退職にまつわる法的ルールと就業規定
法的に定められている退職のルールは、「無期契約の場合」と「有期契約の場合」で異なります。
無期契約の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができ、申し出から2週間経過後に雇用関係が終了するとされています(民法627条)。つまり法律上、労働者は退職希望日の2週間前までに退職の申し出をすればよいということになります。
有期契約の場合、原則として契約終了日まで退職することはできません(民法628条)。ただし、自身の病気や家族の介護など、やむを得ない事情がある場合は例外です。
一方で、多くの企業は「就業規定」に独自の退職ルールを設けています。希望退職日の1カ月〜3カ月前までに意思表示をするという内容が多く、退職までの日数が法律よりも長く規定されているケースがほとんどです。
トラブルが生じた場合は基本的に法律が優先されます。しかし業務を停滞させないための引き継ぎなどを考慮し、退職希望者とよく話し合って退職日を決定することが望ましいでしょう。
退職者とのトラブルを防ぐポイント
従業員から退職の意思表示があった場合、企業側に引き止める意向があれば、十分に従業員と話し合いをしましょう。それでも従業員の意思が変わらないときは、退職日を決定します。強引な引き止めや、従業員の意思を無視した退職日の延長などは、トラブルに発展する可能性があります。
退職者とのトラブルを避けるためのポイントは以下の通りです。
◆トラブルを防ぐためのポイント
- 引き継ぎ期間や有給休暇の残り日数を把握し、従業員と話し合って退職日を決める
- 口約束は避け、「退職日」の明記された「退職願」を受け取る
1の退職日については業務に支障が出ないよう、引き継ぎができる日程を確保のうえ、退職日の合意を得ることが大切ですが、就業規則がある場合は、それに準ずることがもっともトラブルにならない退職日の決定方法です。また、プロジェクトの終了など仕事のきりがいいタイミングの提案も、お互いに納得しやすい決め方ではないでしょうか。
有給休暇については後述します。
意外に忘れがちなのが2の「退職願」です。口約束はトラブルの元になるので、必ず書面にした「退職願」を受け取ってください。書面がないと、たとえ本人からの申し出であったとしても、「会社に辞めさせられた」と従業員が主張すれば、それが通ってしまいトラブルにつながるケースもあります。
ここで注意したいのは、「退職日」を明記した「退職願」を受け取ること。最初の意思表示の際に、口頭だけでなく希望日を記した「退職願」を持参する従業員もいるかもしれません。しかし、話し合いの結果、退職日が変更になった場合は、「合意の上で決定した退職日」に書き換えて、再提出してもらってください。
そして、何よりも重要なのがコミュニケーションです。どちらにも主張したい言い分があるもの。押し付けではなく、双方が納得できる形で話し合いができれば、退職後も円満な関係を築くことができるでしょう。
残っている有給休暇はどう扱う?
退職にまつわる問題で多いのが、企業が退職希望者に有給休暇を消化させないトラブルです。これは労務上間違った対応であり、年次有給休暇を消化させないのは違法です。
たとえ、引き継ぎ業務に支障が出ても、原則として企業側は年次有給休暇の取得を拒否することはできません。もし、退職者が労働基準監督署に相談すれば、企業は同署より是正勧告を受けることになるので注意しましょう。
従業員が消化できなかった有給休暇を、退職時に企業がお金で買い取るという方法もあります。とはいえ、通常は年次有給休暇の買い取りは法律で禁止されているため(労働基準法39条)、あくまでも退職時の例外的な対応だということを覚えてきましょう。
退職者と円満な関係を維持し、「再雇用制度」を活用する
従業員が退職するまでの期間は当然ですが、退職後も退職者と円満な関係を築くことは、企業にとって大きなメリットにつながります。
そこで最近、導入する企業が増えているのが、「ジョブ・リターン」や「アルムナイ(alumni)」といった、いわゆる「出戻り」と呼ばれる「再雇用制度」です。
「ジョブ・リターン」「アルムナイ」とは、育児や介護、配偶者の転勤などで退職を余儀なくされた元社員を再雇用する制度。「アルムナイ」とは、まさに「卒業生」「同窓生」を意味する言葉です。
「再雇用制度」の導入には、次のようなメリットがあります。
◆「再雇用制度」を取り入れるメリット
- 採用や教育にかかる費用を低減できる
- 社外の知識や能力を自社に活かすことができる
- 企業のイメージアップにつながる
経費削減や企業の成長という面で大きなメリットを生む「再雇用制度」ですが、採用の応募条件があいまいになったり、在籍中の従業員との待遇面に不公平が出てしまったり、リスクも考えられます。再雇用者だけでなく、在籍している従業員とのコミュニケーションも怠らないようにしましょう。
※記事内で取り上げた法令は2020年10月時点のものです。
<取材先>
堀下社会保険労務士事務所 代表 堀下和紀さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト