そもそも退職金制度とは
「退職金制度」とは、企業が退職する労働者に対して退職金手当を支給する制度です。「退職一時金制度」と「退職年金制度」に大別され、さらに原資確保の方法や資金の運用方法などによっていくつかの種類に分類されます。
法的な規定はないため、退職金制度を導入するか否かは企業が独自に決定することができます。導入する場合は、就業規則に要件を定める必要があります。それにより、企業には規定した通りの退職金を労働者に支払う義務が生じます。退職金制度を導入し運営するには、拠出・運用・管理・給付の業務が必要です。
中小企業退職金共済制度とは
「中小企業退職金共済制度(以下、中退共制度)」は、退職金制度の一つです。
退職金制度の運営のうち、独立行政法人勤労退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部(以下、中退共本部)が退職金の管理・運用・給付を行います。企業は中退共本部に掛金を納付(口座振替)する拠出部分のみを担うだけで、退職金制度を導入できます。
具体的には、企業は労働者ごとに決めた掛金を、毎月中退共本部に納付します。その資金を中退共本部が運用・管理します。支払いについては、退職者自らが中退共本部に請求することで、中退共本部が直接退職者に給付します。
中小企業退職金共済制度のルール
中退共制度に加入できる対象企業規模は次の通りです。導入した場合、原則として全労働者を加入させなければいけません。

拠出する掛金は月額5,000円から3万円の間(1万円以下は1,000円刻み、1万円以上は2,000円刻みで16種類)で、労働者ごとに任意に選択できます。パートタイマーなど短時間労働者の場合、特例として月額2,000円、3,000円、4,000円のいずれかの掛金を設定できます。
掛金は全額事業主負担です。労働者に負担させることはできないので注意しましょう。
中小企業退職金共済制度のメリット
中退共制度のメリットは、運営負担が少ないこと、税制面での待遇や国の助成が受けられることです。
◆最小限の運営負担で退職金制度が導入できる
運用・管理・給付は中退共本部が担ってくれるため、企業は中退共本部に掛金を納付するだけで、退職金制度を導入することができます。面倒な手続きがない上に、運営負担を減らせます。
◆掛金は非課税
法人の場合は損金、個人の場合は経費として処理できるため、掛金は全額非課税扱いになります。
◆新規加入企業の掛金の助成
新規加入の企業の場合、加入後4カ月目から1年間、掛金月額の2分の1(従業員ごとに上限5,000円)を国が負担してくれます。
◆月額掛金変更の助成
掛金月額が1万8,000円以下の従業員の掛金を増額すると、増額分の3分の1を、増額月から1年間、国が負担してくれます。
中小企業退職金共済制度のデメリット
メリットの大きい中退共制度ではありますが、デメリットも少なくありません。
◆1年未満は支給対象外
中退共制度の退職金支給条件は、掛金を納付してから1年以上経過した場合です。対象労働者が1年未満で退職した場合、退職金は支給されません。掛金は戻ってこないため、福利厚生として退職金制度を設けたにもかかわらず、ただ掛け捨てるだけになってしまい、退職金としての機能を果たさなくなります。
◆1年以上2年未満は掛金納付総額を下回る支給額
掛金を納付し始めてから1年以上2年未満で対象労働者が退職した場合、給付額は掛金納付額を下回ります。1年未満同様、福利厚生としての退職金制度の機能を果たさないことになります。ちなみに、2年以上3年6カ月未満は掛金相当額、3年6カ月以上で退職金支給額が掛金納付額を上回ります。
◆掛金を減額することは困難
企業の業績が悪い、労働者の成果が上がらないなどの理由で掛金を減額することは困難です。減額には対象労働者の同意が必須であり、同意が得られない場合は厚生労働大臣の認定書が必要になります。
◆退職理由に関係なく退職金を支給
原則として、労働者の退職理由に関係なく退職金は支払われます。懲戒解雇した労働者に対しては給付金を減額する手続きがありますが、たとえ減額が認められたとしても企業に掛金は戻ってきません。
中退共制度を導入する場合のステップ
中退共制度を導入する場合、以下のステップを踏みます。
- 中退共本部と「退職金共済契約」を結ぶ
- 加入させる労働者の合意を得る
- 加入させる労働者の掛金を決定する
- 毎月、掛金を納付する
- 定期的に掛金を調整する
3の掛金の決定は、基本的に企業が自由に設定することができます。一般的なのは、勤続年数(2年〜5年は1万円など)や賃金(16万円〜20万円は1万円など)を基準にした方式です。
5の掛金の調整は、労働者の勤続年数や賃金に変更があったときに、該当する掛金に変更するためのものです。3との関連性で基本的に掛金は上がっていきます。この場合の掛金額の変更はいつでも可能です。
中退共制度を導入する際の判断基準と注意点
中退共制度を導入する場合、メリットがデメリットを上回るのか、もしくは逆なのか、しっかり比較検討する必要があります。前述のデメリット1、2を例に挙げるなら、入社1〜2年での退職者が多い企業の場合、掛金は掛け捨てになり、福利厚生の役割を果たさずに無駄な投資になってしまいます。この場合、たとえメリット2、3、4の国の助成や税制の優遇があっても、マイナスのほうが勝るケースがほとんどです。
一度掛金を決めて納付が始まってしまうと、掛金を減額することも退職金共済契約を解除することも簡単にはできません。解除するには労働者全員の同意が必要ですし、掛金納付の継続が困難であると厚生労働大臣に認めさせるためのハードルも高いといえるでしょう。
導入の有無はもちろんですが、導入決定後の掛金の設定にも、慎重を期する必要があります。
※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
<取材先>
ブレイン社会保険労務士法人 代表 北村庄吾さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




