奨学金返還支援(代理返還)制度とは
奨学金返還支援(代理返還)制度とは、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)の貸与奨学金(第一種奨学金・第二種奨学金)を受けていた従業員に対し、企業が返還金額の一部または全額を代理で返還する制度です。
企業が福利厚生の一つとして導入することができ、日本学生支援機構のサイトで導入企業の一例を確認できます。
各企業の返還支援制度
奨学金返還支援はどう変わった?
◆2021年4月、企業からの直接送金が可能に
企業が従業員の奨学金の返還を支援する際、これまでは次の手順で行われていました。
1.企業が返還支援対象者へ、返還分を手当として給与に上乗せするなどして支給
2.従業員本人が日本学生支援機構へ奨学金を返還
しかし、この方法では奨学金返還分の税務上の取り扱いは「給与」です。つまり所得税の課税対象となり、社会保険などの算定対象の報酬にもなります。企業だけでなく、従業員も所得税や住民税、社会保険料などの負担が増える可能性がありました。
そのため、日本学生支援機構は2021年4月より、企業が直接同機構へ返還分を納められるようにしたことで、課税関係について、次のように記しています。
1.【所得税】非課税となり得ます。
【参考】国税庁HP「質疑応答事例(所得税)」
○奨学金の返済に充てるための給付は「学資に充てるため給付される金品」に該当するか
(抜粋)
奨学金の返済に充てるための給付は、その①奨学金が学資に充てられており、かつ、その②給付される金品
がその奨学金の返済に充てられる限りにおいては、③通常の給与に代えて給付されるなど給付課税を潜脱
する目的で給付されるものを除き、これを非課税の学資金と取り扱っても、④課税の適正性、公平性を損なう
ものではない。
※個別の事例に依るため、一概には非課税とは言えません。
2.【法人税】給与として損金算入できます。
使用人の奨学金の返済に充てるための給付にあたるので、給与として損金算入できます。
引用:企業の奨学金返還支援(代理返還)への対応(日本学生支援機構)
企業が導入するメリット
◆企業も従業員も各種税金や社会保険料の負担が減る可能性がある
<企業>
- 法人税……返還分を給与として損金算入できる
- 法定福利費(社会保険料)……返還支援金を給与に上乗せしていた場合と比べ、負担が減る可能性がある
<従業員>
- 所得税や住民税、社会保険料など……返還支援金が給与に上乗せされていた場合と比べ、負担が減る可能性がある
- 返還方法……支給された返還支援金を日本学生支援機構に送金する手間が省ける
◆採用活動でPRできる
奨学金返還支援(代理返還)制度を導入していていることが、福利厚生のPR要素の一つともなります。
奨学金返還支援(代理返還)制度を導入している企業は、掲載依頼をすれば日本学生支援機構のウェブサイト「各企業の返還支援制度」のページに社名や支援の目的などを掲載することもできます。
同制度を導入している企業を探している人材の目に止まりやすく、人材の獲得につながることが期待できます。
◆離職率の低下
制度を導入することで、奨学金返済を行っている従業員の経済的および心理的負担を軽減できます。仕事に打ち込めるようになるなどの意欲向上や、定着率の増加が期待できます。
◆企業から日本学生支援機構へ、確実に奨学金を返還できる
従来の制度では、返還する奨学金を一度従業員に渡す仕組みだったため、確実に返還しているか、企業としてはわからない部分がありました。しかし、制度の変更によって、企業から日本学生支援機構に確実に返還できます。
導入にあたり企業側が準備すること
◆会社の規程を作成する
奨学金返還支援(代理返還)制度の利用について、会社の規程を作成します。その際には、下記の項目について詳細に定めましょう。
- 制度の対象従業員(雇用形態、勤続年数など)
- 支援金額(一部、または全額、上限金額など)
入社直後から返還支援を行う場合、返還が終わったら従業員が退職してしまうなどのケースも考えられます。たとえば「勤続年数が3年になった時点で、奨学金の5割を返還する」など、勤続年数の条件などは慎重に考えましょう。
また、返還後の離職を防ぐためには、企業や業務そのものに魅力を感じてもらえるように、採用時のマッチングを重視したり、入社後に人事部門からのフォローをこまやかにしたりするなどの対策も必要です。
◆導入の流れ
- 返還支援対象者を決定する
- 日本学生支援機構に対して返還支援申請をする
- 企業の返還支援(代理返還)システム「スカラKI」に登録する
日本学生支援機構が公表した「日本学生支援機構について(令和元事業年度業務実績等)」の調査によると、2019年時点で学生の2.7人に1人が同機構の貸与奨学金を利用しているそうです。
今後も、企業による奨学金返還支援(代理返還)制度は、従業員にとって貴重なサポートになると考えられるでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
<取材先>
うたしろFP社労士事務所 歌代将也さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




