女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画とは
◆女性活躍推進法とは
女性活躍推進法とは、働きたい女性が個性と能力を十分に発揮できる社会の実現を目的として、一般事業主(民間企業)に「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定と届出」及び「女性活躍推進に関する情報公表」を義務付ける法律です。
2016年4月に施行され、対象は「常時雇用する労働者が301人以上の事業主」(300人以下の事業主は努力義務)でした。
2019年5月の改正により対象事業主が拡大し、2022年4月1日から「常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の事業主」も対象となります。
ここでいう「常時雇用する労働者」とは、正社員に限りません。パートや契約社員、アルバイトなどの呼称にかかわらず、以下の要件に該当する労働者を含みます。
- 期間の定めなく雇用されている者
- 一定の期間を定めて雇用されている者であって、過去1年以上の期間に引き続き雇用されている者、または雇い入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者
◆一般事業主行動計画とは
事業主が自社の女性の活躍に関する状況の把握・課題分析をもとに目標を設定し、達成するための具体的な取り組み内容をまとめたものを指します。
この記事では、新たに対象となる「常時雇用する労働者数が101人以上300人以下の事業主」に義務付けられる一般事業主行動計画の策定について解説します。
一般事業主行動計画に取り組むステップ
1.自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
・状況を把握する
必ず把握すべき項目は以下の4つです。
(a)雇用管理区分(※1)における、採用した労働者に占める女性労働者の割合
【計算方法】直近の事業年度の女性の採用者数÷直近の事業年度の採用者数×100(%)
(b)雇用管理区分における、男女の平均継続勤務年数の差異
【計算方法】女性の平均継続勤務年数÷男性の平均継続勤務年数×100(%)
(c)労働者の各月ごとの平均残業時間数等の労働時間(健康管理時間)の状況
【計算方法】各月の総残業時間数(法定時間外労働と法定休日労働)÷労働者数
(d)管理職(※2)に占める女性労働者の割合
【計算方法】女性の管理職数÷管理職数×100(%)
※1「雇用管理区分」とは、正社員・契約社員・アルバイトなどの雇用形態や、事務職・営業職・技術職などの職種、そのほか資格、就業形態等の労働者の区分を指します。
※2「管理職」とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」にある労働者の合計を指します。
・課題を分析する
(1)上記で出た数値結果から、課題を分析します。厚生労働省では、以下の各数値の目安をもとに「課題がある」としています。
(a)採用者に占める女性割合で、20%を下回る区分がある
(b)男女の平均継続勤務年数の差異において、女性が70%未満である
(c)各月ごとの平均残業時間数等の労働時間が45時間を超えている
(d)管理職に占める女性労働者の割合が20%未満の区分がある
たとえば、技術職においてaの数値結果が出た場合、技術職の女性労働者を増やす必要があるなどの課題が明確になります。
(2)「選択項目」による状況把握
以下の選択項目をもとに、自社の状況と照らし合わせて、課題分析を深めます。

「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」(厚生労働省)より
必要に応じて、労働者や労働組合等に対するアンケート調査や意見交換を実施するなど、職場の実情の的確な把握に努めることが重要です。
2.状況把握、課題分析を踏まえた行動計画の策定
一般事業主行動計画の策定は、自社の女性労働者に関する課題解決に必要な取り組みを選定して行います。
たとえば、
- 事務職の女性の比率は70%を超えているが、技術職の女性の比率が20%未満であるため、技術職の女性を増やす必要がある
- 採用女性の割合及び就業継続の比率は目安より上だが、管理職割合は15%と低いため、女性の配属や評価等により女性がキャリアアップする機会が失われている可能性が考えられるのではないか
- 採用女性の割合は高いが就業継続の割合が低い。産休育休を取得する女性社員が、同じ部署や職種で復帰できる体制が整っているか
など、自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析を踏まえて、行動計画を策定します。その際、以下を盛り込みます。
(a)計画期間
2025年度までの期間で、おおむね2年間から5年間に区切り、定期的に行動計画の進捗を検証しながら、改定を行う
(b)数値目標
常時雇用する労働者数300人以下の事業主は、下表より、数値目標を1つ以上定める
「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」(厚生労働省)より
(c)取り組み内容
目標達成のための取り組み内容を決める。その際は、数値目標に到達できるよう具体的な取り組み内容を設定する。
(d)取り組みの実施時期
取り組み内容を実施する具体的なスケジュールを決める
<策定例>
「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう!」(パンフレット/厚生労働省)より
3.社内周知と公表
(a)社内周知
事業所の見やすい場所への掲示、書面での配布、電子メール、イントラネット(企業内ネットワーク)などにより、非正社員を含めた全ての労働者に行動計画を周知する。
(b)公表
厚生労働省が運営するサイト「女性の活躍推進企業データベース」への掲載や、自社の公式サイトへ行動計画を掲載し、公表する。
4.行動計画を策定した旨の都道府県労働局への届出
電子申請、郵送または持参により管轄の都道府県労働局に届け出る。
5.取り組みの実施・効果測定
定期的に、数値目標の達成状況や、行動計画に基づく取り組みの実施状況を点検・評価する。その結果をその後の取組や計画に反映させ、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のサイクル(PDCAサイクル)を確立させる。
6.女性の活躍に関する情報の公表
自社の女性の活躍に関する情報を公表することで、企業にとっては、自社に合った人材の確保や競争力の強化が期待できる。公表方法は、前述の「女性の活躍推進企業データベース」や自社公式サイトなどへの掲載となる。
5と6については、義務化はされていないものの、策定した行動計画をより有益なものにするために望ましいとされています。
策定時の注意点や策定しなかった場合の罰則は?
◆男女雇用機会均等法の違反に注意
男女雇用機会均等法では、労働者の募集・採用、配置、昇進、昇格及び教育訓練等において性別を理由とする差別を禁止しています。(第5条・第6条)
しかし、女性労働者に係る措置に関する特例として、「事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」と定められています。(第8条)
したがって、女性労働者が男性労働者と比較して4割を下回っている雇用管理区分における募集又は採用において女性に有利な取扱いをすることは法令違反にはなりません。ただし女性の比率が4割を上回っている場合、女性労働者を男性労働者に比べて優先的に取り扱う取り組みは男女雇用機会均等法違反として禁止されています。
たとえば「女性のみを対象とした管理職育成研修を実施する」という取り組みは、該当する雇用管理区分において女性比率が4割未満である場合は違反とはなりませんが、4割以上である場合は違反となります。
こうした状況で女性の活躍を推進しようとする場合、「対象者となる男女社員に対して管理職育成研修を実施する」など、男女労働者をともに対象とした取り組みをする必要があります。
◆一般事業主行動計画に取り組まなかった場合は?
一般事業主が、一般事業主行動計画の策定や届出など一連の取り組みを行わなかった場合でも、罰則などは規定されていません。
しかし、取り組みを行うことで、より働きやすい環境づくりに役立ったり、女性が活躍している企業として求職者や取引先にPRできるようになったりするメリットが期待できます。
また、行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業は、申請により厚生労働大臣の優良企業「えるぼし」の認定を受けられ、認定マークを商品や名刺に印刷できるようになります。
今回の法改正を自社の女性活躍について考える契機と考えて、一般事業主行動計画の策定を行いましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年2月時点のものです。
<取材先>
社会保険労務士法人アウルス 社会保険労務士 濱澤智子さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




