就業規則を見直すポイントは? 働き方の多様化や時代の変化に合わせるには

就業規則のイメージ


賃金や労働時間、休日・休暇などの労働条件や、服務に関する事項など従業員が守るべきルールを定めた就業規則は、時代の変化に合わせて見直しが必要です。就業規則に詳しい特定社会保険労務士の下田直人さんに、なぜ就業規則を見直す必要があるのか、そのメリットや見直すときのポイントについて伺いました。

 
 

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より良い就業規則は、人材確保と会社の成長につながる


――従来の就業規則を見直すべきだと考える理由を教えてください。
 
2010年代以降は、これまでの常識を覆すような社会変化が次々と起こる「VUCA(ブーカ)の時代」と言われています。先が見通しにくい時代において、どの企業もこれまで以上に自ら考えて行動できる自律した人材を求めるようになっています。加えて、多くの業界・業種では人材不足が課題です。企業が求める人材を確保することがより難しい状況になっています。
 
こうしたなか、従来の就業規則は「会社の都合に合わせて人を管理したい」という側面に力点が置かれた内容が多い傾向にありました。その根底には、従業員を信用できないという発想があるのでしょう。しかし、このような会社の思惑は、能力の高い人材ほど見破ってしまいます。このような会社の考え方に納得がいかずに従業員が退職してしまったり、従業員が会社を信用しなくなったりする可能性があるため、旧態依然の就業規則は会社にとってプラスにならないでしょう。
 
逆に、「会社の都合だけではなく従業員のためになる規則にしたい」という考えが伝わる内容の就業規則であれば、会社への帰属意識や愛着も高まります。これからの時代は従前のようなリスク管理の視点だけに偏ることなく、企業の存在意義を表す「パーパス(purpose)」やミッション・ビジョン、バリューなどを働き方のルール、つまり就業規則に落とし込むことが必要です。企業と従業員のパートナーシップを結ぶような発想で、新しい就業規則をつくっていくのが自然な流れだと思います。
 
――新型コロナウイルス感染症の影響により、労働環境に生じた変化とそれに対応するための就業規則の変更に必要なことを教えてください。
 
コロナ禍でリモートワークを導入した企業は、通勤が減ったことによる通勤手当の見直しなど細かな修正が必要となります。これらに加えて、対面機会が減ったことで希薄になった社員同士の関係性をどう見直すかといった課題も重要だと私は捉えています。これらを解決するために「経営理念やパーパスを体現するためには、具体的にどんなルールが必要か」について深く考える必要があるでしょう。
 
たとえば、ある企業では従業員が家族を看取る際に有給休暇を申請できる「看取り休暇」制度を取り入れました。この発想の根幹には「大切な人が亡くなるかもしれないときに、従業員が気兼ねせずにその人に会いに行けるような会社でありたい」という経営者のメッセージが込められています。就業規則を通じて従業員のことを大切にしているという思いを伝えることで、従業員同士にもお互いの気持ちを尊重できるような関係性が生まれ、コロナ禍で希薄になりがちだった社内の人間関係が深まる効果も生まれるでしょう。このような視点からの見直しも大切ではないでしょうか。

 
 

就業規則の解説書を作成し、意図や背景を伝える


――見直した就業規則について、従業員の理解を深め、よりよい企業運営を実現するにはどんな注意が必要でしょうか。
 
まず、入社初日は就業規則を伝える日にしてください。新卒者はもちろん、中途採用の新入社員も一番気持ちが前向きな日にしっかりと会社のルールを伝える時間を確保するのはとても大切です。
 
就業規則自体は、どうしても無味乾燥なものに感じられやすいので、そのまま文面を読むだけでは会社の真意までは伝わりません。そこで私は、就業規則の内容がよく理解できるように解説書やハンドブックなどを作って分かりやすく説明することをおすすめしています。そこには「なぜこのような決まりになっているのか」という意図や背景も加えましょう。ただ単に就業規則を読むよりも会社の考え方が格段に理解しやすくなります。
 
また、就業規則を作成するときも書き方にも注意が必要です。「△△しなければならない」ではなく「△△をすると〇〇ができる」に、「〇〇をしてはいけない」ではなく「〇〇することが求められる」といったようにポジティブな書き方に変換すると、従業員の受け止め方は大きく変わります。良い印象を与えられる文章の書き方を工夫することも効果的です。

 
 

会社と従業員のパートナーシップを構築


――時代に即した就業規則を提案することで、どのようなメリットが生まれますか?
 
最も大きなメリットは、会社と従業員の信頼関係、パートナーシップが構築できる点です。人工知能(AI)やロボット技術の発展により、様々な物事が自動化、機械化できるようになっていますが、会社の根幹を担うのは人です。人間の行動と結果は、感情と考え方によって引き起こされるので「どんなルールを作ったら、従業員はどう感じるのか」と、人事担当者はもっと敏感になってこだわるべきです。そうすることで、従業員の行動と結果は大きく変わりますし、経営層は従業員との間により良い関係性を築けるようになります。これは、何ものにも変えられない大きなメリットではないでしょうか。
 
こうしたパートナーシップが生まれることで、離職率が下がることはもちろん、従業員の企業に対する帰属意識を高めることにもつながり、社内外の様々な業務にもその効果が波及していきます。

 
 
 

<取材先>
エスパシオ 代表取締役 特定社会保険労務士 下田直人さん
2002年に社会保険労務士事務所を開業。就業規則を通じて会社を良くすることを提唱し、本の執筆や、講演なども行う。著書に『なぜ、就業規則を変えると会社は儲かるのか?』(2005年、大和出版)、『新標準の就業規則』(2021年、日本実業出版社)などがある。
 
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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