従業員の健康を守る 中小企業における産業保健分野の考え方


産業保健活動とは、労働環境などによる健康障害の予防と労働者の健康の保持、増進を目的とした活動のことです。特に50人未満の中小企業では、産業医の専任義務がなく、社内の人員が限られていることなどから十分に機能していない現状があります。社員の健康を守ることは、企業の利益や発展につながることはもちろん、過重労働などの問題を防ぎます。複数の企業で保健師として活動する藤吉奈央子さんに、中小企業は産業保健活動にどのように取り組めば良いかをお聞きしました。

 
 

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産業保健に関する情報不足が課題


――中小企業における産業保健活動の現状について教えてください。
 
従業員が50人未満の中小企業では産業医の専任義務がなく、保健師など専門の知識を持つ担当者を配置していないことが多いです。そのため、産業保健に関する情報が圧倒的に不足し、健康管理体制が脆弱になっている可能性があります。しかし、それは従業員の健康に対する会社の意識が低いということに限らず、情報が届いていないがゆえに生じている問題でもあると感じています。
 
――従業員の健康を守る意識があっても、そのための情報が不足しているのですね。
 
私自身、20人の小規模事業所から数千人の事業所までさまざまな企業で産業保健に携わっていますが、意識は人数に比例しません。たとえば新型コロナウイルス感染症への対策では、従業員数が少ない事業所や在宅勤務が不可能な業種の危機意識は非常に高いです。
 
しかし一方で、健康診断を実施していても結果を本人任せにして放置してしまっている企業もあります。実施しても結果によって病院の受診を促すなどの対応をしなければ従業員の健康課題の早期発見や健康維持につながらず、せっかく実施している健康診断が十分活かせません。このような産業保健の情報や指導が届きづらい状況には、歯がゆさを感じます。

 
 

さんぽセンターや地さんぽでの無料相談を活用できる


――こうした現状を改善する一歩として、企業が無料で相談できる産業保健総合支援センターや地域産業保健センターがありますね。
 
企業の産業保健分野をサポートする機関として、産業医や衛生管理者などの支援を行う産業保健総合支援センター(さんぽセンター)が全国各都道府県に47カ所、労働者数50人未満の小規模事業場を対象とした地域産業保健センター(地さんぽ)が350カ所あります。
 
具体的な役割として、さんぽセンターでは、産業保健活動に携わる専門職や事業主、人事労務担当者に対して、産業保健に関する研修や専門的な相談への対応を行っています。地さんぽでは、労働者50人未満の小規模事業場の事業主や、そこで働く人を対象に労働安全衛生法で定められた保健指導などのサービスを提供しています。どちらも企業の担当者は無料で相談することができます。
 
――中小企業が両センターと連携する必要性をどうとらえていますか?
 
私は、さんぽセンターの一つ、大阪産業保健総合支援センターで月1回、相談員として勤務しています。両センターで相談できる内容は、たとえば、従業員ががんになった場合の「治療と就労の両立支援」に関する相談や精神的な不調で休職した人に向けた復職プログラムの導入アドバイスなど、多岐にわたります。
 
相談は回数制限がありますが、一度の相談でも受けていただければ、そのノウハウをほかの事例にも応用できると思います。中小企業の産業保健に関する情報不足を少しでも解消するヒントを得るため、まずは相談してみてもらえるとうれしいです。

 
 

産業保健にかかる費用は「コスト」ではなく「投資」


――よりよい産業保健活動のあり方について、どのように考えたらよいでしょう?
 
適切な産業保健活動を展開していくための基本は、産業保健の基盤となる労働安全衛生法を遵守することです。労働安全衛生法には、事業規模にかかわらず、労働者に対して健康診断を実施しなければならないこと、従業員50人以上の事業所においては職場の作業環境について話し合う安全衛生委員会を月に1回開催することや産業医を配置することなどが義務付けられています。まずは、この法律に定められている項目をきちんと守ることが大切です。
 
加えて、企業の意識変革も必要です。従業員に健康診断の所見があっても放置している企業があるとお話ししましたが、経営者は従業員一人一人を大切に考え、大切にする一つの方法として健康診断を活かせれば、自ずと結果のサポートも含めた健康診断の活用につながると思います。このように意識を変えることも、より良い産業保健活動につながる大切な要素だと考えています。
 
健康診断をはじめ、従業員の健康管理に「お金をかけること」=「コスト」と捉えられがちですが、従業員の健康を守ることは企業にとっても大きなメリットとなります。「投資」という意識を持って、産業保健活動に取り組んでほしいです。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
 
<取材先>
Harmony ~Life&Work~ 代表 藤吉奈央子さん
関西を中心に複数の企業で保健師として活動。産業看護職の育成に関わる傍ら、人事労務担当者・経営層向けの研修講師なども行う。また、大阪産業保健総合支援センターで相談員・両立支援促進員として大阪府内のがん拠点病院を中心に“治療と仕事の両立”に関する相談対応や医療職向けのセミナーなども実施している。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト

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