従業員が採用条件を満たしていなかった場合の処遇はどうする?

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従業員を採用後、能力不足や適格性不足など採用条件を満たしていないことが発覚した場合、企業としてはどのような処遇がとれるのでしょうか。企業が負う法的リスクや留意点を労働問題を扱う弁護士の伊藤克之さんに解説していただきました。

 
 

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能力・適格性が欠如している従業員とは


能力、適格性の欠如には、次のケースがあります。

 
 

◆仕事に対する意欲が低い


勤務状況が悪く、労働者としての責務を果たしていない など

 
 

◆業務遂行能力が低い


重要な仕事を任せられない、専門性の高い職場にスペシャリストとして採用された従業員が十分なスキルを保有していない など

 
 

採用後に能力不足が発覚、企業はどう対応すべきか

 
 

◆企業ができる解雇回避措置


従業員が能力を発揮できるように、能力改善の機会を設けましょう。

  • 研修や教育訓練を受けさせる
  • (研修や教育訓練を行っても与えられた業務を遂行できない場合)配置転換を検討する など

 
 

◆企業が解雇を判断する際の3つのポイント


従業員の能力、適格性が欠如している場合、企業が解雇を判断する際のポイントは3つあります。
 
1.職務の範囲が限定されている場合
特定の職種で雇用している場合、その能力に満たなければ配置転換などをさせなくても解雇に至る可能性があります。
 
2.労働能力、適格性の欠如の程度が深刻な場合
労働能力、適格性の欠如の度合いは、次の点から判断します。

  • 企業に与える影響(業績に影響する、周囲の士気を下げるなど)
  • 対策を講じても改善の余地が見られない など


3.解雇回避措置を講じても能力不足・適格性不足が改善されず、雇用関係の継続が難しいと判断した場合
前述したような研修、教育訓練、配置転換の結果から判断します。
 
このような場合は「普通解雇」に当たります。もし解雇理由が学歴や経歴、犯罪歴を偽る「経歴詐称」の場合、「懲戒解雇」になる可能性があります。

 
 

◆解雇をする際の注意点


企業が従業員を解雇する際、解雇日の30日前に「解雇予告」が必要です。口頭でも有効ですが、後々トラブルにならないように「解雇予告通知書」を作成しておくことが望ましいです。
 
・解雇予告日から解雇日まで30日以上ない場合
解雇予告をした上で、解雇日までに不足分(30日から解雇日までの日数を引いた分)の「解雇予告手当」を支払わなくてはなりません。
 
・解雇予告なしで解雇をする場合
企業は従業員に、「平均賃金(過去3カ月における1日あたりに相当する賃金)×30日分」を解雇予告手当として支払わなくてはなりません。

 
 

企業の対応で生じる法的リスク


能力、適格性が不足した従業員の対応において、企業は次の法的リスクを伴う可能性があります。

 
 

◆パワーハラスメントとして訴訟に発展する


企業には一定の裁量権が認められており、配置転換においてもある程度企業の判断で進めることができます。従業員が配置転換を拒否した場合でも、異動を命じることに法的な問題はありません。
 
しかし、従業員が活躍できないような閑職に追いやる、過酷な労働環境で働かせるような苦痛を伴う業務をさせるなどの「人事権の濫用」にあたる異動などは無効となり、パワーハラスメントに該当する可能性があります。従業員から訴訟を提起されるケースもあるので、注意しましょう。

 
 

◆解雇の無効を求めて従業員が労働審判または裁判を起こす


解雇は企業側の一方的な意思表示のため、従業員の合意が得られなければ、解雇の無効を求めて従業員が労働審判(※1)や裁判を起こす可能性があります。裁判所が解雇の有効性を認めるには、処分の相当性に加え、従業員の解雇を回避するために企業がどのような手段をどの程度講じたかが重要な判断材料となります。
 
・解雇が無効になった場合
企業は従業員に「解雇後から現在に至るまでの給与(バックペイ)」を支払わなくてはなりません。また、最近の裁判所の傾向では解決金として従業員の給与の半年分を支払うケースもあります。
 
・解雇が有効になった場合
解雇が有効になった場合も、裁判所の提案によって、従業員に解決金として若干の金額を支払うケースがあります。
 
なお、従業員が解雇の無効を請求できる期限は設けられていません。
 
※1…解雇や給与の不払いなど労働者と事業主の間のトラブルを迅速、適正かつ実行的に解決するための手続きで、非公開で行われる。労働審判の2週間以内に異議が申し立てられれば、訴訟手続きに移行する。

 
 

法的リスク回避のために企業がすべきこと


解雇は従業員の生活に関わることであり、企業としても法的なリスクを伴います。このような事態を避けるために、企業は下記の方法を取ることが大切です。

 
 

◆労働契約書への記載


たとえば、専門性の高い職種でスペシャリストとして採用した場合など、従業員を雇用する際に職種を限定したい場合は、その条項を契約書に記載しましょう。職種を限定しておくことで、従業員がその職種に対応できなくても、企業が解雇回避措置として配置転換をする必要はなくなります。

 
 

◆就業規則の整備・社内周知


従業員の能力が不足している場合にどうすべきかを労働契約書に細かく記載することは現実的ではありません。就業規則にどのような場合に解雇になるかなどの解雇事由を記載し、その内容を従業員に周知する必要があります。
 
また、従業員の能力不足・適性不足の改善のために企業がどのような働きかけをしたかを日報などに記載しておくと、従業員が解雇無効を求める労働審判や裁判を起こした場合に証拠として裁判所に提出できます。「日付」「対象となる従業員の名前」「企業が働きかけをしたけど改善されなかった」などを記録しておくといいでしょう。
 
従業員の能力が不足していたとしても、すぐに解雇に踏み切るのでなく、従業員の能力改善に向けた対応をすることが肝心です。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
 
<取材先>
日野アビリティ法律事務所 代表 弁護士 伊藤克之さん
第二東京弁護士会所属。労働者の立場から、不当解雇や退職勧奨などの労働問題に取り組む。発達障害の特性を持つ弁護士として、同じ生きづらさに苦しむ当事者の権利を守る活動をするほか、発達障害当事者やその家族を対象とした発達障害者相談室を開催する。
 
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト


 
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