よくある離職理由と対処法とは
企業から社員が離職する理由として最も多いのは「人との相性」の問題です。中でも、普段から接する時間の多い直属の上司や先輩との相性は、働くモチベーションに大きな影響を与えます。
次いで多いのは「仕事との相性」の問題です。難易度が高すぎる・もしくは低すぎる、やりたいことと実際の業務内容に乖離があるといったことが挙げられます。
社員から離職の意向を示された際、その原因が人や仕事との相性なのであれば、対処法は配置換えのほかありません。本人の性格や意向、能力を踏まえ、馴染みやすい部署への異動を勧めることで慰留交渉の成功につながるでしょう。
リテンション施策を行うべき理由
「離職率をマネジメントする」ことの本質は、単に辞める人を減らすことではなく、会社が適切な人材で構成されている状態を保つことです。そのためには、良い人材に長く留まってもらうための「求心力施策」と、リストラなどの「遠心力施策」の両輪を適宜組み合わせて実施する必要があります。リテンション施策は、その中でも求心力施策の一環として位置づけられています。
リテンション施策とは、離職しそうな人を引き留めるということだけではありません。社員がその会社で長く働き続けたいと思える環境をつくる長期的な取り組みが、近年ではより重要性を増しています。
その理由に、少子化による人手不足を背景としたスカウト型採用やリファラル型採用が増加していることが挙げられます。社員が職場の人間関係や仕事内容に満足している状態であっても、他社から声が掛かったり親しい人から紹介されたりして引き抜かれてしまうケースがあるのです。しかも、優秀な社員であればあるほど、その可能性は高まります。
リテンション施策の目指すべきゴールと注意点
リテンション施策を行う上で目指すべきゴールは、社員一人ひとりにとってキャリアの見通しが立つ状態にすることです。自身が希望するキャリアを実現できる可能性が高いほど、組織コミットメントが高まるという法則があるからです。
ここで注意したいのは、希望するキャリアの方向性は人によって異なるということです。例えば、しっかりとしたキャリアパスを策定し、すべての社員に同じように適用することは、安定志向の人にとっては長く働きたくなる理由になるかもしれません。しかし、変化や冒険を好むタイプの社員にとっては逆効果になることもあるでしょう。
全員を同じ施策に当てはめるのではなく、一人ひとりにあったキャリアを用意できる体制があることが大事です。このような体制を構築することは、多様性が広がっていくこれからの社会においてますます重要になってくると考えられます。
また、状況によっては求心力施策を行ったつもりが、遠心力施策として機能してしまう恐れがあることにも留意しましょう。例えば、ある部署のメンバーに昇格の動機づけをしようと管理職へのキャリアアップ研修を行なったものの、実はその人たちは管理職になりたいという希望をまったく持っていなかった場合、意図に反して士気を下げてしまうという結果になりかねません。
そのようなことが起きないためには、会社としての求心力を機能させたい人たちが何を望んでいるのかをしっかり把握しておく必要があります。また、どの人材に求心力施策を、どの人材に遠心力施策を機能させたいかという方向性の軸をしっかりと持っておくことも大事です。
<取材先>
人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん
京都大学卒業後、リクルートに入社。人事部のゼネラルマネージャーとして培ったスキル・ノウハウと、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法を確立。その後、大手生命保険会社などで一貫して人事領域で活躍し、2011年に株式会社人材研究所設立。著書に『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新聞社)などがある。
TEXT:北村朱里
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子+ ノオト