休職とは
休職について法律上の明確な定義はありませんが、一般的には「労働者の都合で、一時的に雇用契約を継続させたまま労働義務を免除すること」を指します。
休職の事由として、多いのが以下のケースです。
- 傷病(会社の業務とは関係ない病気、ケガなど)
- 公職に就いた場合(議員になるなど公職への就任のため)
- 出向
- その他労働者個人の事情に応じたもの(例:留学、ボランティアなど)
休職制度そのものを設けるかどうかは会社によって決められるため、取得回数や期間についても法令上の上限はなく、会社の規則によって異なります。
たとえば、大企業だと休職を1年〜2年取得できるケースが多いですが、中小企業やベンチャー企業の場合は3カ月程度が多い傾向にあります。
取得回数については上限を設けている企業は少ないものの、なかには「異なる休職事由でも最大で1年間とする」のような規定を設けているケースも。
休職期間中の給与の支払いに関しても、一定期間は支給される、まったく支給されないなど会社によって異なります。休職制度といっても、会社の規模やルールによって幅があるのです。
労働者の休職が決まったら、本人に休職の意思があることを届け出てもらいます。休職願には、「労務不能」である旨が記された主治医による診断書を添付してもらうのが一般的。休職願を受領したら、会社側は「いつまで休職を認めるか」「休職期間中の賃金支給の有無」「社会保険料などの取扱い」などの内容を記載した「取扱通知書」を発行し、休職期間中の労働条件について誤解がないように取り交わすケースが多いです。
休業や欠勤との違い
休職と混同しやすいものに、休業と欠勤があります。休業は、労働者が労働の意思を有するものの、会社の業務上の都合により就業が困難となり、労働義務が免除されている状況をいいます。法律で定められてはいませんが、一般的に下記のように定義されます。
1.労働災害や通勤災害によるもの
勤務中の事故または通勤中の事故などの療養により、業務を行うことができない場合の休業
2.自己都合によるもの
業務外での事故や病気による療養、産前産後の休暇や出産による育児休業、家族に要介護者がいる場合の介護休業など
3.会社都合によるもの
経営難による自宅待機や操業停止、設備不良など、会社に責がある休業
4.天災事変などによるもの
地震や火事、水害、台風の影響など、会社を休まざるを得ない状況に陥ることによる休業
一方、欠勤は「労働義務の発生する日(所定労働日)に労働者の都合で勤務しないこと」を意味します。労働者が会社に連絡せずに欠勤した場合は「無断欠勤」とみなされます。
休職手当(傷病手当金)とは
労働者が病気やケガで休職した際には、全国健康保険協会から傷病手当金が支給されます。支給条件は、下記の1〜4のすべてを満たすことです。
- 業務外の原因による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと
- 連続する3日間を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
上記の3の場合、業務外の理由による病気やケガの療養のため、仕事を休んだ日から「連続して3日間(待期)」のあと、「4日目以降の仕事に就けなかった日」に休職手当(傷病手当金)が支給されます。
待期には、有給休暇や土日祝日などの公休日も含まれ、給与の支払いの有無は関係ありません。就労時間中に業務外の理由で発生した病気やケガによる療養が必要な場合は、発生日を待期の初日として考えます。
◆休職手当(傷病手当金)の支給期間について
傷病手当金が支給される期間は、支給開始日から最長1年6カ月。支給期間内に仕事復帰すると、傷病手当金は支払われません。
ただし、一度傷病手当金の支給を受けてから1年6カ月の間に仕事復帰し、その後再び同じ病気やケガにより仕事に就けなくなった場合、復帰している間は傷病手当金の支給はないものの支給期間に含まれます。言い換えれば、1年6カ月未満で復職し、その後同じ病気やケガにより再休職した場合、支給開始日から1年6カ月以内であれば傷病手当金の支給対象となります。
◆休職手当(傷病手当金)の申請方法
傷病手当金の支給申請書には、会社が出勤日等を記載する箇所があります。人事担当者は本人から受け取った支給申請書に必要事項を記入する必要があります。
◆計算方法
傷病手当金の1日あたりの支給額は、下記の方法で算出します。
(傷病手当金の支給開始日以前の継続した12カ月の各月の標準月額を平均した額) ÷ 30 × 2/3
<支給開始日以前に12カ月の標準報酬月額がある場合>
(例)
支給開始日:平成30年6月1日
支給開始以前の12カ月:平成29年4月〜平成30年5月
標準報酬月額:
平成29年4月〜平成29年8月:25万円(2カ月)
平成29年9月〜平成30年5月:30万円(10カ月)
支給額:
(25万円 × 2カ月 + 30万円 × 10カ月) ÷ 12カ月 ÷ 30日(※1) × 2/3(※2) = 6,480円
つまり、1日あたりの傷病手当金は6,480円となります。
(※1)「30日」で割ったところで、1の位を四捨五入します。
(※2)「2/3」で計算した金額に小数点がある場合、小数点第1位を四捨五入します。
<支給開始日以前の加入期間が12カ月未満の場合>
下記のどちらか、低い額を計算に使用します。
- 支給開始日の属する月以前の直近の継続した各月標準報酬月額の平均値
- 標準報酬月額の平均値
- 28万円(※):支給開始日が平成31年3月31日までの人
- 30万円(※):支給開始日が平成31年4月1日以降の人
(※)前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額。年度ごとの固定値のため、令和3年4月1日より令和2年度9月30日時点の標準報酬月額の平均値が使用される
休職中の解雇はどうなる?
休業手当休職中の労働者を解雇することは、労働法は可能とされているものの、休職時に限らず使用者は労働者の解雇を簡単に行うことはできません。仮に勤務態度に問題のある労働者がいたとしても、解雇には大きな労務リスクが伴います。
もし労働者に辞めてもらいたいと考えたとしても、解雇という手段を取るのではなく、できる限り「合意による退職」になるよう協議を尽くすべきです。
なお、労働者が就業規則や雇用契約書に定められた休職期間が満了しても復職できない場合は自然退職となります。
◆退職勧奨をする際の注意点
休職中の労働者に会社を辞めてほしい時、方法の一つに「退職勧奨」がありますが、行う際には注意が必要です。退職勧奨とは「退職をしてはどうか」と労働者に勧める行為であり、労働者には承諾するか拒否するか選択の自由があるからです。つまり、退職勧奨とは解雇でなく、労働者の自由で「退職」するということです。
また、退職勧奨は解雇に近い行為をすることになる以上、労働者の選択にどこまでも自由に干渉できるわけではありません。労働者のプレッシャーとなるようなアプローチの仕方は、「脅迫や錯誤によるもの」として無効になる可能性もあります。
次のようなことは、「脅迫や錯誤によるもの」として捉えられます。
・労働者が「はい」と言うまで執拗に説得する
1回目の説得を行なった際に、労働者から明確な「辞めたくない」という意思が表示されたら、直ちに説得を中止します。
・複数人で囲んで説得する
基本的には、所属長と人事などの限られた人数で行うべきです。
・長時間に及んで説得する
説得は長時間に渡って行わず、30分〜1時間ほどで切り上げましょう。
・威圧的な雰囲気で行う
「辞めるしかないな」など、本人が退職勧奨を断れないような発言は避けるべきです。労働者に威圧感を与えるような雰囲気をつくらず、あくまでも冷静に行うことが重要です。
休職制度は、労働者が安心して働ける環境を整えるための制度でもあります。制度の扱いは会社の裁量に任されるため、導入する際には、取得期間や回数、給与の支払いの有無などを社内でしっかり話し合う必要があります。
※記事内で取り上げた法令は2021年2月時点のものです。
参考:
全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん 社会保険労務士 大川麻美さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト