事業再構築補助金設置の背景
「事業再構築補助金」は新型コロナウイルス感染症の影響が長期化し、当面の需要や売上の回復が厳しい状況下でも経済社会の変化に対応するため、事業の構造転換を促すことを目的に設置されました。
新規事業分野への新分野展開や業態転換、事業・業種転換や事業再編など、思い切った事業再構築に意欲を持つ中小企業を支援する、2021年から始まった新しい補助金制度です。
事業再構築補助金の概要
◆対象企業
1.中小企業で次の条件を満たす状況であること。
- 2020年4月以降の連続する6カ月間のうち、任意の3カ月の合計売上高が、コロナ以前(2019年または2020年1~3月)の同3カ月の合計売上高と比較して10%以上減少している
- 2020年10月以降の連続する6カ月のうち、任意の3カ月の合計売上高がコロナ以前の同3カ月の合計売上高と比較して5%以上減少している。
2.新分野展開や業態転換、事業・業務転換等を行い、事業再構築に取り組む中小企業または中堅企業であること。
3.自社の強みや経営資源(ヒト/モノ等)を生かしつつ、経産省が示す「事業再構築指針」に沿った事業計画を認定経営革新等支援機関等と策定すること。
(参考:「事業再構築補助金の概要」経済産業省より)
※中小企業の範囲は、中小企業基本法と同様です。たとえば製造業の場合は、「資本金3億円以下の会社または従業員300名以下の会社及び個人」など、業種などにより異なります。なお、中小企業の範囲に入らない企業のうち、資本金10億円未満の「中堅企業」も同補助金の対象です。
◆補助金額・補助率
事業再構築補助金は令和2年度第3次補正予算として、1兆1485億円が計上されています。申請枠には「通常枠」「卒業枠」「グローバルV字回復枠」の3つの申請枠が設けられており、それぞれ要件や補助額、補助率が異なります。詳細は経済産業省が発表する最新情報を確認してください。
- 通常枠:中小企業者等、中堅企業等
- 卒業枠:事業計画期間内に組織再生、新規設備投資、グローバル展開(海外展開)のいずれかにより資本金または従業員数を増やし、中堅・大企業などへ成長する中小企業(400社限定)
- グローバルV字回復枠:売上高が15%減少しており、グローバル展開を果たし、付加価値額5.0%以上増加を達成してV字回復を果たす中小企業など(100社限定)
「卒業枠」と 「グローバルV字回復枠」においては、上記の目標未達の場合には補助金返還を求められる可能性があると示されているため、慎重な計画が必要です。このほかにも「大規模賃金引上枠」、「緊急事態宣言枠」、「最低賃金枠」があります。
◆補助対象となる経費
事業再構築補助金として認められる経費には次のようなものがあります。
- 建物費(建物の改築・改修・撤去、賃貸物件等の原状回復、内装工事費用)
- 機械装置・システム構築費(設備や専用ソフトの購入、リース)
- 技術導入費(知的財産権導入に要する経費)
- 外注費(製品開発に要する加工や設計)、専門家経費
- 広告宣伝費・販売促進費(広告作成、媒体掲載、展示会への出展など)
- 研修費(教育訓練費・講座受講等)等
一方、下記の経費は補助対象外です。
- 補助対象企業の従業員の人件費、従業員の旅費
- 不動産、株式、公道を走る車両、パソコンやスマートフォン、家具等の汎用品の購入費
- フランチャイズ加盟料、販売する商品の原材料費、消耗品費、光熱水費、通信費
事業再構築補助金は、あくまで企業が新規の業態や事業などを取り入れるのに活用する補助金です。そのため、新事業で扱う商品を作る機械や、製造するノウハウを得るための研修費用、資格取得にかかる費用などは補助対象の経費として認められます。しかし、商品そのものを作るための原材料費や、人件費は対象となりませんので注意が必要です。
「事業再構築補助金」の活用イメージ
◆事業再構築補助金の活用イメージ
下記のような例があります。
例1)
対面でのイートインを行っていた飲食店が、テイクアウト事業を始める。店の外と受け渡しができるテイクアウト専用の窓口を設置し、テイクアウト用商品の品質を保つため、真空パック詰めができる機械を導入した。
例2)
伝統工芸品製造の企業が、コロナ禍で百貨店などでの売上が激減。専門業者に依頼してECサイトを立ち上げ、通信販売を開始した。
例3)
航空機部品を製造する企業が、コロナ禍で需要の激減を受けて、従来の事業を縮小。新たな設備を導入して、ロボット関連部品や医療機器部品製造の事業を立ち上げた。
◆申請における注意点
事業再構築補助金の申請には事業計画書の提出が必須です。地域の商工会や税理士、経営コンサルタントなど、経営のプロとして認定された「経営革新等支援機関(認定支援機関)」と一緒に策定しなければなりません。
経営革新等支援機関は、中小企業庁のウェブサイトにある検索システムなどから探すことができます。
また、補助金の受給は後払いであることを認識しておきましょう。補助金を元手に事業の見直しをするのではなく、補助事業を実施したのちに補助金の請求と受給となるため、まずは企業側で諸経費を支払う必要があります。
※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
<取材先>
TOMAコンサルタンツグループ株式会社 コンサル部・経営コンサルタント 井関臣一郎さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
