社員の健康を守るために知っておきたい「産業保健総合支援センター」「地域産業保健センター」の活用術


産業医などを専任する義務がない中小企業が産業保健について無料で相談できる機関として産業保健総合支援センター、地域産業保健センターがあります。複数の企業で保健師として相談に乗る傍ら、大阪産業保健総合支援センターの相談員としても活動する藤吉奈央子さんに両センターの活用方法を聞きました。

 
 

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従業員の健康相談をはじめ、担当者向けの研修会も実施


――産業保健総合支援センター、地域産業保健センターはどのように活用できますか?
 
全国47都道府県に1施設ずつ配置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では、企業の産業保健に携わる産業医、保健師、衛生管理者をはじめ、事業主、人事労務担当者に対して、医師や保健師らが相談を受けてアドバイスするほか、企業の担当者や専門職研修会も開催しています。
 
従業員50人未満の企業の事業主やそこで働く人を対象にした地域産業保健センター(地さんぽ)では、健康診断のフォローなどを含む産業保健に関する総合的なアドバイスを行うなど、小規模な事業所の相談にきめ細やかに対応しています。こちらは全国に350カ所設置されています。
 
いずれも相談には回数制限がありますが、無料で利用できます。
 
――従業員の健康診断結果に対する相談などもできるのでしょうか?
 
地さんぽでは、従業員の健康診断の結果に関する相談も受け付けています。健康診断を実施する目的は、働く人が健康を害しない状態で仕事に取り組めているかを確認するためのものでもあります。健康上の問題や、それが今後起こることが予測されれば、業務内容や業務時間などを見直すことも目的の一つです。健康診断の結果を放置せず、所見があった場合には地さんぽや専門職などへの相談、病院の受診などを経て、勤務時間帯を変更する、業務内容を見直すなどの対応を検討してほしいです。
 
――従業員の健康を守るために、企業側も働き方を柔軟に変えられる意識や体制が必要なのですね。
 
生活習慣病という言葉がありますが、私は労働環境などの要因も含めた「労働生活習慣病」と理解するべきだと考えています。たとえば、連日の残業で食事の時間が遅くなり、そうした習慣が原因で健康上の問題が引き起こされることもあります。生活習慣病というと、本人の不摂生だけが原因というイメージを持たれがちですが、それだけではなく労働環境が多いに影響することを企業の皆さんに意識していただきたいです。

 
 

メンタルヘルス対策へのサポートにも注力


――近年、仕事上の悩みやストレスを抱える人が増加傾向にあると聞きますが、メンタルヘルスに関する相談も多いのでしょうか。
 
さんぽセンター、地さんぽには、メンタルヘルスに関する相談も数多く寄せられていて、その対策にも力を入れています。具体的には、さんぽセンターでは、保健師や社会保険労務士、産業カウンセラーなどの資格を持つ専門のスタッフが職場を訪問して、従業員のメンタルヘルスケアを円滑に進めるための施策「こころの健康づくり計画」の作成やストレスチェック制度の導入支援、管理職や若手社員などが対象のメンタルヘルス教育も行っています。
 
――両センターではさまざまな相談ができるのですね。逆にできないこともありますか?
 
相談の回数が限られているため、相談者から「継続的に専門家に相談したいので、良い産業医を紹介してほしい」と言われることがありますが、残念ながらさんぽセンターと地さんぽでは、医師や保健師などのあっせんができません。また、従業員個人の相談については、がん治療と就労の両立支援に関することなら対応できるのですが、そのほかの疾患に関しては個別の対応はできません。
 
相談回数に制限はありますが、課題解決の糸口をお伝えできるはずなので、相談していただくことが大きな一歩につながると思います。
 
――さんぽセンターなどを活用した企業や従業員の方からはどんな声が寄せられていますか?
 
実際にセンターを活用した方からは、初めて相談するときはハードルが高いように感じたものの、一度相談してみたらとても利用しやすかったという声や、アドバイスをもらったことで別の疾病に関する問題でも応用して乗り越えることができたという声もいただきました。仕事をしながらがんになった方から「主治医には聞けなかったことを聞くことができて助かった」というメールなどもいただいています。

 
 

産業保健活動を社会的インフラに


――各企業がさんぽセンターなどを上手に活用することで、より一層、従業員の健康への意識が高まっていくといいですね。藤吉さんが目指すところを教えてください。
 
私は、企業規模に関係なく産業保健が社会的なインフラになることを目指しています。私自身も保健師という立場で啓発活動に取り組んでいきたいと思っていますが、よりよい産業保健活動を展開していくためには、従業員同士の相互理解が必要です。がんなどの疾患だけでなく、育児や介護を担いながら仕事を続ける人も増えているので、それぞれの事情を背景に従業員同士が「お互い様」という気持ちを持てるようになれば、健康にも寄与する良い環境が生まれるのではないでしょうか。そのヒントを得るためにも、さんぽセンターや地さんぽを上手に活用しながら、働きやすい環境をつくってもらえたらと思います。

 
 
 

※記事内で取り上げた法令は2021年10月時点のものです。
 
<取材先>
Harmony ~Life&Work~ 代表 藤吉奈央子さん
関西を中心に複数の企業で保健師として活動。産業看護職の育成に関わる傍ら、人事労務担当者・経営層向けの研修講師なども行う。また、大阪産業保健総合支援センターで相談員・両立支援促進員として大阪府内のがん拠点病院を中心に“治療と仕事の両立”に関する相談対応や医療職向けのセミナーなども実施している。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト

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