「辞めて欲しくない人ほど辞めてしまう」のはなぜか
◆従業員が転職を考える3つの要因
一般的に、ある人が仕事で評価されていても転職を決意する理由として、次の3つがよく挙げられます。
- 自身が会社で働くことによって成長しているという「成長実感」が得られない
- 勤めている企業の「将来性」が見えない
- 職場の「人間関係」がうまくいっていない
特に外からは見えづらいのが、成長実感のズレです。それは、人によってそれを感じるポイントが異なるからです。
たとえば、「40歳までにはこういうポジションにいたい」と具体的にキャリアプランを立てる人もいれば、常に目の前の仕事を進めていき、完遂することで達成感を得たり、知的好奇心を満たすことを積み重ねたりすることに成長を感じる人もいます。
それぞれがどのような思いを持って仕事をしているかを把握することは、従業員と企業の求めていることの認識のズレを防ぐのに大切なポイントです。
◆従業員が「どう生きたいか」価値観を知ること
自社に合った人材に働き続けてもらうためには、上記のような従業員それぞれの価値観や、その人が「どんな人生を送りたいのか」「仕事のどんな部分に情熱を持っているのか」を知っておくことが大切です。
そのためには、日頃からコミュニケーションを取れるような関係性を築いておく必要があります。
企業から寄せられる期待や責任、従業員はどう感じるのか
◆従業員と企業間にできてしまう溝とは
企業側から見て「辞めて欲しくない人」というのは、会社のなかである一定の成果を出している人です。つまりは会社の求める仕事の質や量に対応し、結果を出している人を指します。会社としては、そのパフォーマンスを出し続けて欲しいと期待するでしょう。
ところが従業員本人は、成長実感が止まったり、仕事に対する情熱が持てなくなったりした時、「自分はこの仕事をこのまま続けていいのだろうか」と考え始め、他の会社に目が向くようになります。この意識のズレが、従業員と企業の間の溝となってしまうのです。
◆「溝」を解消するためには?
企業側としては、一定期間で複数の部署を経験させる「ジョブローテーション」などの方法もあります。しかし、すべての企業にそうした制度があるわけではありません。
こうした溝を生まないようにするには、上記でも述べたように、常日頃から管理職側がアンテナを張り、従業員との面談などを通して、従業員がどれだけ成長実感を持っているのかを知ることが必要です。もし成長実感を持てていなかったとしたら、どうやって解決するかを一緒に模索します。
その上で、本人が希望する業務を任せたり、給与額などの待遇を考慮したりと、企業側が従業員に歩み寄る提案をすることも、人材の流出を防ぐためのひとつの方法といえるでしょう。
◆採用時のミスマッチを防ぎ、長く働いてもらう
従業員と企業間に溝が生じる理由の一つに、採用時にミスマッチが起こっているケースがあります。企業側が、応募者のスペックや業務経験だけを材料に採用を決めてしまうと、ミスマッチが起こりやすくなります。
応募者の業務経験が豊富でも、会社の理念などへの共感に乏しいと、長続きせずに辞めてしまうことが多くなる傾向があります。
こうしたミスマッチを防ぐには、応募者が仕事内容のどこに魅力を感じ、意味付けをしているかを聞き出し、採用側も鎧を脱いで本音で話すことが必要です。採用面接は、応募者が自身を企業に売り込む場ではなく、あくまで「相互選択の場」であることを意識しましょう。
退職希望を告げられた際の立ち回り方
◆従業員本人の思いに耳を傾ける
退職希望を告げられた時に大切なのは、どういった背景での選択なのか本人に詳しく話を聞き、「それがあなたの人生にとってベストな選択ならば応援する」というスタンスを示すことです。
話を聞き、何らかに不満を持っており、それを退職というかたちで解消しようとしているような場合、一緒に問題と向き合うことで退職を考え直すケースもあります。
◆日頃からの対話を大切に
話を聞く際は、役職に関わらず、人間と人間の対話を心がけることが重要です。退職すると聞いた途端に優しくなったり、いい話ばかりを提案したりしても、不信感が募るだけです。
また、信頼関係が育っていないのに、いきなり話し合いをしようとするのは難しいでしょう。退職の話が出てから付け焼き刃で対応するのではなく、日頃から従業員との対話を通して関係性を深めておくことが一番の対策となるはずです。
<取材先>
アルー株式会社 企画広報グループ 中村俊介さん
東京大学文学部行動文化学科社会心理学専修課程卒。損害保険会社を経て、創業間もないアルー株式会社に参画。多くの大手企業の育成体系の構築や組織変革プロジェクトを手掛ける。納品責任者として東証マザーズ上場を迎えた後、現在はエグゼクティブコンサルタントとしてビジネスリーダーの育成やプログラム開発に携わる。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト