休職中の従業員が退職 未払い社会保険料は賞与・退職金と相殺できる?

社会保険の書類とお金のイメージ


従業員が休職したとき、その社会保険料を企業が立て替えるケースがあります。この従業員が復職しないまま退職した場合、社会保険料を賞与や退職金と相殺できるのでしょうか。杜若経営法律事務所の弁護士 友永隆太さんに伺いました。

 
 

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休職中の従業員の社会保険料・住民税に対する企業の対応


前提として、休職中の従業員にも社会保険料(健康保険、年金、雇用保険)や住民税の負担が発生します。この社会保険料や住民税について、企業は以下の対応をします。

 
 

◆従業員への社会保険料の請求


従業員が負担する社会保険料や住民税を毎月請求するのが望ましいです。請求頻度が低くなれば、その分請求額も高くなり、一回の支払いにおける従業員の金銭的負担が増えてしまうからです。
 
請求方法として、たとえば下記を記載した請求書やメールを送付するといいでしょう。

  • その月の社会保険料の金額(企業が負担している金額)
  • 支払い期日

 
 

◆従業員負担分を立て替える


従業員に請求書を送っても支払われない場合、企業が社会保険料や住民税を立て替える必要があります。休職中は従業員の賃金を無給とし、社会保険料や住民税を立て替えるケースがあります。

 
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立て替えていた場合、賞与や給与などから相殺できる?


従業員の賃金について、労働基準法第24条で「全額払いの原則」が定められています。事業主は給与や賞与、退職金などの「賃金」にあたるものを従業員に全額支払う義務があり、勝手に控除することは法律上禁止されています。
 
ただし、次のいずれかに該当する場合は控除が認められています。

 
 

◆賃金控除が認められるケース


次の1または2に該当する場合は、賃金からの控除が認められます。
 
1.社会保険料や所得税、住民税など法令上で定められている場合
社会保険料や税金について、厚生年金であれば「厚生年金法」、所得税であれば「所得税法」と、その種類ごとに法律が紐づいています。月々の給与から社会保険料や所得税を控除できるケースは、それぞれの法律で認められている場合に限ります。
 
社会保険料について「事業主は、被保険者の当月分の給与から前月分の被保険者負担分の保険料を控除することができる」(健康保険法第167条、厚生年金保険法第84条)と定められています。そのため、控除できる保険料は前月分に限られ、さかのぼって数カ月分の保険料を控除することはできません。つまり、企業が立て替えた社会保険料の相殺は法律で認められていません。
 
2.労働者の過半数による労働組合、または労働者代表と労使協定を締結した場合
労使協定を締結し、その労使協定に基づく相殺の範囲であれば、賃金との相殺が可能です。たとえば、社員旅行の費用を毎月給与から控除して積み立てる場合などが該当します。

 
 

◆相殺が認められるケースとは


前述の1のように、原則として法律で相殺は認められていないものの、例外的に許容されるケースがあります。
 
・労働者の過半数による労働組合、または労働者代表と労使協定を締結した場合
「賃金控除について」の2に該当する場合は、前月分の社会保険料などに限らず「全額払いの原則」の例外として、相殺が許容されます。実際に労使協定に基づき例外的に従業員負担分の社会保険料などの控除を実施した場合は、以下の内容をその従業員に通知しておくことがトラブル防止に役立ちます。
例)「◯年◯月から◯年◯月分の本人負担額分については、今回の賞与の◯円から労使協定に基づき控除しております」
 
なお「賃金控除協定書」への記載があれば、社会保険料や住民税に限らず、労働組合費や社宅費、生命保険料なども賃金控除できます。ただし、労働組合費の控除の場合は、労使協定に加えて組合員からの個別の委任が必要です。
 
・傷病手当金(※1)を企業が窓口になって受給している場合
傷病手当金は、企業が窓口になって受給するケースと従業員が直接受給するケースがあります。また、前述した労働基準法第24条の「賃金」に当たらないため、企業が受給している場合は社会保険料の負担分と相殺できます。
 
※1 健康保険の被保険者がケガや病気で働けない場合に本人とその家族を守るための制度。一定の条件を満たせば、健康保険組合から手当金を受け取れる

 
 

◆相殺せずに退職交渉に使うケースもある


休職期間満了を迎えた従業員と今後の話し合いをする際に、「社会保険料の立て替え分を企業が負担する」ことを条件に合意退職となるケースが一定数あるそうです。
 
社会保険料や住民税の立て替え分をめぐり、従業員と会社との関係が悪化し無用なトラブルに発展することも珍しくありません。企業の実務負担や費用面、従業員との関係性を考えると、そのような状況は得策とはいえません。労使協定の締結や退職交渉など企業と従業員の双方が納得する形で進めるのが望ましいです。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
 
<取材先>
杜若経営法律事務所 弁護士 友永隆太さん
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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