能も多様化し、専門の人材の必要性も高まっています。今後は部署や職種ごとに採用を行い、いわゆるジョブ型と言いますか、よりスキルマッチを重視した採用に注力していきたいと考えています。
井上:中途採用の社員を対象に、地域を限定して働くことができるエリア社員制度を設けたり、パート・アルバイトの方の正社員への登用制度を導入したりと、これまでも求職者のニーズを組み取った施策を行ってきました。
また、子育てしながら働く従業員のために、時短勤務制度や保育園なども用意しています。私自身が子育中なので、子育てしやすい会社であると間違いなく言えますね。こうした働く環境の整備は、今後も続けていきたいと考えています。
市原:求職者にも、従業員にも柔軟に対応する「創造・先取・挑戦」の精神を実践していきたいと思います。