
2021年10月1日、ドラッグストア業界大手の株式会社マツモトキヨシホールディングスと株式会社ココカラファインが経営統合し、株式会社マツキヨココカラ&カンパニー(以下、マツキヨココカラ&カンパニー)が誕生した。同日、リニューアルしたコーポレートサイトも公開され、マツキヨココカラ&カンパニーのグループ理念「未来の常識を創り出し、人々の生活を変えていく」と、グループビジョン「美しさと健やかさを、もっと楽しく、身近に。」が新しく打ち出された。
採用サイトは、2021年12月現在、マツモトキヨシグループとココカラファイングループの両グループで、それぞれ開設している。マツモトキヨシグループの採用サイトでは、業務や社員の思いだけでなく、プライベートについても語られ、ワークライフバランスを重視した企業カルチャーへの共感が喚起されている。ココカラファイングループの採用サイトでは、細かく定義されたペルソナにもとづいた採用情報の発信がなされている。
経営統合により、ドラッグストア業界のリーディングカンパニーとしてより存在感を高めるマツキヨココカラ&カンパニーの採用サイトや採用のための情報発信は、今後どのようにアップデートされていくのか。同社が描く採用戦略について、商品企画・開発、販売促進戦略の策定、人事や法務といった本部機能を担うグループ会社・株式会社MCCマネジメントで管理本部 人材開発部 採用課の主任を務める山森大樹氏に聞いた。

両グループの採用サイトは、今後、マツキヨココカラ&カンパニーとして統合していく

——2021年10月1日にマツモトキヨシホールディングスとココカラファインが経営統合し、マツキヨココカラ&カンパニーとしてスタートされました。
山森:はい。統合により発足したマツキヨココカラ&カンパニ-は、日本国内47都道府県すべてにまたがり、3300店舗を超える店舗網を持つ「お客様に最も身近な日本最大のドラッグストアグループ」となりました。2026年3月期までに売上高1.5兆円、将来的には美と健康の分野でアジアナンバー1を目指し、店舗拡大も視野に入れています。
その事業展開を支える人材採用を統括するため、マツモトキヨシグループの採用チームと、ココカラファイングループの採用チームが融合して、株式会社MCCマネジメント内に、「管理本部 人材開発部 採用課(以下、採用課)」が発足しました。ただ、しばらくはそれぞれのグループに分かれて採用活動を行っていきます。
現在、採用サイトについても、採用活動と同じくそれぞれのグループに分かれて開設しています。今後は、パート・アルバイト採用、キャリア採用、新卒採用の求人情報ごとに3段階に分けて統合していく予定です。
働きやすく、キャリアの幅が広いことを伝えるマツモトキヨシグループの採用サイト
——現在、マツモトキヨシグループの採用サイトは、「OnもOffも楽しみたい人へ」というコンセプトのもと構成されていますね。
山森:はい。マツモトキヨシグループでは「OnとOff」という言葉を2020年3月から使用しています。その背景には、ワークライフバランスを大事にするという世の中の潮流がもちろんあります。さらに、ドラッグストア業界の「残業が多い」というイメージを払拭し、マツモトキヨシグループの「時間外労働時間が少ない」「有給休暇の取得率が高い」「平均勤続年数が長い」という特徴を、求職者の皆さんにご理解いただきたいという狙いもあります。
そのため各社員のインタビューには、採用サイトのコンセプトに沿って、仕事だけでなくプライベートに関する話題を必ず盛り込んでいます。各人が休日に趣味を楽しむ姿などから、仕事のみならずプライベートも充実させることができることを知って欲しいですね。
——「OnとOff」というメッセージ性のあるオウンドメディアリクルーティングについて、効果はいかがでしょうか。
山森:マツモトキヨシグループの採用サイトは、18〜24歳までの若い世代の方々の流入数が多い状況です。福利厚生のページは、閲覧数はもちろん、ランディングページとしての効果も高くなっています。「OnとOff」というコンセプトが若い世代の皆さんに注目されていると分析しています。
一方で、マツモトキヨシグループには、ワークライフバランスを福利厚生面から捉えるだけの人ではなく、「思いを持って働ける人」に来ていただきたいという思いもあります。
——「思いを持って働ける人」というのはどのような人材でしょうか。
山森:私たちは、美と健康を推進しています。そのため、「地域の方々の健康増進に寄与したい」「化粧品担当として、お客様に適切な化粧品選びのお手伝いをしたい」「地域で1番のかかりつけ薬剤師を目指す」といった思いを持った人を「思いを持って働ける人」と捉えています。
——ワークライフバランスと「思いを持って働くこと」を両立させやすい環境作りとして、マツモトキヨシグループではどんなことを実践してきたのでしょうか。また、その点を踏まえた情報発信についてもお聞かせください。
山森:例えば、思いを持って働いているけど家庭の都合で時間が制限されてしまう子育て世代に向けて、小学校6年生の学年末まで使える育児短時間勤務制度があります。また、女性管理職の比率を上げていこうという会社の方針を受け、管理職を目指す女性社員には、店長・薬局長のライセンス試験を経るキャリアパスだけでなく、「チャレンジ店長・薬局長」という制度を設けています。
情報発信について言うと、採用サイトや会社説明会を通じて、福利厚生や待遇だけでなく、企業理念やビジョン、私たちの考え方をお伝えしてきました。また、既成概念に囚われることなく多彩なキャリアパスを描くことができる企業カルチャーであることなどもしっかりとお伝えしてきたつもりです。
——求職者や入社した方からの反応はいかがでしょうか。
山森:入社後に志望理由をお聞きすると、「キャリアの幅広さ」と答える方が多く、私たちのメッセージがきちんと伝わっている印象です。
例えば、薬剤師であれば、薬局やドラッグストアで働いている姿が一般的なイメージです。しかしマツモトキヨシグループには、プライベートブランドの商品開発や化粧品販売業務に携わっている薬剤師資格を持った社員が多くいます。私自身も薬剤師で、入社当初は店頭におりましたが、今は採用担当を務めています。
プライベートが充実していても、キャリアが充実していなければワークライフバランスが良いとは言えないでしょう。逆も然りです。入社後にどのようなキャリアを持てるのか、思いを持って働くことができるのかといった点をご理解いただけるよう心がけてきました。
ミスマッチを防ぐため、マツモトキヨシグループではオウンドメディア採用とリファラル採用を重視
——さきほど、マツモトキヨシグループでは会社説明会を実施されているとお伺いしました。キャリア採用においても会社説明会を実施してきたのでしょうか。
山森:マツモトキヨシグループにおける定期的な会社説明会は、新卒採用を対象としています。キャリア採用の場合、希望者のみ、採用面接を受けなくても会社説明だけをオンラインで受けられるようにしています。新卒採用とキャリア採用で形式は違いますが、入社後のミスマッチを防ぎたい考えに違いはありません。
ミスマッチは求職者にも企業にもマイナスです。その点において、オウンドメディアリクルーティングやリファラル採用は、志望意志が強いだけでなく、職場環境や考え方を理解されている求職者により多くリーチできるので、今後も重要になっていくだろうと捉えています。それらのルートから入社される方の割合は年々増えており、さらに増やしていきたい意図もあります。
——薬剤師の採用に関しては、売り手市場と伺っています。オウンドメディアリクルーティングやリファラル採用を重視するのは、その影響もあるのでしょうか。
山森:影響がないとは言えませんが、自社をきちんと知っていただき、入社後のミスマッチを減らして「やり甲斐」を持っていただくために有効な手法として重視しています。また、コストの面からも、オウンドメディアリクルーティングやリファラル採用が重要になってくるでしょう。
薬剤師の主な就職先としては、病院・診療所、製薬会社、調剤薬局、ドラッグストアの4業種があり、2018年は、病院・診療所が約19.3%、製薬会社が約9.3%、調剤薬局かドラッグストアが約58%、残り13.4%がその他業種となっています。
マツモトキヨシグループでは、年々、応募いただく薬剤師さんや薬学部の学生さんの人数が増加しており、現状では薬剤師さんの採用数に課題はありません。
ただし、薬剤師さんの採用市場を考えると、その状況が順調に続くとは限りません。薬科大学がない地域の店舗は、他の地域で学んだ方に来ていただかねばならないというハードルがあるため、地域による応募者の偏りもあります。さらに、キャリア採用においては、そもそも「薬剤師さんの求職者」との接点を持つことが難しく、採用サイトで正確な情報を訴求していく必要があるでしょう。
そのため、薬剤師さんのキャリア採用サイトに関しては、検索結果のランキングを上げることを目指していた従来の方向性から、仕事の内容や働く人の声などのコンテンツを重視し、求職者により求められる内容を充実させる方向へと舵を切ります、当社への理解や共感をより深めていただけるものにしたいですね。
——マツモトキヨシグループは、パート・アルバイトの応募数が多いと伺っていますが、採用において重視してきたことなどをお聞かせください。
山森:マツモトキヨシグループのパート・アルバイト採用サイトにおいても、「よくある質問」などを使いながら、業務内容や働くメリットなどの情報を掲載しています。できるだけ丁寧に情報を提示することでミスマッチを防ぎたいですね。さらに、スタッフインタビューを通じて、やり甲斐も感じてもらえるようにもしたいと考えています。
さらに、できるだけ多くの方に応募していただきたい側面もあるため、SEO対策とジョブディスクリプションの適正化にも努めてきました。
例えば、午前中のスタッフを採用したい店舗なら主婦・主夫の方を念頭に訴求テキストを考える、夕方以降のスタッフであれば学生さんに向けたテキストにするなどの工夫をして、応募数につながる取り組みをしています。採用サイトに掲載するテキストは採用課で作成しています。
マツキヨココカラ&カンパニーのグループ理念・ビジョンにもとづいた「やり甲斐」を伝える
——採用において、コロナ禍の影響はありましたか。
山森:はい。採用市場はコロナ禍で大きな影響を受けました。特に、パート・アルバイト採用では顕著です。採用手法においても、コロナ禍以前は、随時店舗見学を受けていたのですが、現在は基本的に控えています。これは、弊社だけでなく、店舗を構える多くの企業に共通する課題だと思います。
そこをフォローすべく、これから統合を進めていくマツキヨココカラ&カンパニーの採用サイトでは、バーチャルで店舗見学できるオンラインコンテンツなど、移動や対面を前提としない環境に合わせたコンテンツ作りに取り組んでいます。状況として、採用サイトを軸とするオウンドメディアリクルーティングの重要性が増したのではないでしょうか。
——採用活動について、今後の展望をお聞かせください。
山森:自分の健康は自分で守るセルフメディケーションが社会的に重視されているなか、健康な方も来店されるドラッグストアの役割は大きくなっていくはずです。弊社は、「地域の人をもっと元気にしたい」「健康寿命の延伸に貢献したい」「美と健康の手助けをしたい」といった思いを叶えるための行動が起こせる環境ですし、そんな思いを持つ方を求めています。さらに、さきほどお話ししたように、キャリアの幅も持つことができます。
その点を踏まえ、就職の選択肢としてドラッグストアの優先順位を高めてもらうためには、「ドラッグストア」といったイメージで一括りにされないことが重要です。採用サイトや、説明会などを通じて、マツキヨココカラ&カンパニーのグループ理念・ビジョンにもとづいた「やり甲斐」をきちんと伝えていきたいと考えています。