従業員の「睡眠障害」に企業はどう対処する?

眠そうな男性社員のイメージ

いつも眠そうにしていたり、勤務時間中にもかかわらず居眠りをしている従業員はいませんか。「やる気がないのでは?」「毎日、夜更かしをしているのでは?」と思いがちですが、「睡眠障害」という病気を患っているのかもしれません。産業医科大学産業保健管理学研究室の産業衛生准教授で日本睡眠学会専門医の加藤憲忠先生に、従業員の睡眠と睡眠に関わる疾患について聞きました。

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「睡眠障害」は自覚症状がないことも

――「睡眠障害」とはどんな病気なのですか。
 
「睡眠障害」は厳密には、60種類以上からなる睡眠に関連した疾患の総称です。寝床に入る時間があるのに目が覚めてしまって眠れない「不眠症」から、逆に昼間でもずっと強い眠気を感じ続ける、といった症状まで様々です。
睡眠障害の中でも、特に職場で問題になるのは「睡眠時無呼吸症候群」「睡眠不足症候群」です。勤務時間中にも眠くなって、居眠りをしてしまう……という事態の原因になっていることが多い病気です。
 
「睡眠時無呼吸症候群」とは、その名の通り眠っている間に呼吸が止まることによって、睡眠の質や量が著しく落ちる病気です。睡眠中に呼吸が止まることは、健康な人でもあることです。しかし、「1時間につき10秒以上呼吸が止まる」という状態が睡眠時間1時間当たりに5回以上あり、眠気などの症状がある、となると「睡眠時無呼吸症候群」と診断されます。これほど長く、何度も呼吸が止まるのは、寝ている間にずっと口や鼻を濡れタオルでふさがれているような状態だと想像してください。当然、息が苦しくなりますから、脳は目を覚まして呼吸をさせようとします。すると、本人は眠っているつもりでも睡眠の中断が何度も起きていますから、十分な睡眠が取れておらず、日中にも眠気が残ってしまいます。
 
――「睡眠時無呼吸症候群」であっても、本人に自覚症状はないということでしょうか。
 
眠れておらず苦しいと感じている人もいれば、本人は全く気づいていないこともあります。「家族から、いびきがうるさいと言われた」と耳鼻科や呼吸器内科を訪れて、睡眠時無呼吸症候群だと初めて分かったという方も多いです。いびきは喉の空気の通り道が狭くなって発生するものです。家族に指摘されるほど大きないびきは睡眠時無呼吸症候群との関係が強く疑われます。ただ、いびきは自分では気づきにくいですから、1人暮らしの方は睡眠時無呼吸症候群であっても見過ごされがちかもしれません。
 
「睡眠不足症候群」も名前の通り、慢性的な睡眠不足が続くことにより、生活に支障をきたすほどの眠気を感じる病気です。

 
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業務に支障が出るほどの眠気には受診勧奨を

――眠そうにしている従業員がいると、病気を疑うよりも先に「前日に夜更かしや深酒をしたのだろう」と考えてしまいます。問題の無い睡眠不足と、治療が必要になる「睡眠障害」はどう違うのでしょうか?
 
「仕事や家事が忙しくて、眠る時間が取れない」とか「心配事があってなかなか寝つけない」という経験は、誰にでもあるものです。しかしこの状態が1日や2日ではなく、また、心配事が解消した後にもずっと眠れなかったり、睡眠時間が短い日が慢性的に続いていて、仕事中にも居眠りをしてしまうような状態は睡眠障害と言えるでしょう。
 
従業員の睡眠障害の可能性を感じて、受診を勧めるか否かについては「どれだけ業務に支障を与えているか」で判断しましょう。「勤務時間中に居眠りをしてしまう」という場合、それがデスクワーク中なのか、運転や高所作業を伴う業務なのかでは深刻さが違います。眠気やぼんやりしてしまうことが、周囲や本人の安全に大きな影響を及ぼす場合は、その日のうちに専門医の受診を勧めたり、危険を伴う業務を担当させないなどの就業上の配慮が必要でしょう。
 
危険な作業を伴わない業務に就いている場合も、あまりにも居眠りが多い、大事な会議や商談中に眠ってしまうという状況が発生したら、できるだけ早く受診するよう勧めるのが良いでしょう。
 
――睡眠障害の疑いを感じた場合には、病院やクリニックの何科を受診すればいいのでしょうか。
 
一般社団法人日本睡眠学会のホームページから「睡眠医療認定」」というページを見ていただくと、「日本睡眠学会専門医療機関」という、睡眠障害の診断や治療が出来る医療機関の一覧表が掲載されています。
認定区分の「機関A」はナルコレプシー(日中に突然強い眠気が出現して眠り込んでしまう病気)など、より専門的な治療ができる医療機関です。機関Bと記載されているところでも専門医に睡眠時無呼吸症候群などを診てもらえます。こちらを参考に、近くの医療機関を受診していただくのが良いと思います。

 
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適切な睡眠で業務の効率もアップ

――企業が従業員の睡眠障害を悪化させない、または予防するためにできることはありますか?
 
ある研究によれば「居眠り運転に至る危険因子」として、「夜間帯または長時間のシフトの労働」「6時間未満の睡眠時間」「いびき・睡眠呼吸障害を有する人」「慢性的に睡眠不足の若者」「飲酒」などが挙げられています。これは居眠り運転に限らず、他の職場での睡眠にまつわるトラブルにも応用できるものだと思います。
 
いびきや睡眠時無呼吸症候群の治療は医療機関にしかできませんし、飲酒や夜更かしといった生活習慣の改善は個人の問題です。しかし慢性的な長時間労働をなくしてきちんと6時間眠れるようにすることは、企業の協力が必要です。残業時間の見直しや規制、夜間帯シフトの見直しが大切です。
 
毎日7~8時間の睡眠時間を確保することは難しくても、6時間眠るとずいぶん体調に良い影響が出ることが知られています。また、年齢とともに睡眠の質は落ちていきます。若いときは「平日は残業が多くて4時間しか寝なくても、土日に長く寝て回復する」と言われる方もいますが、中高年になると身体は疲れているのに目が覚めてしまい、長く眠ること自体が難しい人が多くなります。普段から、毎日6時間は眠れる生活習慣を可能にする働き方が求められています。
 
――長時間労働は良くないと分かっていても、忙しかったり、人員が足りなくてどうしても残業が増えてしまう職場も多いかと思います。
 
睡眠時間が4時間の人は、翌日は起きていてもずっと眠気を感じている状態と言われています。また、人は起床してから17時間を超えると、作業能力が飲酒運転をしている状態と同じくらいまで落ちてしまいます。
 
眠気を感じたままでは当然、社員のパフォーマンスは発揮できません。しかも深夜残業となるとなおさらです。企業から見れば、お酒を飲んだのと同じくらいの状態で働いている人に、割り増しした賃金を払っているとも言えるわけです。ならば、残業をしないで早く切り上げてきちんと寝てもらい、翌日のパフォーマンスを上げてもらったほうが効率も上がるのではないでしょうか。

 

<取材先>
産業医科大学産業衛生准教授 加藤憲忠先生
日本睡眠学会専門医。産業医科大学医学部卒。様々な企業で産業医として勤務するとともに、睡眠専門外来で睡眠障害の治療も行っており、働く人の睡眠衛生指導に関する情報提供を行っている。
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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