コーチングとは
◆コミュニケーションを用いて目標を達成する
コーチングとは、相手の目標達成に向けて、自発的行動を促すようサポートするコミュニケーションの手法です。相手の話に耳を傾け、ときには質問を投げかけたり観察したりしながら、相手が自分で答えを見つける手助けをします。
コーチングにより、新たな視点が生まれ、様々な気づきを得たり、目標達成に必要な行動を取れたりすることが期待できます。
◆「ティーチング」との違い
人材育成には「ティーチング」も必要です。ティーチングは教える側が発言の主体となって、知識やスキルなどを伝授します。
一方、コーチングは相手の「自主性」を尊重することが最大のポイントです。コーチングを行う側(コーチ)は、あくまで受ける側の気づきやモチベーションを引き出す立場です。
◆マネジメントの手法として活用
コーチングは、様々なシチュエーションで有用なコミュニケーションです。ビジネスシーンでは主に上司が部下をマネジメントするための手法として活用されています。
本記事では、上司が部下に行うマネジメントとしてのコーチングについて解説します。
企業がコーチングを導入するメリット
◆企業全体のメリット
コーチングによる情報の共有を通じて上司と部下の間に信頼関係が構築されると、働きやすい環境づくりや、離職率低下などが期待できます。ひいては社員一人ひとりの意欲の向上による業績アップが見込めます。
◆部下のメリット
部下は質問されることによって現状を正しく把握し、解決策を主体的に考え、行動する力がつきます。行動に移すことによって、目標達成に必要な要素を発見したり、視点の違うアイデアが生まれたりするメリットが期待できます。
◆上司のメリット
プレイングマネージャーである上司にとって、部下が自ら意思決定し行動するレベルまで自立が進めば、自らの職務に時間をつかうことができます。部下たちから目標を引き出し、ゴールに対する認識をそろえられれば、チーム力が強くなり、多少の障害があっても粘り切れる強い組織となります。
企業がコーチングを導入するデメリット
◆時間がかかる
コーチングを導入後、上司と部下の関係性の質が向上して効果が現れるまでにある程度の時間がかかります。特に、プレイングマネージャーが多い企業では、上司が日々の業務と並行してコーチングを行うため、実践し続けるのが難しい側面があります。
◆上層部の理解が得られない場合も
コーチングで得られるメリットは、営業目標などに比べて数値化しにくいという側面があります。そのため担当者が導入を切望しても経営者や上層部からの理解を得られず、導入自体が難しいケースがあります。
コーチング研修を導入する判断基準
◆コーチング研修とは
コーチング研修は、講師が管理職に対してコーチングの手法をレクチャーします。自社に研修を導入する際は、コーチングの講座を提供する企業に依頼することが多いようです。
受講者はコーチングの概念や、対話に必要な傾聴・承認・質問など、コーチングを行うための基本的なスキルを身に着けます。1日〜数日かかるもの、数カ月かけて行われる研修など社内の実情にカスタマイズしたものを選びます。オンラインでの催行に対応している企業もあります。
◆導入の判断基準
コーチングは、マネジメントの質を上げたいと考えるすべての企業で活用できます。そのため、強い動機や目的をもって導入することがベターですが、一度研修を経験してみることで、今後の社内環境の整備に関する方向性が見えてくることもあります。ただし、研修を導入する際は「研修を無駄にしないために学びをどのように活用していけばよいか」を導入時に話し合うことが重要です。
コーチング研修導入のポイント
◆導入の目的を明確にする
自社の課題を把握して達成したい目標を立て、その上で「コーチングが必要な現状」や「コーチングの方法」を考え、明確な目的意識を持つことが大切です。目的を全社で共有し、コーチングの効果を高めます。
◆研修後の感想を聞く
研修後は、上司や人事担当者が、受講者に対して研修の内容や印象的だったことについて質問をしましょう。受講者は感想や意見を他者に話すことで、自分の頭が整理でき、学んだ内容を実践しやすくなります。
◆実践する
学んだ内容をいち早く現場で実践するために、人事担当者が受講者の上司にガイダンスを行うのも効果的です。
コーチングを業務に活かすために
◆価値観の違いを認識する
現在、キャリアのビジョンなど、仕事に対する価値観は多様化しています。たとえば、出世のために仕事をがんばってきたベテラン社員と、自分らしく働くことに充実感を持つ若手社員にはコミュニケーションギャップが生じることもあるでしょう。管理職はコーチング研修で学んだことを最大限に活かすためにも、個々の価値観は違うものだということを念頭に置いて実践しましょう。
◆忍耐強く取り組む
指示命令によって部下をコントロールしようというタイプの上司にとっては、相手の自主性を引き出すことに重きをおいたコーチングの理念を取り入れるのは難しいかもしれません。
また、短期的に成果を出そうと焦ると、コーチングと言いつつ結局上司が部下に答えを押し付けてしまうケースもあります。「売上を上げる」のではなく「売上を上げる力を育てる」というスタンスで部下とのコーチングに取り組むことが大切です。
コーチングはそれまでのコミュニケーションの癖を改める必要があるため、せっかく取り入れても習慣化できず活用前に途中で諦めてしまうことも少なくありません。最大限に効果を発揮させるために、企業の上層部がコーチングの有用性を理解し、全社に必要性を説く姿勢が重要です。
※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
<取材先>
株式会社フレックスコミュニケーション
代表 播摩早苗さん
放送局アナウンサーとして勤務後独立。心理学、自己表現、コーチングなどを学び、2001年フレックスコミュニケーション設立。大手企業の管理職研修、プレゼン研修、CS研修などを中心に活動する。「目からウロコのコーチング」「今すぐ使えるコーチング」(PHP研究所)他、著書多数。
取締役プランニングディレクター・講師 大崎隆夫さん
大手観光会社で企画開発、労政、人材開発などを担当後、2004年に現職。プロコーチとして経営者をはじめ、個人を対象としたプライベートコーチングを行なうとともに、企業の研修企画や人材開発、組織づくりに関するコンサルテーションを手掛ける。著書に「コーチングで変わる会社変わらない会社(共著)」(日本実業出版)
等。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
