従業員の肥満・メタボ対策 健康経営のためにできること

メタボなお腹のイメージ

運動不足や食べ過ぎの積み重ねによって引き起こされる肥満やメタボリックシンドローム。あらゆる病気のリスクが高まるため、従業員が肥満やメタボリックシンドロームの状態に陥ると企業はリスクを抱えることにつながります。それぞれの基準やどのような病気のリスクが高まるのかといった基本的な情報から、企業ができる改善の方法、さらには企業の健康経営のためにできることについて複数の企業で保健師として活動する藤吉奈央子さんにお話を伺いました。

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あらゆる病気につながるメタボと肥満

――肥満、メタボリックシンドローム、それぞれの診断基準を教えてください。
 
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪型肥満をきっかけに脂質異常や高血糖、高血圧となる状態のことを言います。食べ過ぎや運動不足などの積み重ねが原因である場合が多く、へその高さの腹囲が男性は85㎝、女性は90㎝を超え、その上で血圧、血糖、脂質のうち2つ以上が基準値を超えるとメタボリックシンドロームと診断されます。ちなみに基準となる腹囲は、内臓脂肪面積100平方㎝以上に相当する数値が目安として定められています。皮下脂肪は女性の方が多いことから、女性は大きな数値に設定されています。
 
なぜ病気のリスクが高まるかというと、内臓に蓄積した脂肪細胞が悪玉因子を分泌し、これらがインスリン抵抗性を引き起こすため高血糖になります。さらに脂質異常や高血圧にもつながり、動脈硬化を起こしやすくしてしまいます。結果、心筋梗塞や脳梗塞など動脈硬化性疾患の発症率が高まることになります。
 
一方で、肥満は、体重(kg)÷身長(m)の2乗で算出される値をBMIと言いますが、日本肥満学会が定めた基準として、この値が25以上となると肥満と定義されています。肥満になると脂質異常や糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクが2倍以上になり、BMIが30を超えると高度な肥満とされ、より積極的な減量治療が必要になります。
 
――健康診断でメタボリックシンドロームや肥満と診断されると、どうなりますか?
 
健康保険組合が実施する特定保健指導を受けることになります。腹囲が基準値を超えている状態を「内臓脂肪型肥満A」、腹囲が基準値を超え、かつBMI25以上の場合を「内臓脂肪型肥満B」とし、そのどちらに該当するか、さらに血糖や脂質、血圧、喫煙歴のうち、リスクがいくつあるかによって、動機付け支援、積極的支援のいずれかの指導を受けます。
 
内臓脂肪型肥満Aでリスクが1つ、内臓脂肪型肥満Bでリスクが1~2つの場合は動機付け支援、内蔵脂肪型肥満Aでリスクが2つ以上、内蔵脂肪型肥満Bでリスクが3つ以上の場合は積極的支援となり、保健師等の面談で生活習慣改善の指導が行われるという流れです。

 

労働時間も生活習慣の一部と捉えて環境改善を

――夜勤や長時間労働などの働き方が影響して、肥満やメタボにつながるケースも多いのでしょうか?
 
仕事上のストレスや長時間労働、夜勤、単身赴任による食生活の乱れなどが要因となって、体重増加につながるケースは多いと思います。
 
糖尿病や高血圧など、食事や運動、喫煙、飲酒、ストレスなどの生活習慣が深く関与する疾患は生活習慣病と呼ばれます。しかし、労働時間は1日の3分の1ほどを占めるため、私としては、労働に起因する疾患については、“労働生活習慣病”と表現できるのではないかと考えています。それほど、労働環境が体に及ぼす影響は大きいのではないでしょうか。
 
ちなみに生活習慣病は、もともと成人病と呼ばれていましたが、1996年に名称が変わりました。これには、成人でなくても発症の可能性があるという理由のほかに、生活習慣の改善によって予防が可能であるというメッセージが込められています。経営者の皆さんには、労働環境を変えることが、肥満やメタボリックシンドロームの改善につながる可能性があることも意識してもらえたらうれしいですね。
 
――肥満やメタボリックシンドロームと診断される従業員を減らすために、企業ができる取り組みを教えてください。
 
従業員が運動をしやすく、カロリー摂取を控えやすい環境を整えていくことが大切です。小さなことですが、たとえば、3階以内の移動なら階段を使うよう促したり、食堂がある企業ならメニューにカロリーや栄養情報を記入することも一つの方法です。企業内に設置している自動販売機の飲み物を清涼飲料水からお茶や水などに変えることも有効です。
 
健康保険組合のなかには、アプリを活用するなどして一日の歩数を記録し、ゲーム感覚で競い合うウオーキングイベントなどを実施しているところもあります。こうした楽しい企画も運動するきっかけづくりになります。
 
またコロナ禍の影響で、電車通勤から自転車通勤に変えた人も増えたようですが、こうした取り組みにつながるような仕掛けを考えるのもおすすめです。ほんの小さな積み重ねでも、取り組みを習慣化することで大きな効果をもたらすので、ぜひやってみてください。
 
――肥満の従業員がいた場合に「痩せた方がいいよ」というとハラスメントになりますか?
 
そもそも健診結果は、人事労務部門の担当者や職場の管理監督者が把握することができ、所見がある従業員には保健指導を行ったり、医療機関の受診を促すなどの対応をしたりしなければなりません。そのため、肥満やメタボリックシンドロームに該当した場合も特定保健指導を受けるよう勧める必要があります。
 
当事者に、何らかの声掛けをしなければなりませんが、「肥満」という言葉自体がその人を傷つけてしまう可能性があるので言い方には注意が必要です。個人を否定するような言い方ではなく、あくまで安全配慮義務の観点から必要な指導として健診結果を伝え、「あなたの健康を守りたい」というメッセージが届けばハラスメントにはならないのではないでしょうか。

 

従業員の健康推進が会社のリスク軽減になる

――中小企業として、健康経営を実現するためにできることはどのようなことがあるでしょうか?
 
健康経営とは、企業が従業員の健康に配慮することで経営面でも大きな成果が期待できるという観点から、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え戦略的に実践することです。こうした観点から考えても、少数精鋭の中小企業ほど従業員一人一人の健康面への不安は大きなリスクになるといえるでしょう。
 
肥満やメタボリックシンドロームは、深刻な病気に発展してしまう危険性がある“黄色信号”のような状態なので、その時点で早めに改善のための対策を取ることが重要です。健康診断には、従業員の福利厚生だけでなく、従業員の体の不調に起因する事故や生産性の低下を防ぎ、会社のリスクを軽減するという目的もあります。その結果を見逃さず、企業として従業員を大事にするというメッセージを従業員全員に浸透させつつ健康経営に取り組みましょう。

 

参考:
国立国際医療センター 糖尿病情報センター『メタボってなに?』
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010/010/02.html


<取材先>
Harmony ~Life&Work~ 代表 藤吉奈央子さん
関西を中心に複数の企業で保健師として活動。産業看護職の育成に関わる傍ら、人事労務担当者・経営層向けの研修講師なども行う。また、大阪産業保健総合支援センターで相談員・両立支援促進員として大阪府内のがん拠点病院を中心に“治療と仕事の両立”に関する相談対応や医療職向けのセミナーなども実施している。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト

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