計画年休は有給休暇と何が違う?
有給休暇と計画年休の違いは、次の通りです。
◆有給休暇
正式には「年次有給休暇」と呼ばれ、労働基準法において、次の2点を満たした労働者に付与されます。有給休暇は労働者が好きな時期に取得できます。
- 雇入れの日から6カ月継続して雇われている
- 全労働日の8割以上出勤している
また、2019年4月に改正された労働基準法の第39条により、すべての企業に対して以下の義務が生じました。
- 年間10日以上の有給休暇が付与される労働者を対象に、そのうちの5日は労働者が時季を指定して取得する
◆計画年休
計画年休は企業が労働者の有給休暇の付与日数から5日残した日数を計画的に割り振ることを指します。あらかじめ決められた日に付与することで、労働者が休みを取りやすくすることを目的としています。
導入にあたり、労使協定を締結する必要があります。次年度に繰り越された有給休暇がある場合は、その日数から5日を引いた日数が対象となります。
例)年次有給が10日の労働者の場合
年次有給の10日から労働者が自由に使える5日を残した5日を計画年休にあてます。
計画年休の活用例
計画年休の取得には、3つの方法があります。活用例とともに紹介します。
◆計画年休の設定方法
・企業または事業場全体の休業による一斉付与方式
すべての労働者に対し、同じ日に有給休暇を付与します。
例)製造業などで、機械のメンテナンス日に有給を一斉付与する。
・班・グループ別の交代付与方式
部署やグループごとに交替で有給休暇を付与します。会社の規模が大きく一斉付与が難しい場合や、定休日をこれ以上増やせないサービス業などに適しています。
例)決算期が終わった後の金曜日に経理部が計画年休を取得し、土曜日と日曜日と合わせて3連休にする。
・年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
有給を付与する日を労働者ごとに決めます。
例)夏季や年末年始などのほか、労働者の誕生日や結婚記念日などの個人的な記念日に付与する。
計画年休のメリット、デメリット
計画年休の導入には、次のメリット、デメリットがあります。
◆計画年休のメリット
・有給消化率の向上につながる
特に個人別付与の場合は、制度化することで労働者が有給を取得しやすくなります。
・有給取得のタイミングを調整できる
閑散期など会社に余裕がある時期に計画年休を付与するなど、労働者の有給取得時季をある程度管理できます。
◆計画年休のデメリット
・労働者の自由度が少ない
有給付与日は労使協定の締結の際に決められます。個人付与の場合も従業員が休みたいかどうかにかかわらず有給を取得しなくてはなりません。
・一斉付与の場合、有給休暇の付与日数が少ない労働者の対応も必要となる
次の「計画年休導入に必要な手順」で詳しく説明しますが、計画年休の付与日を特別休暇とするか休業手当を支払うかの対応をしなくてはなりません。
・個人別付与方式の場合、手続きが煩雑になる
個人別付与方式では一人ひとりの付与計画表を作成するなど、個別の対応が必要です。
計画年休導入に必要な手順
1.就業規則への記載
まずは、計画年休の付与について就業規則で定めます。年次有給休暇について書かれた項目に下記の内容を追記しましょう。
就業規則の規定の一例)前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分(※1)について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
※1 年次有給の付与日数のうち5日を引いた残りの日数
2.労使協定の締結
以下の項目について、労働組合または労働者代表と労使協定を結びます。「計画年休は必ず休まなくてはいけない」と周知することも肝心です。
◆計画付与の対象者
次に該当する労働者を、あらかじめ対象者から外しておきます。
- 計画年休の付与時季に育児休業や産前産後の休業となることがわかっている労働者
- あらかじめ退職することがわかっている労働者
◆対象となる年次有給休暇の日数
年次有給休暇のうち、労働者が自由に取得できる日を5日残しておかなくてはなりません。
◆計画的付与の具体的な方法
「計画年休の活用例」のいずれかの付与方法を元に付与日を定めます。
◆年次有給休暇の付与日数が少ない労働者の扱い
一斉付与または班・グループ別の交代付与方式の場合、5日以上の有給休暇がない労働者を対象に次のいずれかの措置を取ります。
ア.一斉休業日を有給の特別休暇とする
イ.休業手当として、平均賃金の60%以上を支払う
個人別付与の場合は個々の従業員の年次有給休暇取得率向上が目的のため、付与日数が少ない労働者は計画的付与の対象となりません。
◆計画的付与日の変更
計画年休の付与日の変更が予想される場合には、変更する際の手続きについて定めておく必要があります。
運用上の注意点
計画年休の目的は、労働者が休みやすい環境を整えることです。すでに労働者の有給消化率が高く、誰がいつ休んでもいい体制が整っているような場合は、無理に計画年休を導入する必要はありません。むしろ、労働者の不満につながるなどのデメリットにつながる可能性が高くなります。
自社や労働者にとっていい方法を考えたうえで、慎重に導入するといいでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
<取材先>
特定社会保険労務士 キャリアコンサルタント 岡佳伸さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト