退職代行とは
雇用期間の定めのない労働者は、民法627条により2週間前までに申し出ることで退職することができます。有期雇用契約の場合は、やむを得ない理由がなければ契約期間中の退職はできませんが、契約期間が1年以上の場合には労基法附則137条により、契約期間の初日から1年が経過した労働者には、退職の自由が保障されています。ところが、退職を申し出た社員に対して執拗な引き留めを行う会社もあり、自ら辞意を伝えられない人もいます。
そこで退職に関する手続きを代わりに行うのが、退職代行業者です。前述の理由のほか、社内の人間関係などの事情から、直接手続きを行いたくないという人に利用されています。
退職代行業者から連絡があった際の対処法
企業側の本音としては、辞意を申し出た社員をどうにか慰留したいケースもあるはずです。しかし、わざわざお金を払って代行業者を雇っていることを踏まえれば、決意は固いと考えられ、翻意を促すことは現実的ではないでしょう。基本的には退職を受け入れる方向で手続きを進めなければなりません。
退職日をいつに設定するのか。それに伴い有給消化や退職金をどうするか。社内に残った私物の扱いをどうするか。代行業者を通して本人と必要なやり取りを行います。
しかし、退職に伴う実務的な手続きや、業務の引き継ぎなどが発生することから、当事者本人と直接連絡をとる努力は続けるべきです。仮に、人間関係の問題から代行業者を頼っていると考えられるなら、当人と良好な関係性を保っている社員を介するなど、穏便にコミュニケーションをとれる方法を模索しましょう。
何より、なぜ辞めようと思ったのか、その原因を究明することは重要です。もしそれが上司のパワハラやセクハラといった問題であるなら、根本的な環境改善を行わなければ、今後も人材の流出が続くことになるでしょう。
企業側が注意すべき点
退職は労働者の権利であるため、これを認めないという選択肢はありません。たとえ手放し難い人材であっても、退職を拒否することは違法になるので注意してください。
また、退職代行業者がすべての手続きを代行できるわけではありません。弁護士資格を持つ人が正式に委任契約を結んでいない場合は、単なる伝言役でしかなく、本人に変わって手続きを行うようならば弁護士法に抵触する可能性もあります。相手が弁護士資格を持つ事業者であるのかどうかを最初に確認し、どこまでの手続きが代行可能なのか、線引きが必要でしょう。
交渉がこじれ、互いに不快感を持ったまま決裂することになると、その後、インターネット上で悪評を書かれるなど、自社のイメージを損なう原因になるかもしれません。できるだけ相手の希望や言い分に耳を傾け、最後までトラブルなく退職を成立させることが重要になるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年6月時点のものです。
監修:うたしろFP社労士事務所 社会保険労務士 歌代将也
TEXT:友清 哲
EDITING:Indeed Japan + ノオト
