グレーゾーン解消制度とは
「グレーゾーン解消制度」とは、事業者が新たな事業を計画する際に、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を各省庁に確認できる制度です。企業が安心して新規事業に取り組めることを目的に導入されました。
新規事業を開始する前に、現在の規制の適用範囲が不明確な場合に以下の内容を確認できます。
- 当該事業が関連する法令の規制対象となるのか否か
- 取得しなければならない許認可があるのか否か
- 遵守しなければならない法的ルールがあるのか否か など
グレーゾーン解消制度が整えられた理由
グレーゾーン解消制度と類似した制度に、2001年に導入された「法令適用事前確認手続」(日本版ノーアクションレター。以下、ノーアクションレター)があります。
同制度は照会先が各規制所管省庁であり、それぞれの省庁が利用できる法令と条項を指定しているため、新規事業において問題となる法令が指定外の場合は利用できません。対象法令が増えてはいるものの、2022年現在でも範囲が限定されていることが課題の一つとなっています。
また、同制度は規制の担当省庁が規制を所管する立場から回答するものです。企業の新規事業を積極的に推進する立場として、規制の緩和などのサポートを行う制度ではありません。それも、課題の一つとされていました。
このような背景から、2014年にグレーゾーン解消制度が導入されました。グレーゾーン解消制度では、対象となる法令が限定されていません。さらに、グレーゾーン解消制度の申請先は、事業を推進する役割を担う省庁であり、新規事業を積極的に推進する立場からのサポートが期待できます。
グレーゾーン解消制度の留意事項
グレーゾーン解消制度の利用者について、特に限定はありません。個人、法人問わず、申請をすることが可能です。ただし、同制度を利用する際には、以下に留意する必要があります。
◆グレーゾーン解消制度の留意事項
- 新規事業であること
- 具体的なビジネスプランがあること
- 具体的に「○○法の○条に違反するかどうか」という形で照会すること
グレーゾーン解消制度は、具体的なビジネスプランに沿って、問題となり得る規制を特定したうえで照会しなければなりません。ゼロから事業に関係しそうな規制を教えてくれる制度ではないため、そもそも抵触しそうな規制があるのかどうかさえ不明な場合、まずは弁護士などの専門家に相談してみましょう。また、2022年4月より、経済産業省はこのような相談の対応のため、専門の弁護士からなる「スタートアップ新市場創出タスクフォース」を創設しました。当該窓口への相談も可能です。
グレーゾーン解消制度の利用の流れ
グレーゾーン解消制度を利用する際の流れは以下の通りです。
◆グレーゾーン解消制度の流れ
- 照会書を作成
- 照会書を事業所管省庁に提出
- 事業所管省庁が規制所管省庁に照会書を送付
- 事業所管省庁より回答
照会書は規定の様式に沿って記載します。様式や記入例は、制度を運用する経済産業省の公式サイトよりダウンロードできます。また、照会書の提出先である事業所管省庁がわからない場合は、経済産業省に相談してください。
◆照会書の記載内容
- 新たな事業の概要
- 実施方法
- 実施時期
- 関係する法令の特定
- 事業者の解釈
グレーゾーン解消制度の活用事例
グレーゾーン解消制度の活用事例は多々ありますが、以下は一例です。これら以外にも、経済産業省の公式サイトや厚生労働省の公式サイトでは、多くの事例が公表されています。
【事例1】(2021年5月25日申請/6月25日付回答)
新規事業内容……勤怠管理ツール(労働時間の記録ツール)の新規提供サービス
確認要件……本サービスによって雇用する労働者の労働時間の把握が、「労働安全衛生法第66条の8の3」に基づく「労働時間の状況」の把握方法として適切なものであることを確認したい。
所管省庁の回答……本サービスによって把握された労働時間の状況は、解釈通達に記載の内容を満たすものであり、労働安全衛生法の違法はない。
【事例2】(2022年2月9日申請/3月7日付回答)
新規事業内容……空き家所有者のうち登録所有者と受贈希望者をマッチングするサービスを提供するプラットホームの運営
確認要件……「宅地建物取引業法第2条第2号」に規定する宅地建物取引業に該当しないことを確認したい。
所管省庁の回答……新規事業の仕組みからすると、宅地もしくは建物の売買、交換もしくは貸借の媒介をするものではないため、宅地建物取引業には該当しない。
グレーゾーン解消制度を利用する際の注意点
グレーゾーン解消制度は、規制の根拠となる法令が限定されていない点や規制の緩和などに働きかけを行う役割の事業所管省庁のサポートが期待できるメリットがある反面、規制内容に必ずしも詳しくない事業所管省庁が間に入ることで、時間を要することもあります。
法令の適用の有無や解釈がわからない場合の確認には、グレーゾーン解消制度以外にも、前述したノーアクションレターや担当省庁に直接照会、規制のサンドボックス制度(※1)などいくつか方法があります。当該問題の分析を踏まえて、適切な手法を採用することをおすすめします。
(※1)…新技術の実用化や新たなビジネスモデルの実施が、現行規制との関係で困難である場合に、期間や参加者に期限を設けて実証を行い、それにより得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげる制度。
また、グレーゾーン解消制度を利用しても、必ず規制緩和の方向での回答が得られるとは限らないこと、新規事業の促進という本来の目的に沿わない申請については厳正な対応もあり得ることを留意しておきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年5月時点のものです。
<取材先>
三浦法律事務所 パートナー弁護士 金山藍子さん
カリフォルニア大学バークレー校ロースクール(LL.M.)修了。2005年弁護士登録。法律事務所や国土交通省などを経て、2019年1月から三浦法律事務所所属。経済産業省「スタートアップ新市場創出タスクフォース」委員。ルールメイキング、ガバナンス、不動産取引等の一般企業法務など幅広い分野を取り扱う。
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
