就業規則の不備がトラブルになるケースとは? 規則の内容を見直すステップ

会議をしている様子


休暇制度や服務規律といった就業規則に不備があれば、労務上のトラブルに発展してしまうリスクがあります。就業規則に詳しい特定社会保険労務士の下田直人さんに、こうしたトラブルを回避するために注意すべきポイントや就業規則を見直す際の具体的な手法について伺いました。

 
 

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懲戒処分規定に注意


――就業規則が労務トラブルの原因になるケースには、どのようなものがありますか?
 
まず、懲戒処分など重大な規則違反について、きちんと網羅しておきましょう。懲戒規定に載っていない内容では、何かトラブルがあった際でも従業員を懲戒処分にできないので注意が必要です。
 
もう一つ、実際の状況と規定の内容が乖離していないかという点もチェックが必要です。ある中小企業では「懲戒処分を決める際は懲罰委員会を開いて決める」という規定を定めていましたが、委員会を開催するには時間や労力がかかるため、懲罰委員会を開くことが現実的には難しいという事例がありました。この場合、懲罰委員会を開かずに従業員の懲戒処分を決定してしまったら、手続きに反しているために無効になり、裁判になった場合は会社側が負けてしまう可能性があります。
 
他にも、休暇規定で「病気になったときには2年間休職できる」と定めている中小企業もありましたが、2年の休暇を取ることは実際の状況では難しく、現実と規定が合致しない例もありました。こうしたことが起こらないよう、専門書をチェックしたり専門家に相談したりするなどして就業規則を見直すことも必要です。
 
――懲戒処分については裁判に発展するケースもあると聞きます。
 
懲戒処分に関する規則の制定は非常に大切です。押さえておくべきポイントを紹介します。
 
1 懲戒は種類と程度を定める
法律の定めではありませんが、一般的に軽い順から(1)譴責(けんせき)(2)減給(3)出勤停止(4)諭旨退職(5)懲戒解雇があるので、それぞれ明記しておきましょう。
 
2 懲罰委員会は開催できる自信がなければ就業規則に定めない
前述のように作った規則を守ることができないのであれば、最初からルールとして定めるのはやめましょう。
 
3 懲戒事由は具体的に定める
どのようなことをしたら懲戒処分になるかを具体的に定めます。定め方には次のような3つのパターンがあります。

 

  • 「減給処分は次のような場合」など処分ごとに明確にする
  • 軽い処分と重い処分をグループ化し、グループごとに懲戒事由を明確にする
  • 懲戒事由を包括的に定めて、処分の種類とは対応させない


4 退職金との関係にも注意する
退職金制度がある企業の場合は、懲戒解雇した従業員に退職金を支給しない、または減額支給するというルールを定めているケースが一般的です。

 
 

会社の考えを体現するような内容に


――育児休暇などの働き方に対する休暇制度や、パワハラなどに関する服務規律を見直すには、どのような点に注意が必要でしょうか?
 
育児休暇なら育児・介護休業法が、パワハラなら改正労働施策総合推進法というように、関連する法律が改正されたらこまめにチェックし、必要があれば就業規則を改正しましょう。それに加えて一番大事なのは「会社としてどうありたいか」を考え、就業規則に反映させることです。
 
たとえば、ある中小企業では「従業員ががん、心疾患、脳血管疾患の三大疾病にかかってしまった場合、治療に専念できるよう3カ月間は給与が支給されながら、休暇を取ることができる規則」をつくりました。大企業ならばよくある制度かもしれませんが、50人規模の中小企業ではまだまだ珍しい制度でしょう。法律で定められている内容は網羅しつつも、「従業員が病気にかかったら、会社としてどうありたいのか」という社長をはじめとする経営層の思いが表れていて、会社の文化を体現するような制度です。
 
ハラスメントについても、本気で防止したいと考えるなら、どんな制度を作るべきかを従業員と一緒にディスカッションし、その結果が就業規則になるという流れが本来求められるあり方ではないかと考えます。
 
このように法律に沿って見直すだけではなく、会社の文化や考えを体現する内容を従業員みんなで議論していくことができれば、自社にとってより良い就業規則が生まれるのではないでしょうか。

 
 

「会社の未来を考える」ことから就業規則が生まれる


――従業員と一緒になって就業規則をつくっていくことが大切なのですね。従業員を巻き込みながら新しい就業規則をつくるには、どのようにすればよいですか。
 
まず作成目的を明らかにすることです。その際に「新しく就業規則を作り直そう」と呼びかけるのではなく、「会社の未来を考えよう」など会社のあり方を考える大局的なテーマで従業員に呼びかけることが大切です。会社の未来像などを考えていくと自ずとルールにするべきことが出てくるので、それらを就業規則に落とし込んでいくという流れです。
 
そこで出来上がる規則の内容は、専門家が考えたものとさほど変わらないかもしれません。しかし大切なのは、そのプロセスです。従業員が規則を考えたことによって「なぜこの規則、制度ができたのか」を他の従業員に説明できるようになります。そうすると、会社から一方的に押しつけられたルールではないことが理解でき、従業員全体でそれらのルールを受け入れやすくなるといった効果が生まれます。
 
就業規則を見直す作業は、法律が改正されたタイミングでも必要ですが、ある程度定期的に行うのが良いでしょう。私はこういったディスカッションを「真面目な雑談」と呼んでいますが、この議論を行うことで、あまり話をしたことがなかった他部署の人の考えていることが分かりコミュニケーションが生まれます。部署の垣根を越えた横のつながりが生まれるという効果にもつながっていくでしょう。

 
 
 

<取材先>
エスパシオ 代表取締役 下田直人さん
2002年に社会保険労務士事務所を開業。就業規則を使って会社を良くすることを提唱し、本の執筆や、講演なども行う。著書に『なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?』(2005年、大和出版)、『新標準の就業規則』(2021年、日本実業出版社)などがある。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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