有期労働契約とは
有期労働契約とは、労働期間を定めて労働契約を結ぶことをいいます。使用者(企業)と労働者の合意により、半年間、あるいは1年間など、具体的な契約期間を定めて就労し、契約終了前に次回の契約を結ぶことで更新します。パートタイマー、アルバイト、契約社員、嘱託社員など、いわゆる非正規労働者に多い契約形態です。
一方、労働期間を定めずに労働契約を結ぶことを、無期労働契約といいます。正社員は一般的に無期労働契約ですが、パートタイマーなどであっても特に期間を定めずに雇用している場合は、無期労働契約となります。
有期労働契約で人を雇い入れる際のルール
有期労働契約で人を雇い入れるときには、募集時、雇い入れ時、雇用契約期間中にそれぞれ守るべきルールがあります。
◆募集時は、有期契約社員であることを明示する
有期労働契約で求人をする場合、応募者を増やすために「正社員募集」とだけ明示して募集することはできません。有期契約で雇い入れることを明示する必要があります。
◆雇い入れ時は、労働条件を明示する
有期労働契約に限らず、人を採用するときは、契約期間、賃金、労働時間、また更新の有無や更新の判断基準など、決まった項目を明示しなくてはいけません。パートタイム労働者を採用するときは、正社員の労働条件に加え、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口も明示する必要があります。これらの項目は、原則として書面での交付が義務付けられています。
採用された人が働き始めて、実際の労働条件が採用時などに明示されたものと違っていたときには、労働者は即時に労働契約を解除することができます。就労後のトラブルを未然に防ぐためにも、正しく労働条件を明示しておくことは非常に重要です。
◆有期労働契約の雇用契約期間は、原則として3年間が上限
労働基準法第14条において、労働契約は期間の定めのないものを除き、3年を超えて契約してはならないと規定されています。しかしながら、高度の専門的な知識、技術又は経験を有する者や、満60歳以上の者と有期労働契約を締結する場合は、契約期間の上限が5年となります。
また10年計画のプロジェクトなど、事業の完了に必要な期間が定められている場合は、契約期間に定めがあると事業が成り立たないため、5年以上の契約が許されています。
◆原則として、雇用契約期間途中の解雇(契約解除)はできない
労働契約法第17条では、使用者は期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間満了する前に解雇することはできないと記されています。
労働者側による「やむを得ない事由」とは、たとえば、無断欠勤や遅刻が多いなど本人の勤務態度に問題がある場合、また経費の使い込みや犯罪を犯すといった事業の存続や会社の社会的信頼に損害を与えた場合などが該当します。一方で会社側による「やむを得ない事由」とは、たとえば倒産、自然災害や事故により事業の存続が困難になり、人員削減や事業所閉鎖による解雇を行う場合などです。
有期労働契約の契約期間中の解雇は、無期労働契約(正社員)の解雇よりも条件が厳しく定められています。解雇を検討する際には十分に注意を払ってください。
労働契約法の改正でできた「新たな3つのルール」
労働契約法は、労働契約に関する基本的なルールを規定した法律です。2013年4月施行の労働契約法改正により、有期労働契約に関するルールが3点加わりました。
(1)無期労働契約への転換
有期労働契約が繰り返し更新されて、通算5年を超えた場合は、労働者の申し込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルール。労働者から申し込みがあった場合、企業側は申し込み後の契約を、無期労働契約に転換しなければなりません。
(2)「雇い止め法理」の法定化
「雇い止め」とは、有期労働契約者の労働期間満了時に、労働者の希望もしくは期待があるにもかかわらず契約更新を行わず、労働契約が終了することです。何度も契約更新があり、次回も更新されると期待していたが、労働期間満了の直前に更新終了を告げられてしまうことを指します。
かつて、リーマンショック(米国の大手銀行リーマン・ブラザースの破綻による世界的な不況)により、多くの有期契約労働者が雇い止めで仕事を失い、「雇い止めは」深刻な社会問題となりました。そのため「雇い止め」裁判における裁判所の判断(判例)が法律としてルール化されました。
(3)不合理な労働条件の禁止
同じ企業で働く有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な条件の相違を禁止するルール。契約期間が異なること以外の仕事内容(業務の範囲、責任の範囲なども含めて)が同じならば、待遇に差をつけてはいけません。
有期労働契約のルールを正しく理解し、安心して働ける職場に
有期労働契約者は雇用契約期間の定めがあるため、「雇い止め」に対する不安を拭えずにいることがあります。有期労働契約者が安心して働き続けられるように、労働者の相談窓口を担うことが多い人事部は、有期労働契約のルールを理解しておきましょう。正しく理解することは、就労後のトラブル防止や、労働者のモチベーションを維持にもつながるはずです。
※記事内で取り上げた法令は2020年6月時点のものです。
監修:志村経営労務事務所 社会保険労務士 小林寛子
TEXT:水上歩美/ノオト
EDITING:Indeed Japan + ノオト