内定ブルーとは何か
「内定ブルー」とは、内定を受諾した学生が「本当にこの会社に決めてしまって良かったのだろうか」と思い悩んでしまうストレス状態を指します。内定が出た直後のタイミングではなく、内定の出た企業の中から一社を選択し、入社を決断したあとに起こるものです。
内定ブルーはなぜ起こるのか
内定を受諾することは、未来へ向かって一歩を踏み出すという意味では明るい出来事のように思われます。しかし実際には、非常に大きなストレスがかかる決断であるとも捉えられます。
そのストレスの度合いは、「ストレス点数表」に照らし合わせると顕著です。ストレス点数表は、ライフイベントにおけるストレス度合いを客観的に点数化した表で、元大阪樟蔭女子大学教授で、現日本産業ストレス学会の理事である夏目誠氏らが作成したものです。この表では、過去1年以内に体験したストレス点数の合計点から、翌年の健康に影響が及ぶ確率を知ることができます。人がストレスを受けると考えられている複数の項目の中から、内定受諾に関連する「入学卒業」「労働条件の大きな変化」「会社が変わる」といった条件を足していくと、その合計点は「配偶者の死」と同レベルのストレス点数になることがわかります。
学生にとっては、楽しかった学生生活が終わり、親しい仲間と離れ、無限に広がっているように感じられていた未来への可能性を内定受諾によって1つに絞ることになりますから、その喪失感は小さくはないはずです。
こういった側面からも、「たかが内定ブルー」と軽く見ることなく、学生側は適切に乗り越え、企業側もある程度見守りつつもフォローする必要があるといえるでしょう。
内定ブルーの学生のために企業ができるサポートとは
内定ブルーを乗り越えるためにまず重要なのは、当事者である学生本人が喪失感と向き合い、段階を踏んで乗り越えていくことです。「まだ学生でいたい」「社会人になりたくない」「別の会社を選べばよかった」などといったネガティブな感情と自ら向き合うことで、ようやく最終的に現状を受容できるようになります。そのため、内定先である企業側から不用意にアプローチすると、かえって内定辞退などの逆効果になってしまうおそれがあります。
そこで企業側がすべきサポートは、入社前の内定式や入社前研修などの機会を活用して、同じ立場である内定者同士のコミュニケーションを活性化させることです。内定ブルーには個人差があり、ほぼ自覚することのないケースや、スムーズに抜けられるケースもあります。そうした入社に前向きな内定者と関わる機会を設けることで、内定ブルーに陥っている内定者のサポートにつながるでしょう。
◆グループセッションでは、相性とバランスを考えたグループ分けを
内定をすぐに受諾した学生には内定ブルーを感じているケースが少なく、入社に向けて前向きな感情を持っていると捉えることができます。入社研修などのグループセッション時には、そうした前向きな学生と、迷った末に内定を受諾した内定ブルーを抱えている可能性のある学生が混じるようにグループ分けを行いましょう。
内定式や懇親会の際、席順を内定者に自由に選ばせるケースも見られますが、これらもできるだけ人事がコントロールして決めたほうがいいでしょう。
◆オンラインでは、内定者同士の相互理解を促すワークショップを
昨今増えているZoomなどオンラインの場では、内定者同士が密にコミュニケーションを取ることが難しいため、少人数のグループにルーム分けができるブレイクアウトルームのような機能を活用するなどの工夫が必要です。この場合も、無作為にグループ分けをせず、人事側がメンバーをコントロールしましょう。
対面であれば、雑談を通して自然に相互理解を図ることができますが、オンライン上で内定者同士が仲良くなるのは難しいものです。そのため、事前に相互理解を深められるようなワークショップを企業側が用意しておきましょう。うまくいけば、入社にポジティブな内定者が、内定ブルーを抱えた学生のモチベーションを引き上げてくれるはずです。
内定者同士が感情を共有し合い、「内定ブルー」を乗り越えられるようサポートを
内定ブルーは、どんな学生にでも起こる可能性がある感情です。学生自身が向き合い乗り越える必要があるとはいえ、すべての内定者が自分で対処できるとも言い切れません。入社後、五月病や六月病などに苛まれることなくスムーズに仕事になじんでもらうためにも、内定者同士が互いに感情を共有し合い、うまく気分の落ち込みから抜け出せるようなサポートを、企業は前もって行えるようにしましょう。
<取材先>
株式会社人材研究所・代表取締役社長 曽和利光さん
TEXT:卯岡若菜
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子 + ノオト