HRテックが広がった背景
HRテックとは、簡単にまとめると、人事をテクノロジーで助けるための仕組みです。採用から離職に至るまで、人事の幅広い業務を補ってくれる技術であり、身近なところではZoomのようなオンライン会議システムも「HRテック」と捉えられます。
国内では、早いところで2016年頃からHRテックを取り入れる企業が現れ、新型コロナウイルス感染症の影響による働き方の変化とともに、2019年以降急速に広がりを見せています。拡大の背景には、主に次の要因が考えられます。
◆働き方の多様化
コロナ禍によって各々の働く方法や働く場所が多様化したことが、大きな要因と考えられます。例えば、オンライン化が進んだ採用の現場では、面接官のスケジュール調整がより煩雑になり、その業務を補うためのHRテックが多く用いられるようになりました。
また人材教育の現場では、大人数で集まることが難しい状況下で事前に講義動画を録画し、あとから閲覧できるシステムを活用する企業も増えています。登壇者は一度の講義で済み、学ぶ側は好きな時間に閲覧することができるため、時間や場所を選ばず教育を進めることが可能になりました。
◆技術の進化
これまではサーバやソフトウェアを外部から購入して利用する際、社内にサーバを設置し、デスクトップで閲覧する「オンプレミス」と呼ばれるスタイルが主流でした。しかしクラウドの普及により、サーバを購入しなくてもよくなりましたし、いつでもどこでも情報にアクセスできるようになりました。技術の進化に伴いオンプレミスに比べて初期費用も抑えられ、運用のコストパフォーマンスが良くなっていることも、HRテックが広がりを見せている一因となっています。
◆IT導入補助金の登場
2017年から始まった「IT導入補助金」の存在も、HRテックの広がりを後押ししていると考えられます。これは、中小企業や小規模事業者が指定のITツールを導入することで、導入費用の一部を国が支援するという施策です。
HRテックはどんなシーンで活用されているのか
HRテックは、主に下記のようなシーンで活用されています。
- 求人(主に募集段階)
- 採用(主に集めた人の中から選考する段階)
- 労務管理(給与管理、勤怠管理、経費管理など)
- エンゲージメント(健康管理、社内コミュニケーション、日報管理など)
- タレントマネジメント(モチベーション管理、人材管理等)
- オンライン研修(マネージャー研修、採用者研修など)
上記はあくまで一例であり、HRテックと呼ばれる範囲は多岐に渡ります。例えば、人材教育分野のHRテックでは、複数の企業の受講者が配信された1つの講義を受けることができます。講義の中身に対して、同じ講義を受けた社内のメンバーだけでなく、異業種の人のコメントを閲覧できるなど互いにコミュニケーションがとれるものもあります。オフライン開催の自社研修ではこうした交流は難しいですが、HRテックを利用すれば手軽に新しい考えや視点に触れる機会を得ることができるのです。
HRテックを採用活動に導入するメリットは
例えば、求人段階では、サービスに会社概要等の情報を入力すればウェブページが作成でき、そのまま求人メディアに連携することができます。また人事業務においては、HRテックにより退職者を含めた社員情報を一元管理することが可能になります。これまで手が回らなかった業務も、HRテックを導入することで簡単に実現できるというのが最大の導入メリットです。
ただ、いかにHRテックが便利だからといって、すべての業務をシステム任せにすることはおすすめできません。採用や人事は、候補者や社員の人生に関わる業務だからこそ、最終的な決定は人間が責任をもって行うべきなのです。HRテックはあくまで業務を効率化するための支援の道具であることを忘れないようにしましょう。
<取材先>
株式会社新経営サービス 町田耕一さん
人事戦略研究所コンサルタント。大学院修了後、大手ERP開発企業で、人事給与システムの導入・保守に携わる傍ら、残業削減を含む社内改善にも携わり、成果を出す。新経営サービス入社後は、人事・情報技術の知見を活かし、人事制度策定・運用だけでなく、生産性向上と業務効率化に向けた開発も行う。
TEXT:ミノシマタカコ
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子 + ノオト
