『採用競合』を意識せよ–[第9回]中小企業経営者が知っておきたい「いまどき採用事情」黒田真行さんに聞く


過去30年以上にわたり中途採用市場に携わってきた黒田真行氏に、今、中小企業の経営者が実践するべき人材戦略について伺うインタビュー企画。
 
連載第9回のテーマは「『採用競合』を意識せよ」です。コロナ禍からの景気の改善に伴うのが、採用難の再来です。優秀な人材を採用するために必要なのが「採用競合」にあたる会社との差別化。報酬だけではなく、雇用環境や労働環境も含めて「いい会社」にしていく必要があると黒田氏は話します。

 
 

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第9回「『採用競合』を意識せよ」


新型コロナ禍はまだまだ収束する気配がありませんが、ワクチン接種が進んだことで、企業の景況感は改善しつつあります。しかしこれは採用難の再来、つまり優秀な人材を競合と奪い合う時代の到来を意味しています。
 
今問われているのは、「採用競合に比べて」魅力的な企業になっているか。また、「いい会社」であるために、経営努力をし続けているか。仕事探しのリテラシーが高度化している昨今の求職者は、いい会社とそうでない会社を簡単に見分けてしまいます。「今は一部の『いい会社』が限られた『いい人材』を総取りする時代。ダメな会社はいつまでも人材に選んでもらえません」と黒田氏。詳しく伺いました。

 
 

1円でも多く報酬を出せるよう経営者は努力しているか


――前回、景況感が回復したことで採用難の時代がやってくる、というお話を伺いました。求人数に比べて優秀な人材が足りないため、企業間の争奪戦が起きている、採用側は『人を選ぶ側』から『人に選ばれる側』へ変わる、というお話でした。
 
言い換えると、企業はこれまで「どうやって優秀な人を採用するか」を考えればよかった。でも今は「自社が求めるような優秀な人材に、いかに選んでもらえるか」という視点が重要になっている。優秀な人材が欲しければ、優秀な人材に選んでもらうに足る企業になる努力をしないといけない、ということですね。
 
そして当然、優秀な人材は数が限られていますから、ほかの企業との奪い合いになります。ただでさえ採用難の時代になろうとしているのに、さらに、希少な人材を競合と奪い合うのですから、現状のままではいい人材の採用は難しい。
 
また、「採用競合にくらべて自社は魅力的か」という視点も見落としてはいけません。もちろん、採用側はどの企業と競合しているのか、判断することは簡単ではないでしょう。しかしそれはあくまで見えていないだけです。求職者側は必ず、複数の企業を見比べているので、実際には競合はいると考えるべきなのです。
 
極端な話、採用競合が年収700万円を提示しているのに、自社は年収500万円しか出せないようでは、選んでもらうことは難しい。それは、エンジニアだろうが営業だろうが、飲食店スタッフだろうが、どんな職種でも同じです。需給バランスにおいて、需要が多くて供給が少ない優秀な人材を採用するなら、ほかの企業と取り合いになっている現実に向き合い、より魅力的な企業にならないといけません。
 
――しかしそうはいっても、急に高い報酬は用意できないのでは?もともと働いている従業員の報酬と大きく差をつけるわけにはいかないでしょうし。
 
確かに、きちんとした人事・賃金制度がある会社なら、既存の従業員の賃金と大きく異なる報酬は払えません。でも、それは表層的な問題ですね。そもそも企業全体としての給与水準が人材にとって魅力的か、ほかの採用競合と比べてどうか、という問題として考えるべきでしょう。
 
報酬が少ないということは、労働分配率といって、儲けから給与原資として支払う割合が低いことを意味します。そして、労働分配率が低いのは、第一には経営者が「人材への投資に消極的」だからです。大企業だから労働分配率が高い、中小企業だから給料が低い、という話ではなく、経営者の思想の違いだと言っていいと思います。
 
――とはいえ、そもそもの粗利率が低い業種もありますよね。例えば、ファストフード店で時給を2,000円にできるでしょうか?事業構造上、時給を上げられないというか。
 
もちろん、業種ごとに労働分配率はまったく違います。商材が有形のものか無形のものかでも違います。無形のなかでも、ITかコンサルか、教育か、でまた違いますし、同じ業種のなかでも、勝ち組企業と負け組企業とで差が出てきます。内資と外資でも違いますね。日本で年収700万円だった人材が、外資に行くと1500万円になったりします。
 
ただ、ここでいう「労働分配率が高い、低い」という問題は、基本的に「同業種のなかでの比較」の話だと考えてください。企業が意識するべき採用競合も、第一には同業他社です。飲食店の採用競合は多くの場合、やはり飲食店であって、IT企業と人材を奪い合うことはほぼありません。求職者側も、「飲食店で働こうか、IT企業で働こうか」とは考えず、たいていは同じ業種内で職を探すことが多いわけです。つまり飲食店なら、ほかの飲食店と比べて魅力的かどうかを考えないといけない。たとえば飲食店業界であれば利益率の構造はそう大きくは変わりません。景気がいい、悪い、という話ですらありません。競合より1円でも多く報酬を出せるように経営者がどんな努力をしているか。優秀な人材はそこを見ています。

 
 

限られた「いい会社」が限られた「いい人材」を総取りする時代


――そうなると、いい会社は放っておいてもいい人が集まり続け、ダメな会社はいつまでも採用難、という構造ができそうですね。
 
そのとおりです。これまでもたびたび指摘しているように、採用側と求職者側との間の「情報の非対称性」がなくなっています。一昔前は、お金を払って採用広告をバンバン打てば、どんな企業でも人を集められました。でも今の求職者は、クチコミやSNSを通じて、会社の内実をつかんでいますから、きれいごとばかり並べた採用広告など見向きもしません。逆に、規模が小さくて採用広告を打てる予算のない企業も、「経営者がSNSを通じて積極的に発信している」とか「口コミでも『いい会社』だと評判が広まっている」といった経営努力の部分で人を集められるようになっています。
 
要は、限られた「いい会社」が限られた「いい人材」を総取りする時代。人材に選んでもらえない会社はいつまでも採用に苦戦することになる。今は、そういう時代です。
 
私はこの状況は、日本の雇用環境にとっていいことだと思っています。いい人材に選んでもらうために、企業は努力する。そうしていい人に選んでもらえた、いい企業はより発展する。反対に、ダメな企業は人を集めることができず、自然と潰れていく。雇用の総量が一緒であるなら、いい企業にいい人が集まって、経済を発展させてくれたほうがいい。そのほうが、国力は高まるわけですから。
 
――採用側は、いい企業になって成長するか、ダメ企業のまま潰れるかの瀬戸際にいるわけですね。ここでいう「いい企業」の条件として、優先度の高いものはありますか。給料か、社風か、福利厚生か。
 
高い給料を出せば、採用成功率が上がるのは確かです。給料が高いと、ほかの面でも従業員への重視度が高いのではないかと求職者側は期待します。ただし、高い給料といっても成功報酬型は敬遠されます。「働いてくれた分だけ払う」というのは、経営者の側がリスクを回避し、従業員にリスクを押し付けているとも言えますから。ゆえに、どんな働きでも一定の給与を保証する固定給型のほうが、従業員重視といえますね。
 
ただし、何を基準に「いい企業」とするかは、求職者それぞれの価値観によります。したがって採用側は「自社が求めるような優秀な人材」にとってのいい企業は何か、を具体的に考えないといけない。例えば、すでに自社で活躍している優秀な人材が、どこに満足を感じているのかヒアリングしてみる。まずは、そこから始めてみてはいかがでしょうか。

 
 
 
黒田 真行(くろだ まさゆき)
Profile
黒田 真行(くろだ まさゆき)
 
1989年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、「リクルートエージェント」ネットマーケティング企画部長、株式会社リクルートドクターズキャリア(現:リクルートメディカルキャリア)取締役などを歴任。現在は「ミドル世代の適正なマッチング」を目指す、ルーセントドアーズ株式会社の代表取締役を務める。人材マーケット分析ならびに人材戦略構築の専門家。

 

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