適応障害の原因はその人の「外部」にある
――適応障害とはどんな病気なのでしょうか。
適応障害は、外部環境からのストレスに長期間さらされることによって、心身に不調をきたす病気です。気分が落ち込んで憂うつな気分が続く「抑うつ」状態、慢性的な不安や意欲の低下といった状態が多く見られます。また、不眠や頭痛、めまいや立ちくらみ、食欲不振や下痢、腰痛、女性では月経不順といった身体症状が現れることもあります。
――症状が「うつ病」と似ていますね。
確かにうつ病でも、意欲や気力の減退が見られますし、身体的な不調も生じます。しかし、適応障害ではこうした心身の不調が職場のストレスなど外部の環境に起因します。一方でうつ病は、原因が外部の環境だけでなく、その人自身の性格や人格障害、脳内の神経伝達物質の異常など、別の原因が複数考えられるのです。
適応障害とうつ病を混同していると、適応障害の治療は進みません。よくある例として、本当は原因が職場の環境にある「適応障害」なのに、「うつ病」と診断書に書かれて休職するケースです。すると、会社や産業医は「うつ病はご自身の性格や脳内の問題ですから、治してから復職してください」と判断するかもしれません。つまり、病気の原因をすべて社員の心と体のせいだけにして、本当は改善すべき職場環境の問題を放置してしまうのです。これでは、復職してもまたすぐに体調を崩してしまいかねません。
――社員が適応障害と診断されたら治療を病院任せにせず、職場の環境を見直すことも必要になるのですね。
心身の不調を自覚して心療内科を訪れる方の多くは、「残業が多い」「上司からパワーハラスメントを受けている」など、体調を崩すきっかけになった具体的なエピソードを自覚しています。ストレスの要因が明確な場合は、業務量を見直す、ハラスメントを行っている社員を指導する、あるいは異動させるなどといった環境の見直しを検討することが大切です。
職場環境の改善が回復の鍵
――同じ職場で働いていても、適応障害になってしまう社員と、そうでない社員がいるのはなぜでしょうか。
適応障害は「外部から受けるストレスの大きさ」と「その人自身のストレス耐性」の掛け合わせで発症します。業務中にストレスを受けても、終業後には気持ちをさっと切り替えられる社員もいれば、いつまでも引きずってしまいがちな人もいると思います。後者の方が適応障害になりやすいと言えますが、前者が心配ないということはありません。頼もしくタフに見える人でも、過重な労働環境が続けば心身に不調をきたすものです。
――業務内容や職場環境に何かしらのストレスを感じる社員は多いのでしょうか。
2018年に行われたある調査では、ビジネスパーソンの7割以上の人が職場に何らかのストレスを感じていました。ストレスを感じる理由の上位は「上司との人間関係」「同僚との人間関係」「仕事の内容」「仕事の量が多い」と、外部環境に起因するものが多くを占めていました。
一方で、2012年発表の独立行政法人労働政策研究・研修機構による「職場におけるメンタルヘルスケア対策に関する調査」では、「メンタルヘルス不調者があらわれる原因は何だと思うか」という質問に、67.7%の企業が「本人の性格の問題」と回答し、1位となっています。
心身に不調が出ている社員が職場環境に問題を感じているにもかかわらず、上司からは「自分の責任」と言われるだけでは、社員の感じるストレスはますます重くなることでしょう。
もちろん、メンタルクリニックではうつや意欲の低下に対処するための薬物療法、ストレス耐性の強化や物事の受け止め方を柔軟にし、ストレスを抱え込みにくくするためのカウンセリングや心理療法も必要に応じて行います。
しかし、根本的な解決のためには企業側が「本人の問題」と決めつけることなく、人間関係や労働時間、業務内容など職場に何か問題がないかと考え、改善していくことが大切です。
参考:
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」
https://www.jil.go.jp/institute/research/2012/documents/0100.pdf
<取材先>
もりしたクリニック院長
森下克也さん
久留米大学医学部卒業後、浜松医科大学心療内科、浜松赤十字病院、法務省矯正局、豊橋光生会病院心療内科部長を経て現職。『もしかして、適応障害? 会社で“壊れそう”と思ったら』『もし、部下が適応障害になったら 部下と会社を守る方法』(CCCメディアハウス)など著書多数。
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト