求人票に「警備業です」の一言だけ? 採用に関する失敗例
――近年、警備業は売り手市場が続いているようです。採用がうまくいかないのは、どういった理由が考えられますか?
自社の魅力や働きがいをアピールできていない、警備の仕事に対するネガティブなイメージを払拭できていない、といった理由が挙げられます。
よくあるのが、ずっと同じ内容の求人広告を出し続けているケース。「警備業です」と一言書いてあるだけで、具体的な業務のイメージまで打ち出せていない会社も多いですね。たとえばハローワークだと、求人票のフォーマットが決まっていて、そこで警備員の魅力をうまく伝えられるかどうかが鍵を握ります。採用担当者が努力せず、自社のアピールができていない求人票だと、応募者は集まらないでしょう。
自社がどういうミッションを掲げているのか、事業の目的は何か、どういう人に来て欲しいのか。そういった要素を求人票に盛り込み、求職者に刺さるコンテンツを考えなければなりません。
また、採用したい人材によって媒体を変えているかどうかも重要です。
――採用が上手くいっていない会社は媒体選びが間違っている、ということでしょうか?
その可能性はありますね。たとえば元警察官や元自衛官など、ある程度スキルを持っている人材を採用したい場合は、ハローワークに求人を出してもあまり反応はないでしょう。
「自社が欲しい人材は、どういう媒体を見ているのか」と考え、求人の出し方を整理するところから始めなければなりません。
対面で説明、キャリアパスの構築 うまく採用している警備会社の施策とは
――うまく働き手を集めている会社は、どのような施策を講じているのでしょうか? 具体例があれば教えてください。
ハローワークが開催する企業説明会をフル活用している警備会社があります。コロナ禍以前の話ではありますが、その会社の人事担当者は必ず説明会に出向いて求職者に対面で説明をしていました。実際にどういう業務に従事するのか理解してもらうことで、その場で「面接を受けたい」という人材を獲得し、良いサイクルで採用活動を行えているようです。
「どういう場所で、何を警備するのか」「日々の生活を支える仕事である」など、業務内容ややりがいをきちんと求職者に伝えれば、具体的な仕事のイメージがわきやすいでしょう。
――ハローワーク以外の媒体についてはどうですか?
遊興施設の警備を担当している会社では、やや高年齢層で近くにお住まいの人材が欲しいと考えているため、あえて新聞の折り込み広告を出しています。担当者は「昔ながらの手法ですが、意外と効果がある」と話していました。欲しい人材に対して、うまくチャネルを設定している事例だと思います。
逆に、新卒採用を中心とし、警備員として育成していく方針を定めている警備会社もあります。その会社では、学生を採用するため高校へ訪問し、先生からも信頼を得ながら新規人材を獲得しているそうです。
どういう人を採用し、どんな警備員を育てたいのか。目的に合わせて求人手法を変えていかなければなりません。
――「せっかく採用したのに、すぐ辞めてしまう」といった例も多いようです。警備員の定着率が低い理由とは?
キャリアパスが見えにくい、という点が挙げられます。一般企業では「継続的に能力を開発し、それに見合ったポストを与えながら処遇を変えていく」といった形式が多いでしょう。しかし、警備業には係長、課長、部長などの役職がなく、警備員としての階層は「隊員」と「隊長」くらいです。そのため、長期的なキャリアパスや活躍のイメージが見えにくいのです。
定着率を上げるには、やりがいを感じてもらえるような仕事や役割を与える工夫をしなければなりません。
――なるほど。では、具体的にどのような施策を講じればよいのでしょうか?
昇格基準やキャリアプランの構築に力を入れている警備会社は増えていますね。「資格を取れば、警備員としての専門性を評価します」と提示し、資格取得を奨励するのも一つの手です。あるいは、教育講習の講師資格を持つ人材を社内で養成すれば、「将来は教える側になっていくんだな」というロールモデルができ、目標を描きやすくなります。専門職としてのキャリアパスをどう組み立てていくかが、定着率アップの鍵となるでしょう。
制服で認知度アップ 応募者を増やすためのアピール方法
――応募者を増やすためには、どうすればいいのでしょうか? 効果的なアピール方法があれば教えてください。
人手不足の一因ともなっている、警備の仕事のネガティブなイメージを払拭する内容をアピールしましょう。たとえば「警備現場にも休憩場所があります」「トイレやロッカーを整備しています」など、労働環境を丁寧に説明すれば、応募に対するハードルが下がります。
具体的な施策を挙げるとするなら、警備を行うのが工事現場の場合に、「付近の建物の管理者に対しトイレを借りられるよう、経営側が顧客と事前調整している」とか。細かいことではありますが、そういった経営側の姿勢・行動をアピールすることで、「警備員を大事にしている会社だ」と思ってもらえるはずです。
あとは、制服のデザインを工夫している会社も多いですね。定期的にリニューアルしたり、会社のイメージカラーで揃えたりしています。大きなイベントで、全員同じ腕章をつけて警備をすると、「あの警備会社は、こんなに大規模なイベントの警備を担当しているのか」と信頼感が増します。
制服は、カッコ良さやスタイリッシュさといった見た目もさることながら、企業の統一的なイメージや認知度アップにも繋がるポイントなのです。
――制服が採用につながるというのは意外ですね。では、教育制度や福利厚生についてはいかがでしょうか?
新卒や若手人材など、未経験者を中心に採用したいのであれば、「入社後にきちんと教育をします」「資格を取れるような支援が充実しています」と打ち出していくべきでしょう。SNSやYouTubeで情報発信するなど、若い層に関心を持ってもらえる工夫も必要です。
もし会社独自の福利厚生として、休暇やレクリエーションなど他の警備会社に無い特徴を持っているなら、積極的にアピールしてください。
――最後に改めて、警備会社の経営者や採用担当者へアドバイスをお願いします。
警察庁が公表している「令和2年における警備業の概況」によると、警備員数100人未満の警備業者が全体の89.5%を占めています。つまり、警備業界はほとんどが中小規模の会社なのです。少人数の会社だと、専任の採用担当がおらず、社長みずから求人票を書いているケースが少なくありません。「日々の業務に追われ、どうしても求人施策が後回しになってしまう」という会社も多いのではないでしょうか。
もし人が集まらないのであれば、「求人媒体を変えてみる」「求人票に書かれている内容を定期的にリニューアルする」といった施策に取り組まなければなりません。まずは求人に対する意識、優先順位を上げることから始めましょう。
また、求人そのもの以外のアドバイスとして、経営者は条件の良い業務に絞って受注し、適正な利益を確保するなど「高付加価値経営」を目指すべきです。10年先、20年先を見据えた戦略を練っているかどうかが、従業員の労働環境や賃金、ひいては採用や定着率につながります。細かい求人施策も重要ですが、ビジネスモデルをきちんと構築していくことも念頭に置きながら活動してください。
参考:
令和2年における警備業の概況(警察庁生活安全局生活安全企画課)
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/keibigyou/reiwa2gaikyo.pdf
<取材先>
株式会社三菱総合研究所 キャリア・イノベーション本部
主任研究員 宮下友海さん
研究員 大橋麻奈さん
TEXT:村中貴士
EDITING:Indeed Japan + ノオト