地方の中小企業が自社に合うIターン・Uターン人材を採用するには?


コロナ禍でリモートワークが浸透しつつあり、都会を離れ地方に移り住んで働く“コロナ移住”への関心が高まっているようです。地方の中小企業にとっては、採用の幅を広げるチャンスといえるかもしれません。
 
しかし、「都市部の企業に比べると知名度が低い」「採用にコストがかけられない」など、地方の中小企業ならではの課題も。自社に合うIターン・Uターン人材を採用するには、どのような工夫が必要なのでしょうか。「採用ブランディング」を提唱し、多くの企業の採用活動を支援している、むすび株式会社代表/ブランディング・ディレクターの深澤了さんに聞きました。

 
 

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採用活動は「手法論」に陥りやすい


――コロナ禍の影響で、Iターン・Uターンに対する興味・関心が高まっているようです。深澤さんは今の状況についてどのような印象をお持ちですか?
 
たしかに、「自分の地元へ帰って働きたい」という人が増えている印象はありますね。
 
内閣府が発表している「第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年12月)によると、東京圏在住者の地方移住への関心は徐々に高まっています。特に20代で顕著に表れており、「テレワークによって地方でも働けると感じた」「ライフスタイルを都市部での仕事重視から、地方での生活重視に変えたい」といった意見が挙がっているようです。
 
ただ、地方で採用を拡大する動きはあまり聞きません。コロナ禍で経済的な打撃を受けており、需要と供給が釣り合っていない状況です。地方の中小企業にとっては採用のチャンスともいえますが、業績が落ち込む中、思い切って行動できないのが実情ではないでしょうか。
 
――地方自治体による移住支援策も増えているようです。
 
もちろん、いろんな策を講じた上で移住支援を使うのは良いでしょう。ただ、Iターン・Uターンに限らず、採用は手法論に陥りやすいのです。「他社が○○の手法で成功したから、自社も」と考える人が多いのですが、そんなにうまくいきません。
 
私は「採用ブランディング」という考え方を提唱しています。これは自社の魅力を伝えつつ、求める人物像(ペルソナ)にアプローチすることで、効率的な採用活動を実現する考え方です。地方の中小企業がIターン・Uターン採用を成功させるためには、まずどんな人が欲しいのかを明確にし、その人がどこにいるのか探さなければなりません。また、他社と同じことをせず、自分たちの理念や価値観を明確にして求職者へ伝えることが重要です。

 
 

新しい人を迎え入れ、活躍できる土壌をつくる


――地方の中小企業がIターン・Uターン人材を採用するメリットとは?
 
都市部でビジネス経験があり広い視野を持つ人材を採用すれば、イノベーションに繋がるはずです。自社にはない経験を組み合わせることによって、事業内容が広がるかもしれません。
 
また、自社とは異なる環境でキャリアを歩んできた人材が入れば、社内の制度や雰囲気が変わります。新しい人が入ってくるとなると、「このままじゃ駄目だ」「社内の体制を変えなきゃ」と考えるでしょう。これも小さなイノベーションですよね。意識改革やビジネスの活性化を起こせるのが、Iターン・Uターン人材を採用する最も大きなメリットです。
 
――逆に、「Iターン・Uターン人材を採用したのに失敗した」というケースがあれば教えてください。
 
せっかく採用したのに迎え入れる体制を作らず、その人の経験や考え方から吸収する姿勢を見せないと失敗します。自社の文化に馴染んでもらうことは大事ですが、活躍できる土壌も作らなければなりません。
 
また、コンスタントに採用を続けて社内に新しい人材を増やさないと、文化は変わりません。採用した人がすぐ辞めてしまい、また採用して……と繰り返すだけでは、イノベーションは起きにくいでしょう。
 
多くの中小企業は、「どうせ、いい人が来るわけがない」と思っています。もちろん、都市部で働いていたからといって、すべてが優秀な人材とは限りません。ただ、自社になかった新しい価値観や考え方を持つ人材に出会いやすいメリットはあるはずです。
 
――都市部で働いていた人を採用するとなると、気後れしてしまうのでしょうか?
 
そうですね。応募者との距離をいかに埋めるのかが採用の戦略ですが、入社後に企業側からのフォローが必要だと認識できている企業は少ないです。また、「とにかく都市部でのビジネス経験がある人を採用すれば、業績が上がるはず」と頼り過ぎてしまい、失敗するケースもあります。
 
採用を成功させるには、何のためにIターン・Uターン人材を採用するのか、社長や採用責任者が現場の社員たちに伝えることが重要です。「早く活躍してもらえれば会社の業績が上がり、最終的には会社全体の給料も上がるはず。だから、みんなで盛り立てていってほしい」と説明すべきでしょう。もし現場の社員が反発し、いじめのような事態が発生すれば、せっかく採用しても能力が発揮できません。
 
初めてIターン・Uターン人材を採用する会社は、受け入れ体制や土壌づくりに注力してほしいですね。

 
 

自社の強みや理念をもとに、求人原稿を考える


――地方で開催される合同説明会やWeb求人媒体、リファラル採用などいろいろある中で、Iターン・Uターン人材の採用にはどういった手法が有効なのでしょうか?
 
手法を考える前に、どういった人が欲しいのか、ターゲット像を明確にしてください。また、自社の強みを把握し、求職者にどう説明するか考えておくことが必要です。
 
その上で、新卒であれば自社の魅力をダイレクトにアピールできる逆求人系のサイト、中途であれば人材紹介エージェントを利用するのも有効でしょう。もし募集人数が多ければ、Web求人媒体もアリです。ただし、どんな手法を使うにせよ、もっとも重要なのは求人内容の書き方です。
 
――求人内容の文章で、そんなに変わるものなのでしょうか?
 
Web求人媒体で中途の求人内容を見ると、ほとんどが「仕事内容」「休日数」「給与」の3つでしか訴求されていません。これが一番ダメなパターンで、他社と差別化できていないのです。地方の中小企業が給料で争っても、ほとんど勝てないでしょう。
 
採用ブランディングでは、自社の理念や価値観、強みを中心に求人原稿を組み立てます。しかし、それらを真正面から伝えている求人内容はほとんどありません。どの企業も同じような内容になってしまっているのです。
 
――なぜ、似たような求人内容になってしまうのでしょうか?
 
求職者へ「会社を選ぶ理由はなんですか?」というアンケート調査をすると、たいていトップ3は仕事内容、福利厚生、給料となります。そのため代理店やWeb求人媒体の担当者は、求人企業に対し「給料や休みを中心にアピールしましょう」と提案してしまうのです。
 
たとえ給料で目を引く求人を出して採用しても、より高い給料の会社が見つかればすぐに転職されてしまうでしょう。それでは本質的な採用になりません。
 
自社の理念や価値観は何なのか。そこに成功のポイントが隠されているのですが、多くの中小企業は「理念は一応あるけど、採用活動で特にアピールする必要はない」と思っています。訴求すべきポイントを知らないため、採用に失敗してしまうのです。
 
――自社の強みや魅力は、どのような形で洗い出せばいいのでしょうか?
 
私が採用支援をする場合、まず社長や採用担当者を含め5~10人のチームを作ってもらいます。そこでワークショップを行い、「自社のビジネス上の強みは?」「理念や価値観が表れているエピソードは?」といった項目をどんどん書きだします。それらをグルーピングしていくと、どの会社も15~20くらいの強みや魅力が出てくるはずです。
 
自分が入社した理由や、入社後に感じた良い意味でのギャップから考えると書きやすいかもしれません。「こんな遠回りなことをしても……」と思う人は多いのですが、まずやってみることが大事です。そこで改めて出てきた自社の理念や強みを中心に、求人原稿を考えてください。

 
 

「どうせウチの会社なんて」と思わず、自信を持って活動しよう


――最近では、オンラインで選考を行う動きも活発になっているようです。地方の中小企業にとっては、Iターン・Uターンの採用活動を有効に進められるのではないでしょうか?
 
私もそう思います。ただ地方の中小企業は、オンラインでの選考に躊躇しているのが現状ではないでしょうか。都市部の人は、Zoomなどオンラインツールを使うことに慣れています。しかし地方の中小企業では、まだまだオンライン面接に慣れていない採用担当者が多いでしょう。その理由は、単純に数をこなしていないからです。
 
面接はもちろん、社内でオンラインミーティングを行うなど、積極的にツールを使って慣れていくことが必要です。
 
――最後に改めて、Iターン・Uターン人材の採用を考えている地方の中小企業の人事担当者、経営者に対して、アドバイスや提言をお願いします。
 
「どうせ、ウチの会社なんか」と思いながら採用活動をしてはいけません。どんな会社にも、強みが必ずあります。
 
新たに人を採用するということは、欠員補充でない限り、業績は安定しているか上がっているはず。業績の良い会社であれば、自社のビジネスでたくさんの人を幸せにしていることでしょう。そんな会社が採用になったとたんに共感してもらえない、なんてことはありえません。
 
「どうせ採用できない」「こんな田舎に来るわけがない」というマインドは捨てて、「自社にはこんな魅力がある」と自信を持って活動する。これが採用活動を好転させる最初の一歩だと思います。

 
 
 

参考:
内閣府『第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』(2020年12月24日発表)
 
<取材先>
むすび株式会社 代表取締役 深澤了さん
ブランディング・ディレクター/クリエイティブ・ディレクター
 
広告代理店にてCMプランナー/コピーライターとして活躍した後、ブランディング事業会社へ入社。ブランドの戦略づくりからプロモーションまで一気通貫してサポート。数多くの企業の採用戦略に携わる。これまで採用活動に関わった企業は1,000社以上。2015年、むすび株式会社を設立。「採用ブランディング」という新たな理論を構築し、数多くの企業の劇的な採用成績向上に貢献している。
 
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト

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